モモンガ冒険譚!!   作:ブンブーン

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第16話 漆黒の英雄モモンガ

ーーーーーーー

明朝、モモンガば自宅の寝室で目が覚めた。朝早くとは言え、寝心地の良いベッドでの目覚めは凄く気持ちが良い。ましてや隣で最愛の人の寝顔を覗けるというのなら尚更だ。

 

直ぐ隣ではエンリがモモンガに抱き付きながらスヤスヤと心地良い寝息を立てていた。彼女の幸せそうな寝顔を愛おしげに見つめながら、少し乱れた栗色の髪の毛を少しかき上げると、彼女の首筋の至る所にキスマークが付いている事に気が付く。

 

 

(あー……ちょっとヤり過ぎたか?)

 

 

あの夜、モモンガはエンリの家に泊まったのだが、当然ただ泊まるだけで済むはずもなくその晩2人はモモンガの拠点で久し振りに行為に及ぶ事になった。だがその前にモモンガは彼女の為にひとつサプライズを敢行した。

 

トブの大森林で星空観光をする深夜デートというものである。

 

普段村で見ている景色とは違う視点からの星空はエンリに高評価だったようで、デートは大成功に終わった。その後は拠点に戻って…の予定だったのだが、なかなか会えなかった事もあり、我慢出来なかったモモンガは、そのまま大森林でエンリと行為に及んでしまった。

 

結果的に大森林で7回、拠点で18回。

 

まだ足りない気はするがお互い十分に満足する事は出来た。

 

 

(今回はちゃんと周囲に万全を敷いてヤッたから問題はないはずだ!死の盗賊(デス・シーフ)達も「危険分子()いませんでした」って言ってたし!)

 

 

今回の様な対策なら大体は問題ないだろう。

そう思いながらモモンガは満足に頷いた。

 

ふとまだ眠っているエンリへ顔を向ける。昨晩のエンリはいつも以上の乱れっぷりであった為、少し疲れているのかもしれない。まだ寝かせてあげたい気持ちと彼女の寝顔をもう少し見ていたいという欲望と葛藤するがやはり起こすべきだろうと判断した。非常に残念である。

 

 

(バレアレさんも今日は朝早くから始めようって言ってしなぁ。っにしても、何で薬草採取を2日まで短縮させたんだろう?)

 

 

少し気にはなるが都市1番の薬師の孫で有名人なのだから色々と立て込んだ用事があるのも当然だろうも受け止めて、あまり深くは考えなかった。

 

 

 

 

ーーーーーーー

早速、村へ戻り漆黒の剣のメンバー達と合流。薬草採取を始めようとなったのだが、ンフィーレアがまだ来ていなかった。

 

一体どうしたのかと思っていたら、そこへモルガーさんがやって来て彼から詳しい話を聞いた。どうやら体調が優れず薬草採取には参加出来ないとの事らしい。

 

 

「バレアレさん、大丈夫ですかね?」

 

「うぅむ。少し心配であるが、本人も少し休めば良くなると言っていたから、恐らく問題はないのであろう。」

 

「大丈夫っしょ。天才薬師なんだし。」

 

「それにエモットさんも看病するって話でしたし。」

 

 

皆は体調不良のンフィーレアを心配しつつ、彼の為に薬草採取を早めに終わらせようと心を一つにした。その後、薬草採取は大きな問題もなく終わらせる事が出来た。

 

5人はモモンガとエンリとの馴れ初めを聞きながら和気藹々と帰路に着いていた。

 

 

「なぁなぁ!モモンガさんとエンリちゃんって、ぶっちゃけどこまで進んでんの!?」

 

「ちょっ!ルクルット!」

 

「アレっすか?もうヤルとこまでヤー」

 

 

ペテルもニニャの両脇エルボーが炸裂し、ルクルットは悶絶する。そんな光景をモモンガは苦笑いで見ていた。

 

 

「本当にすみません、モモンガさん。ウチの馬鹿が…そ、それで、実際の所は…?」

 

「ニニャ……?」

 

「なんと…ルクルットに毒されたであるか。」

 

「うぅ…ゴメンなさい。」

 

「あー……気にしないで下さい。うーん、コレって真面目に答えて良いのかどうかー」

 

「是非!!」

 

 

復活したルクルットが詰め寄ってくる。

ペテルとダインが怖い笑顔で彼の背後から迫って来ているのに気づくと、彼に2人の鉄拳制裁が及ばぬうちに答えた。

 

 

「そのぉ…ヤッて…ます」

 

 

モモンガは早計な答えだと後悔した。

その後からペテルやダイン、ニニャもルクルットに続く形で色々と聞いてきたのだ。なんだかんだ言って皆気になっていたらしい。モモンガとしては結構恥ずかしいのであまり答えなかったが、特にニニャからの質問が激しかったのは印象に残っている。

 

そういえばあの夜、彼は何か俺に伝えたかった事があると言っていた。結局指輪の暴走により聞く事は出来なかったが、何を言いたかったんだろう。

 

今度機会があれば聴こうと思う。

 

