緩やかな地価上昇を支えてきた経済活動の前提が、コロナ禍で大きく変わった。影響の深度を注視する必要がある。
国土交通省が発表した今年7月1日時点の都道府県地価調査(基準地価)で、全国・全用途の調査地点の平均が、3年ぶりに下落に転じた。地域別では地方圏と名古屋圏の下げが大きい。用途別では住宅地、商業地とも値下がりしたが、住宅地の方がやや幅が大きめだ。
東京や大阪は過去1年をならせばほぼ横ばいだ。だが、半年ごとにみると昨年後半の上昇から、今年前半は下落となり、商業地は東京が半年で1・6%、大阪は2・2%落ち込んだ。大阪・心斎橋では昨年後半に17・6%上げ、今年前半に18・8%下げた地点もあった。
国交省によると、新型コロナの影響は、用途ではホテルや店舗向け、地域では観光エリアや名古屋のような製造業が盛んな場所で大きめだった。一方、再開発計画がある札幌や福岡の地点では、上昇が続いているという。また、多くの地域では地価の動きは小幅で、「様子見」の状況だと分析している。
過去数年の地価の上昇は、低金利下での緩やかな景気回復に加え、海外からの旅行客向けの商業・宿泊需要が支えだった。後者が突然失われれば、足元が揺らぐのは当然だ。しかも今回の調査はコロナ禍が起きて数カ月時点での評価なので、影響は十分織り込まれていない。
今後、海外からの旅行客はどの程度回復するのか。その他の人の移動やマクロ経済の動向はどうなるのか。現状のような低金利はいつまで続くのかなど、政策対応も含めて見極めが難しい要素が並ぶ。感染の広がり具合や医療・防疫体制などに応じ、地価の動きも当面、見通しづらくなることを覚悟せざるをえない。
これまでの地価上昇が実需に基づくものであれば、下落に転じても経済変動の「結果」の域にとどまる。ただ、バブル的な要素があれば、「売りが売りを呼ぶ」展開になるリスクもある。部分的にではあれ、これまで不均衡が蓄積していなかったかが問われる局面であり、その視点でも精査すべきだ。
コロナ禍は、中長期の経済構造をも左右しかねない。デジタル化でテレワークが広がれば、都心のオフィスやその周辺の土地需要が減ることも考えられる。物流やサプライチェーンの変化、将来の金利動向、暮らしの基本になる住宅政策のあり方など、地価に影響する要因は数多い。リーマン・ショックからの反転の過程で形成されてきた地価の常識が変わる可能性に、留意しなければならない。
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