さて、もう10年戻して、「ついに1960年代生まれの女優が朝ドラのヒロインになった」のは1979年春からの『マー姉ちゃん』の熊谷真実である。当時19歳。たしかに、ひさしぶりに若い主演なのでフレッシュだった。個人的な感覚で言うと、彼女が初めて自分より年下のヒロインだったので印象深い。
さて、さらに時を戻して、「ついに1950年代生まれの女優が朝ドラのヒロインになった」のは1969年の朝ドラ『信子とおばあちゃん』の大谷直子である。51年前のことだが、ああ、と納得してしまった。このころはまだ朝ドラはすべて1年ものだった。
彼女は1950年4月3日生まれで、19歳になってすぐから放送が始まった。朝ドラ史上、初の10代の主演である。『信子とおばあちゃん』を見ていたのは少年のころだったけれど、このドラマの持つ新鮮さを何となく覚えている。朝ドラ9作目だった。
NHK朝の連続テレビ小説が始まったのは1961年で、昭和36年である。
最初は「家族もの」のドラマが多かった。
だから主演はそんなに若くない。たとえば、1963年4月から放送の3作目『あかつき』は佐分利信で放送開始時54歳(1909年/明治42年生まれ)。渋い声がとても印象的な役者さんである。
1965年4月から放送の5作目『たまゆら』の主演は笠智衆で放送開始時に60歳(1904年/明治37年生まれ)。主人公としては歴代最高齢である。しかも明治生まれ。明治生まれがテレビドラマで活躍していた時代であった。
明治生まれの人がなくなっていくのがだいたい1970年代で、そのころ日本社会は変質していくのであるが、それはまた別の話。1960年代はまだ明治人の時代でもあった。