 

「なんだよー、ニニャも結構ぐいぐい行くじゃねぇか!!」

 

 

ルクルットがふざけてニニャのお尻を叩いた。

するとー

 

 

「キャアッ!?」

 

「「……キャア?」」

 

 

皆が予想外の声を上げた彼に首を傾げると、ニニャの両手杖フルスイングがルクルットの頭部に直撃。見事なフルスイングを受けたルクルットは気絶してしまった。

 

以降、村に戻るまでの間、ニニャは真っ赤な顔を俯けたまま黙ってしまった。自然の皆の口数も減り、遂には誰も話さなくなった。

 

 

(なんか変な空気になってしまった……皆よそよそしい態度だし。)

 

 

取り敢えずルクルットが悪いという事で皆の心の意見は一致した。

 

 

 

ーーーーーーー

その日、僕はとてもじゃないがまともに薬草採取など出来る精神状態じゃなかった。皆には体調不良という事で申し訳ないが少し休む事を伝えた。

 

今はエンリの家で休ませて貰っている。色々と辛いから断ったのだが、根負けして空きベッドの一つで横になっている。

 

 

「未だに……信じられないよ…あぁ…エンリ…」

 

 

昨晩、森の中で僕はエンリとモモンガさんが行為に及んでいる場面を目撃してしまったからだ。でも、それだけじゃない。その光景を見ただけで僕は男しても、雄としてもモモンガさんには到底敵わないという事実を嫌というほど思い知らされた。

 

そして、そんな光景を…大好きだった初恋の幼馴染みが目の前で別の男と愛情たっぷりの行為に及んでいる姿を見て、僕は物凄く興奮してしまった。

止めに入るでも、逃げるでもなく…

 

 

「うぅ…」

 

 

思い出しただけで気分が悪くなる。

その時、部屋のドアが開かれた。

 

 

「大丈夫、ンフィー?」

 

 

入ってきたのはエンリだった。

僕は驚きのあまり思わず身体が跳ねてしまった。

 

 

「だ、だ、大丈夫だよ、エンリ!ごめんね、手間かけさせちゃって…」

 

「ううん、私は大丈夫だよ。それより、白湯作ってきたから!」

 

 

僕は身体を起こし、天使の様な眩い笑顔で白湯の入った湯呑みを手渡してきた彼女を見つめた。

こんなにも綺麗で、可愛くて、優しい僕の幼馴染みは…僕が不甲斐ないせいで、他の男に先を越されてしまった。

 

そう考えると涙が少し流れてきた。

 

エンリが慌てて手拭で涙を拭いてくれた。

 

 

「ほ、本当に大丈夫!?やっぱり疲れが溜まってたんだよ、ンフィー。」

 

「う、うん…ゴメン、ごめんね。」

 

 

まだ涙がポロポロと流れる僕をエンリは優しく抱き締めてくれた。彼女の温もりと匂いが鼻腔を擽る。

 

あぁ…なんて心地が良いんだろう。

 

 

「…何かあったらいつでも言ってね。ンフィーは私の友達(・・)なんだから。」

 

「……そっか…そうだよね…」

 

「え?」

 

「ううん、なんでも…ないよ。ありがとう、エンリ。白湯貰うね。」

 

 

こんな時でも僕は恥ずかしさと緊張で彼女を抱き締め返す事すら出来なかった。誤魔化すように湯呑みを手に取ると口へ運んぶ。今でも彼女の匂いが全身を包み込むように自分の周りに漂っている。

 

 

「私こらから畑仕事に出るけど……本当に平気?」

 

「うん、大丈夫。ありがとう、エンリ」

 

 

本当は嘘だ。

ずっと側に居て欲しい。

でも言えない。

勇気が出ないのだ。

いつもそんな意気地なしだから…ほら、もう行っちゃった。

 

エンリが部屋を後にする。

僕は毛布の中で蹲って嗚咽を繰り返した。

 

昼前に皆が薬草採取から帰ってきた。

 

僕は体調がすっかり良くなった…という事にして、早速カルネ村から出ることになった。いつもなら彼女を想い別れ惜しむ僕だけど、今回ばかりは早く此処から出て行きたかった。

 

そして、僕はいつの間にかモモンガさんに対する酷い苦手意識が出てしまっていた。モモンガさんと目を合わせて話す事が苦手になっていたのだ。

 

 

 

ーーーーーーー

薬草採取を無事に終わらせたモモンガ達一行は三日掛けてエ・ランテルへと帰還した。都市はすっかりと夜の世界に変わっており、〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉式街灯が朧げな白色光で大通りを照らしている。

 

しかし、行き交う人が少ないかと言われればそうでもない。仕事帰りの人達やこれから友人らと飲み歩いている者たちが結構数いた。既に酔い潰れた者は道の端っこで酒瓶片手に豪快な鼾をかき、左右に立ち並ぶ店からは賑やかな談笑が聞こえてくる。

 

 

「へぇー、流石大都市と言うだけあって、夜でも凄い賑やかですね。」

 

 

モモンガば素直にそう口した。リアルでの彼は仕事が終われば真っ直ぐ家に帰って『ユグドラシル』をプレイするの繰り返しであった為、三十路になっていながらあまり夜の街の雰囲気というものを知らなかった。そもそも酒などは贅沢な嗜好品である為、モモンガは上司との付き合いで数える程度しか飲んだことがない。

 

 

 

「モモンガさんの故郷は違うんですか?」

 

 

ニニャの質問にモモンガは少し考えてから答えた。

 

 

「そうですね…こうやって夜の街を楽しむ事ができるのは一部の富裕層のみでしたから、自分みたいな平凡な市民には、仕事を終えたら真っ直ぐ帰路につく人が殆どでしたよ。」

 

「そうなんですか……やっぱり貴族なんてー」

 

「ふーん、何だかモモンガさんの故郷も大変なんだな。」

 

「権力者だけが愉悦に浸れるのは国や文化は違えど、何処も同じであるか…」

 

「えぇ、まぁ……でも、この都市の方がずっと活き活きしてて私は好きですよ。」

 

 

するとペテル達は互いに顔を見合わせ笑顔で頷き合った。何事かと思い首を傾げているとペテルが声を掛けてきた。

 

 

「では、モモンガさん!今回の依頼の後、私たちと一緒に飲みませんか!」

 

「え?」

 

 

思わぬ誘いにモモンガは困惑するが漆黒の剣の面々は変わらず微笑を向けていた。

 

 

「良いですね!モモンガさんのお話、僕もっと聞きたいです!」

 

「うむ!酒の席でモモンガ氏の冒険話の続きを聞きたいものである。」

 

「モモンガさん!飲み比べしようぜ!!」

 

 

モモンガは心の底から感動した。こんなに楽しくて嬉しい事があって良いのだろうか。

 

 

「良いんですか…?」

 

「勿論ですよ!採取した薬草をバレアレさんの薬品店まで運んだら行きましょう!」

 

「それは…凄く嬉しいです!」

 

 

この世界に来て初めて人間の友達が出来た。

そんな気がしたモモンガは、荷馬車にいたンフィーレアにも声を掛けた。道中、殆ど黙ったままで話しかけても端的な返事ばかりで何かあったのかと皆が心配していた。もしその酒の席で何か悩みがあるのなら打ち解けて貰いたいと思った。しかしー

 

 

「……いえ、ぼ、僕は…いい…です。」

 

 

またもや目を逸らされてしまった。

道中ずっとだが特に自分に対してこの調子だ。今でも正直地味に傷付く。

 

 

(うーん、俺気づかないうちに何かしちゃった?)

 

 

何かしちゃったどころの話ではないのだがモモンガはそんな事実を知る由もなかった。そんな彼のあからさまに怯えた様な態度には漆黒の剣のメンバー達も違和感を感じていた。

 

 

「(モモンガさん…本当になんもしてない?)」

 

「(…本当に俺はなにもしてませんよ)」

 

「(気になるであるな…体調が優れないとは少し違うようである。)」

 

「(しっかし…なんだってモモンガさんにだけあんなビクビクしてんだ?)」

 

「(おい、ルクルット…)」

 

 

色々な疑念は尽きないが、一行は籠に詰め込んだ大量の薬草を乗せた荷馬車の荷車を薬品店の裏口へ入れた。あたりはすっかり暗くなっており、大通りから少し離れており、バレアレ薬品店の周りは大分暗くなっていた。灯無しは不便である為、ンフィーレアは魔法の明かりが灯ったランタンを手に御車台から降りた。

 

裏口の扉の鍵をンフィーレアが開ける。

 

ガチャンッ!と鍵が外れる大きな音が聞こえ、建て付けが悪いのか扉を開ける音も軋むように響いた。

 

中は倉庫の様で幾つもの樽が積まれていた。乾燥した薬草独特の臭いが漂う倉庫だが、あの積まれた新鮮な薬草の臭いと比べれば大分マシと言えるだろう。

 

 

「よし、それじゃあ薬草を運びますね。」

 

「ひぃう…!」

 

 

出来るだけ明るく声を掛けたつもりなのだが、どういうわけかンフィーレアは怯えた様な声を上げた。ビクビクしたその態度は明らかに自分に対して何かトラウマ(・・・・)に似た何かを意識しているように見える。

 

 

「えっと…」

 

「あ、す、すみません。お願いします…あそこに積んでいただければ良いので……あのぉ、僕…用事があるので…少し外します。」

 

 

モモンガ達が声を掛けるよりも前にンフィーレアは足早にその場を後にした。

 

 

「用事って…何処へ?」

 

「多分、薬師組合なんでしょうけど……」

 

「やっぱりおかしいよなぁ〜。まぁ、今は取り敢えず薬草を運ぼうぜ。」

 

「そうですね。」

 

 

モモンガ達は荷下ろしの作業を再開した。それなりの数ではあるが、流石に5人ともなれば予定よりも早く終えつつあった。

 

 

「あとはそれで最後ですね。」

 

 

モモンガが最後の薬草の詰まった籠を手に取ろうとした瞬間、その動きが止まった。皆は彼の動きが止まった事に首を傾げると、モモンガは静かに口を開いた。

 

 

「皆さん気を付けて下さい……囲まれてます。」

 

 

ーーーーーーー

ンフィーレアがトボトボとした足取りで暗い路地裏へと入って行く。それを遠目から眺めている2人の人影がいた。

 

 

「ちょっとちょっとカジっちゃーん、なんか予定と違うんじゃなぁーい?」

 

 

独特な間延びした喋り方をする黒いフードを被ったマントを纏う女性がもう1人の人物に語り掛けた。その表情はマントの影で様子を伺えないが、僅かに見える口元から少し不快感が滲み出ていた。

 

 

「ふむ…まぁ良い。目的対象のンフィーレア・バレアレが1人でノコノコと出て来たのは嬉しい誤算だ。」

 

 

もう1人の人物は男性で、頭髪も睫毛も眉毛も無く、目は窪み、ローブから見えるその顔と指は痩せ細り生者とは思えないほどに顔色が悪い風貌は恐ろしさを感じる。身なりも血のように赤黒いローブを纏い小動物の頭蓋骨を繋げたネックレスを首に掛けている。

 

彼こそが近隣諸国の裏で暗躍し続けている邪教組織『ズーラーノーン』の幹部『十二高弟』が1人、カジット・デイル・バタンデールである。

 

ズーラーノーンとは強大な力を持つ盟主を筆頭と、その下にいる十二高弟と高弟に忠誠を誓った弟子達によって組織された邪悪な秘密結社である。主に死霊系に長けた魔法詠唱者からなり、アンデッドを使った過激な活動を行っている。

 

故に近隣諸国からは共通の敵として認知されているカルト集団である。

 

 

「わたしはあの一緒にいた冒険者達を嬲り殺せると思って楽しみにしてたんだよぉー?欲求不満だなぁー」

 

「…余計な気を起こすんじゃあないぞ。目標をアジトまで連れて行く、それが目的なのだからな。元々その冒険者共はついでの予定だったのだ。寧ろ、余計な足跡を付けずに済んだと喜ぶべきではないか?互いの利益の為にもな。」

 

「チッ…はいはい分かりましたぁー。んじゃあ、ちゃっちゃと捕まえて来るかさぁー。カジっちゃんはあの店から誰か出て来たら教えてねぇー。」

 

 

女は猫の様に柔軟で軽やかな身のこなしで、あっという間に男の目の前から消えてしまった。

 

 

「フン…『店から誰か出て来たら』か。店から出てこないようにではなく、な。」

 

「宜しいのですか、カジット様?」

 

「信用出来ません。ンフィーレア・バレアレをうっかり殺してしまうなどという可能性もあります。念のため我らが監視役として向かいますか?」

 

 

部下達からの進言をカジットは鼻で笑った。

 

 

「やめておけ。行ったところで事故だ何だと適当な理由を付けて殺されるだけだぞ。特に今の彼奴は危険だ。全く…とんだ性格破綻者を引き込んだものよ。お前達はそのままあの建物の周りに魔法を掛けて音を遮よ。もし誰かが現れるようならワシに知らせるのだ。」

 

「「ハッ」」

 

 

カジットは深い溜息を吐いた。

5年の歳月を掛けて漸く成就する今回の儀式。あの様な輩に台無しになどされてはたまったものではない。しかし、あの女が今回の儀式…およびズーラーノーンという組織にとっても今のところは(・・・・・・)貴重な戦力である事は事実だ。

 

 

(貴様が盟主様や組織に忠誠が無いことなど分かりきっておるわ。ズーラーノーンに加わり、十二高弟に身を置くのも…全てはカモフラージュのために利用しているに過ぎない。だからこそ、ワシもお前の強さを利用させて貰うぞ。)

 

 

暫くするとあの女が戻って来た。

年若いとは言え男を軽々と肩に担いで持って来るその膂力と手際の良さは流石と言える。

 

女はその深く被ったフードを取るとその顔を露わにした。

 

その見た目は20歳前後くらいの若い女性で髪型は金髪のボブカット、肌は程良く色白い。顔立ちも非常に整っており、パッと見はネコ科動物を思わせる可愛らしさがある。しかし、その瞳と雰囲気からは猫のような可愛らしさのカケラもない……獰猛な肉食獣に似た危険な雰囲気があった。

 

 

「殺してないだろうな?」

 

「あったりまえじゃーん。ぜーんぜん簡単だったよー。もちょっと抵抗しても良かったのになぁー。」

 

「用は済んだ。行くぞ、クレマンティーヌ。」

 

 

彼女はカジットと同じズーラーノーンの幹部、十二高弟の1人でクレマンティーヌと言う。そして、スレイン法国最強の特殊部隊『漆黒聖典』の元隊員第9席次で『疾風走破』の通り名を持っていた。

 

元隊員と言っても正式に引退したわけではない。

 

彼女はとある理由から法国を裏切り国外へ逃亡。その際に最秘宝の1つであるマジックアイテムを法国の巫女姫の1人から強奪。

その結果、彼女は法国から狙われる立場となり、法国から逃げ続ける日々を送っていた。

 

彼女は法国の手から逃れる為にあらゆるツテを使い秘密結社ズーラーノーンへ接触し、自らを売り込んで現在に至っている。

 

クレマンティーヌは舌打ちした。

2人はその場を後にし、地下下水道に通じる秘密路を使ってアジトへと向かった。

 

 

「ねぇーねぇー、これからこの子に私が持ってきたあのマジックアイテムを使わせるんでしょー?」

 

「そうだ。分かりきった事を聞くでない。」

 

 

その言葉を聞いたクレマンティーヌはニンマリと笑った。それはこれから起きる彼の悲劇を想像しての邪悪な笑みだ。振り向いてはいないが前を歩くカジットは彼女がそんな笑みを浮かべているのが何となく分かっていた。

 

 

(あるとは思えんが、悪戯にあの小僧を殺されないよう注意は必要か。全く、性格が破綻しているだけでも厄介だと言うのに……英雄級の強さも持つとは。)

 

 

彼女は組織内からも嫌われている。それは彼女の性格もあるが、一番の理由は盟主への忠誠心が皆無にも関わらず十二高弟の座を得ているからだ。では何故、彼女は幹部クラスである十二高弟の1人になっているのか。

 

理由は単純でその『強さ』を買われたからだ。

 

彼女がズーラーノーンに加入する際、十二高弟の1人が「あの女はいずれ組織に厄災を招く」と言いってきた。加入は認めず、組織を知られたからには彼女はその場で殺されねばならなかった。

そこで十二高弟の1人が名乗りを上げて彼女を始末しようとした。

 

だが結果はその者の敗北…逆に殺されてしまったのだ。

 

別の場所からその一部始終を眺めていた盟主は、彼女のチカラは使えると判断し、クレマンティーヌの組織への加入を認め、空いた十二高弟の席を彼女に譲ったのだ。

 

組織の者達は反発しようにも盟主の決定に口出し出来る筈もなく、受け入れるしかなかった。それにクレマンティーヌ本人に強気で言える者も極めて少ない。あまりにも強すぎるが為に、同じ十二高弟でも彼女に面と向かって反発できる者は殆どいない。

 

カジットはその数少ない者の1人なのだが、彼女に勝てると思うほど自惚れてはいない。

 

 

(万が一、ヤツがワシの障害となった場合…ワシが勝てる見込みは多くて4割…いや、3割がいいとこだろう。)

 

 

だがそれもカジットが望む条件が全て整った場合に限る。もしこの場で戦うとなれば十中八九殺されるのは目に見えている。

 

2人が協力関係を築けているのは、お互いの利益に繋がっているからだ。

 

クレマンティーヌがズーラーノーンに加入した目的は、自分を追っている連中から逃げ切る為だ。

 

ワケあって彼女は逃走の日々を送っている。

 

カジットも彼女の件は聞いている為、逃亡の手助けをする代わりに今回の儀式への協力を申し出た。

 

クレマンティーヌはその提案を了承。丁度、ズーラーノーンから抜けようとも考えていた為、そのまま両方から逃げ切ろうと思っていた。

カジットとしても彼女がいなくなれば組織としても安心できると踏んでいた。

 

 

(戦力として見るならヤツがいなくなるのは惜しいが、遅かれ早かれ組織に何かしら悪影響を及ぼす事は明白。)

 

 

カジットとしても儀式が成功さえすれば後はどうでも良かった。彼にとって今回の儀式を成功させる事こそ何よりも重要なのだ。

 

 

(しかし……)

 

 

カジットはンフィーレアが持つタレント能力を考えていた。

 

 

(末恐ろしい能力よ。どんなマジックアイテムも装備可能とは……法国であれば間違いなくあの小僧は国家総出で保護対象となるだろうに、王国は何故放置しておくのか…理解に苦しむ。)

 

 

だがそのおかげで苦労なく誘拐する事が出来た。更に彼女が持ってきたマジックアイテム……スレイン法国最秘宝の一つ『叡者の額冠』があれば今回の儀式を大幅に進める事が出来る。

 

これに関してはクレマンティーヌに感謝している。

 

 

「む?…何だ?」

 

 

カジットは懐に手を当て何かに話しかけていた。

 

 

「ククク…分かっておる。直ぐに負のエネルギーを注がせよう。」

 

 

邪悪な微笑を浮かべる彼にクレマンティーヌが間延びした口調で話しかけて来た。

 

 

「ねぇー、あの額冠を使う前にさぁー……ちょっとだけコイツで楽しませてもいーいー?」

 

 

カジットは歩みを止め、不愉快さを隠すでもない表情を向けた。だが、これ以上彼女を抑圧させたら何をしでかすか分からなかった。殺す予定だった連中を殺せなかったのだ…残虐嗜好の性格破綻者の彼女にこれ以上の我慢は危険だろうと判断した。

 

カジットは仕方なく了承した。

流石に殺す事はないだろうし、そうなると困るのは彼女の方なのでその心配はすぐに消えた。

 

要は生きていれば問題ないのだ。

 

 

「……分かった。だが、儀式の再調整が終わるまでだ。準備が整い次第、直ぐに始める。良いな?」

 

「やったーー!カジッちゃんだーい好きー!」

 

「……殺すなよ?」

 

「もーー、分かってるってー」

 

 

クレマンティーヌは上機嫌で舌舐めずりをした。

 

 

「あーー…楽しみ」

 

 

ーーーーーーー

「囲まれている」…その一言に場の空気が一気に緊張感で張り詰められた。皆が一斉に武器を手に取る中、モモンガは《伝言(メッセージ)》を配下にとばしていた。

 

 

《報告ご苦労…この店を囲っている奴らはどんなのだ?》

 

《ハ。黒いローブを纏ッタ者達がガ5人程でス》

 

《恐らク魔法詠唱者でアル可能性が高イかと》

 

 

「ふむ」とモモンガは少し考えた。実は裏口を開けた時から妙な違和感を感じていた。店の表口は明かりが点いており、チラッとだが「おばあちゃん、まだ起きてたんだ」とンフィーレアが独り言を言っているのが聞こえた。

 

彼の祖母、リィジー・バレアレは結構な歳だがまだ耳も目も全然衰えていないと聞いている。裏口の鍵を開ける際、かなり大きな音が聞こえた為、普通なら音に気付く筈だ。それが無いという事は何かしらの遮音魔法…《沈黙(サイレス)》か何かを仕掛けた可能性が高い。

 

 

(誰にも悟られずに行う必要があった……それにここは都市1番の薬師の店と考えると、奴らの狙いはこの店の主人、リィジー・バレアレ……いや、まさかー)

 

《モモンガ様。》

 

 

そこへデスシーフの一体から報告が入った。

何と黒装束の集団が突如、店から離れていったのだ。何故という疑問が頭をよぎるが、直ぐにその答えは出てきた。

 

 

「ンフィーレアか……チッ!」

 

 

モモンガはすぐに気付けなかった自分に苛立ちを覚えた。彼の異能(タレント)が規格外に優れているのは都市に住む者皆が知っている。その黒装束の集団の狙いは彼のタレントだ。

 

モモンガは直ぐにデスシーフ達に指示を送った。

 

 

《ンフィーレアを探せ。見つけ次第、報告しろ。》

 

()()

 

 

取り敢えずデスシーフ達からの報告待ちだ。モモンガも索敵魔法や情報魔法で彼を探したいのだが、手掛かり無しで探すとなると高位の魔法を行使する必要がある。漆黒の剣の面々がいるこの場で使うわけにはいかないし、その黒装束が再び此処に戻ってこないとも限らない。

 

 

《デスシーフの見立てでは、彼らでも十分に対処可能と言っていた。つまりレベルは少なくとも30以下。俺の敵では無いが、漆黒の剣は11 〜13…そいつらが30以下だとしても20…いや、15以上あると彼らでは少し危険だ。》

 

 

彼らを…この世界で出来た初めての人間の友を失うわけにはいかない。特にニニャは貴族に連れ去れた姉を救うという目標がある。

絶対に守らねばならない。

 

そこへデスシーフから報告が入った。発見の報告かと思いそのまま彼を護衛しろと伝えたかったが…どうやら一足遅かったようだ。

 

 

《ンフィーレア・バレアレの物と思ワれる衣服ノ一部が裏通りに落チてオりマした。》

 

《……誠に…申し訳ナク…》

 

《後命令下さレば今すぐニ自害いタシまー》

 

《いやいやいやいや待て待て待て待て。》

 

 

少しでも命令を遂行出来なかったらすぐにこんな事言うのだから本当に疲れる。これじゃあまるで自分はブラック企業の悪徳上司みたいじゃないかとため息を吐きたくなる。

 

兎にも角にも彼が攫われた事は間違いない。

連中の狙いは不明だが『どんなマジックアイテムでも装備可能』という破格のタレント持ちを狙うのだからロクなことじゃないだろう。

 

命に関わるかも知れない。

事態は一刻の猶予も許されない。

 

 

「あ、あのぉ…モモンガ、さん?」

 

 

固まった俺をミナが心配した目で見ている。そこへンフィーレアの祖母、リィジーが別の扉から入って来た。

 

 

「急に物音が聞こえたと思ったら、戻っておったのか。ご苦労じゃったな。しかし、裏口の扉が開く音は聞こえんかったぞ?……む?ンフィーレアは何処じゃ?」

 

 

やはり遮音魔法を敷いていたようだ。

モモンガはリィジーと初対面で、それなりに高齢なのだろうが皺だらけの顔でも活き活きとしていた雰囲気がある人だった。この人が都市1番の薬師なら後でこの世界のポーション作成を見てみたいと思ったが、今はそれどころではない。

 

丁度、良いのでモモンガは皆に自分が感じ取った異変を伝えた。

 

 

「つまり…バレアレさんはその黒装束の連中に連れ去れたかも知れない、と?」

 

「恐らく。一度この建物を包囲していましたが、直ぐに引き上げた事と《沈黙》を敷いていた事を考えると…」

 

「確かに……バレアレ氏はまだ薬師組合から戻って来ていないのである。組合は此処から歩いて5分も掛からない場所だというのに。」

 

「く、組合にも聞いてみましょう。」

 

「あぁ、俺が行ってくる。」

 

 

皆は少し動揺してはいたが流石多くの修羅場を経験した事があるだけに判断と理解が早く直ぐに冷静さを取り戻している。

 

一番取り乱しているのはやはりリィジーだ。

 

 

「わ、ワシの孫が!ンフィーレアが!?」

 

 

まぁこれが普通の反応なんだろう。

驚愕と衝撃でリィジーの足元は覚束ない。そのままフラフラとモモンガの所まで行くと倒れそうになる寸前でモモンガが彼女の肩を掴み止めた。

 

 

「気をしっかり、リィジーさん。」

 

「す、すまない。……なぁ、あんた達に頼みが…いや、依頼したい事があるのじゃがー」

 

「ンフィーレアさんの救出…ですね」

 

 

リィジーはモモンガを見て力強く頷いた。

 

 

「お任せください。それとこれは依頼と捉えないで下さい。困っている人がいたらー」

 

「助けるのが当たり前!!」

 

 

急に背後から大きな声でモモンガが言おうとしたセリフが聞こえた。モモンガが振り返ると、杖を握りしめてやる気満々のニニャがそこに立っていたのだ。

 

 

「えぇ、そうです!」

 

 

モモンガは少し嬉しそうに笑った。

 

 

「『困っている人がいたら助けるのが当たり前』、であるか。簡単なようで難しい言葉であるな。」

 

「モモンガさん、自分達も手伝います。」

 

「まだ依頼中でもあるしな!」

 

 

この一体感になる雰囲気…昔の仲間達を思い出す。懐かしさを感じながらモモンガはこれからの冒険者稼業も彼らと一緒でいたいと思うようになった。しかし、すぐにそれは危険だと判断する。

 

 

(レベル差が激し過ぎる……まぁ、今後も友人として付き合ってくれたらー)

 

 

嬉しいかな。そう思いながらモモンガは皆に指示を仰いだ。ルクルットが薬師組合でンフィーレアが来たかどうかの確認を、リィジーにはニニャが、ペテルとダインは冒険者組合へと向かった。

 

自分は自分で調べると伝えその場で皆と別れた。

一応、皆には其々デスシーフを1体ずつ護衛として付けている。

 

早速、ンフィーレアが消えた場所へと向かい、薄暗い路地裏へとやって来た。

 

 

「此処がそうか…む?アレか」

 

 

道の真ん中に落ちている布の切れ端。薬草をすり潰した強烈な臭いが微かにかおる。間違いなくンフィーレアのだと判断した。

 

ここへモモンガが直接来る必要があったのは、デスシーフ達は遺品を使い持ち主を見つけるスキルや魔法は有していなかったからだ。彼らが優れているのは隠密スキルであって、索敵に関してはまた別なのだ。ましてや『無くしたモノを見つける』のは少し特殊なスキルが必要になる。

 

モモンガは布切れを取ると情報収集魔法を発動させた。勿論、対情報収集・索敵・探知魔法による対策も怠ってはいない。

 

 

「ふむ……これは…『共同墓地』か?」

 

 

見えた場所はエ・ランテルの共同墓地。それは城壁外周部内にあるのだが、外周部内1/4を占める広大な墓地だ。どうやら彼は此処にいるらしい。

 

 

(あの短時間の間に此処まで移動出来るとは……《上位転移》か?それとも単純に類稀なる膂力を活かしただけか?)

 

 

すると墓地全体に大きな動きがあった。何故だか不明だが大勢の人集りが出来ていた(・・・・・・・・・・・・)のだ。「え?いつの間に?」と内心焦ったが、それも直ぐ別の意味の焦りに変化した。

 

そこに現れたのはただの人集りではなく、アンデッドの大群だったのだ。

 

 

動死体(ゾンビ)骸骨(スケルトン)だと?……しかしこの数はー」

 

 

そう、数が余りにも多すぎるのだ。これはモモンガの様に死霊系魔法に特化した者でも召喚数を上回っている数だ。

 

 

(アンデッド自体はこの世界でも普通に存在するし、共同墓地にも時折出現しているとは聞いている。だが、この数は明らかに異常だ。何も無くてこんな現象が起きる筈がない。)

 

 

そう考えると誰かが…それもあの数から考えて数百人単位の死霊使い(ネクロマンサー)か、もしくはー

 

 

「第7位階を行使する存在…」

 

 

その2つ以外考えられなかった。

モモンガが想定するもう一つの可能性は第七位階魔法《不死の軍勢(アンデス・アーミー)》の行使である。《不死の軍勢》ならば1人であれだけの数のアンデッドを召喚出来るのも納得は出来る。

 

これはそのままの意味で、第七位階魔法を会得している者がこの世界にいると言うことだ。つまり、モモンガの『上位魔法無効化Ⅲ』の影響を受けずにダメージを与えてくる脅威となる存在があの墓地にいる事を意味する。

 

モモンガの警戒レベルが一気に上昇した。

 

 

「第七位階を扱える敵と戦うのは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)戦以来だな。」

 

 

モモンガは過剰とも言える対策を仕掛けながら急いで共同墓地へと向かって行った。

 

 

 

ーーーーーーー

その頃、共同墓地ではこれまでに無い大混乱が起きていた。

 

 

「鐘を鳴らせ!!衛兵駐屯所に救援を要請しろ!」

 

 

非常事態を報せる鐘が遠くまで響き渡る。

今、共同墓地では数千体に及ぶアンデッドの大群が発生していた。石造りの堅固な壁で囲まれた墓地で唯一の出入り口である鉄格子の門目掛けて、濁流の如く押し寄せて来たのだ。

 

 

「壁の上からアンデッド共を槍で突き刺せ!!」

 

 

墓地の巡回と時折発生して来るアンデッドの警戒に当たっていた衛兵隊長の指示で、部下達が一斉に壁下に向けて槍を突いた。瞬く間に周囲は吐気を催す程の腐敗臭に包まれるが、そんな事を気にしている場合では無い。

 

突けど突けどもアンデッドの数は減らない。それどころかこのまま万を超える勢いで益々増える一方だ。

 

もし此処を突破されたら、このアンデッドの大群が一斉に市街地にまで及ぶだろう。次々と壁の上から槍を突いていた衛兵達がアンデッドに捕まり引き摺り下ろされていく。門を叩く力も数も増していき、もういつ門が破壊されてもおかしくはなかった。

 

 

「くっ!このままでは…!」

 

 

とても援軍到着までもたない。門が破られれば死の濁流が一気に押し寄せて来る。誰もが諦めかけたその時ー

 

 

「うっわ…!多いのは分かってたけど、実際近くで見るとかなり気持ち悪……ん?あ、いやいやお前たちのことじゃないよだからやめてナイフを自分の喉元に突き立てないでお願い。」

 

 

そこに漆黒の全身鎧を纏った男が現れたのだ。少し独り言の様な言葉が気にはなるがおそらく部下が呼んだ増援の冒険者だろう。しかし、彼の胸元に光る銅のプレートを見て、来たところで大した助力にはならないと悟る。

 

 

「き、キミ!ここは危険だ!直ぐに引き返しー」

 

「ちょっと失礼。」

 

「え?な、何をー」

 

 

そう言うと漆黒の騎士はその身なりからは想像出来ない程の身軽さで、目の前の壁をたった1度の跳躍で飛び越えたのだ。

 

 

「よっと…!それじゃあ行きますか!あ、そうだ。」

 

 

壁の向こう側に降り立った漆黒の騎士は、目の前にいるアンデッドの大群など気にもしない様子で此方を振り返った。

 

 

「念の為、市街地の人達を避難誘導を宜しくお願いします。あと、多分この奥に攫われた人がいますので。」

 

「え?あ、ひ、避難誘導は分かるが、さ、攫われた人?一体誰がー」

 

「ンフィーレア・バレアレさんです。ではよろしく。」

 

「あぁ!?ちょっー」

 

 

漆黒の騎士は駆け出した。そして、無尽蔵に地を埋め尽くしているアンデッドをその2本のグレートソードを用いて次々と斬り伏せていった。あんな大剣を片手に…それもまるで棒切れでも振り回すかの如き膂力を持って、たった一振りで数十体ものアンデッドが消滅していく。

 

数分と掛かる前に門前にいたアンデッドの大群は自分達でも対処できる数にまで減っていた。

 

漆黒の騎士は更は疲労を微塵も見せず、そのまま奥にいる別のアンデッドの大群の中へと消えていった。

 

 

「隊長…自分は夢でも見ているのでしょうか?」

 

「いや、これは現実だ。俺たちは今…伝説を目撃したのかもしれない。

 

「英雄…『漆黒の…英雄』。」

 

 

誰かがそう呟いた。

まさにその通りだと思った。

 

不死者が蠢めく大地を駆け抜ける月明かり照らされた漆黒の閃光ば、行く手を阻む存在を容赦無く殲滅していく。

 

その姿はまさに『英雄』だった。




R-18版のアンケートは締切らせて頂きます。
ご協力誠にありがとうございます。

漆黒聖典で通り名不明な第一席次と第三席次、第六席次、第十一席次。
どんなのが宜しいでしょうかねぇ?
皆様からの案も参考にしていきたいと思います。

個人的には
第一席次『神彩英槍(しんさいえいそう)

第三席次『暗黒魔導(あんこくまどう)

第六席次『蒼聖大剣(そうせいたいけん)

第十一席次『明鏡止水(めいきょうしすい)

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