# コロナ専門家の家族旅行
ひなびたお寺で「ずらし旅」
新型コロナウイルスと最前線で闘う感染症専門医
忽那 賢志
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庭園鑑賞は感染症対策として最強
©忽那賢志
これからは感染を広げないことと経済を回すことを両立させていかないといけないので、新型コロナウイルスとは「うまい付き合い方」を探っていく必要があります。経済を回す上でも、また、人としての生きがいという意味でも、旅は大事なファクターですから、どうやったら「コロナとうまく付き合った」旅ができるのか、みんなで考えていかなければいけませんよね。その意味で、この「#ずらし旅」企画は本当に素晴らしいコンセプトだなと思いました。どれくらい素晴らしいと思ったかと言うと、私も「ずらし旅」の提案ができますよ、と自分からこの企画に手を挙げさせていただいたくらいです(笑)。
私が提案するのは、お寺巡り。それも「ひなびたお寺」の「お庭観賞・仏像鑑賞」です。
お庭観賞は、「屋外」で「しゃべらない」ですよね。ひなびたお寺だったらそもそも「人が少ない」。「屋外」×「発語がない」×「人が少ない」。この3要素の掛け算は感染症対策としては最強です。仏像鑑賞は屋内ですけど、「しゃべらない」ですよね。仏像鑑賞もマスクを着けて、人との距離を確保して、黙って眺めていれば安全だと思います。
私は昔からお寺が大好きでして。でも子どもの時は修学旅行で京都・奈良へ行ったのにあんまり記憶がないので、大人になって働き始めてからですね。医者になって、人の生き死にに関わるようになったことも関係しているのかもしれません。
お寺の中でも、ひなびたお寺がもともと好きなんです。これは、人混みが苦手、静かなところが好き、という好き嫌いの話なのですが。多くの人にとってお寺と言えば京都でしょうが、私にとっては、人の少ない滋賀とか奈良とか福井ですね。私は20代を山口で救急医として過ごした後、30歳を目前に感染症専門医に転身し、感染症の最初の研修は奈良の病院でやりました。それはもう単純に、お寺が見たいから奈良にしたんです。
©忽那賢志
奈良で好きなのは、〈秋篠寺〉と〈慈光院〉です。いい感じにひなびてます。〈秋篠寺〉の〈伎芸天〉、最高に美しいです。〈秋篠寺〉は苔もいいですね。〈慈光院〉は大和郡山市にあるお寺で、その庭は非常によく手入れされていて素晴らしいです。お寺の三大要素といえば、庭園と仏像と建築ですが、私はこれに加えて、階段です。石段を下から見るのが好きです。奈良だったら〈室生寺〉とか〈長谷寺〉ですね。
実際に家族で滋賀と奈良のお寺巡りに行ってきました。
先日、東京都民の都外への移動自粛が解除されていたタイミングに、家族5人で実際に新幹線に乗って滋賀と奈良のお寺巡りに行ってきたんです。
一番下の、小4の男の子は、もう電車狂いで。この間、新幹線が走っているのを見に行くことはあっても、乗ることはずっとなかったので、ものすごく楽しんでいました。「N7なんとか系と700なんとかとの違いはここを見ればどう」とか説明してくれるんですけど、私が興味ないので頭に入んないんですよね(笑)。新幹線が感染症的観点で気になる方はいると思いますが、これも「しゃべらない」、発語がなければクラスターは発生しにくいと思います。座席を回転させない、会話しない、この2点が大事ですね。
滋賀での行き先は、まず、大津市堅田の〈居初氏庭園〉。いそめし、と読みます。もうひとつは、高島市の〈旧秀隣寺庭園〉。対照的な2つのお庭なのですが、私の大好きなお庭です。え!? あんまり知られてないですかね? 私がもともとずれてるんですかね(苦笑)。たしかにどちらのお庭にもほとんど人がいませんでしたね。今回の旅では、ほかにも長浜で2つのお寺を巡りました。奈良では先に挙げた〈慈光院〉や〈秋篠寺〉にも行ってきましたが、長浜と奈良の旅についてはまた稿を改めて。
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〈居初氏庭園〉は、江戸時代の著名な茶人で、千利休の孫・千宗旦の弟子でもある藤村庸軒と地元郷士の北村幽安とが協力して作庭したものと伝えられています。だからでしょうね、茶道の世界、わびさびの世界なんです。シンプル、ミニマルで、飛び石の配置ひとつとっても、非常に洗練されていておしゃれ。
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その上、壮大な琵琶湖が借景になっているんです。茶室の書院から庭を見ると、額縁のように、庭越しに湖の水平線が見えて、さらに湖東の山々まで視野に入ります。こんな借景、なかなかないですよね。ここに行くと、本当に心が落ち着きます。いまも個人の住居で(その意味では、「お寺巡り」と題していますが、ここだけはお寺ではありません)、居初さんが丁寧に管理なさっているんだと思います。そういうのも、ありがたいですよね。なので、見学したい場合は予めお電話を入れておくのですが、台帳を見ると一日に数組といった感じで。私は朝イチの9時に伺ったんですが完全に貸切状態でした。
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〈旧秀隣寺庭園〉は、〈居初氏庭園〉からレンタカーで約1時間、高島市にあります。〈興聖寺〉というお寺の敷地だそうです。山の中のへんぴな所にありますが、素晴らしいお庭が突然出てくるので、びっくりしますよ。こちらは、〈居初氏庭園〉とは打って変わって、荒々しい。石も大きいし、石組みもすごくかっこいい。迫力があります。
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借景は山、大自然の中のお庭です。現代的なものが何も目に入りません。子どもたちがヘビの皮見つけて遊んでたくらい、大自然です。とはいえお庭は丁寧に手入れされています。こちらも、私たち家族が入って30分くらいしてようやく1組、というくらい人がいませんでした。
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若い頃は、それこそ重森三玲さんの『日本庭園史大系』とか、いろんな日本庭園の本を読みあさってました。仏像も、土門拳さんの高い高い『日本の仏像』を買った時は、奥さんに怒られましたねえ(笑)。そうやって鑑賞するための知識をいっぱいつけて、見方がわかってくると楽しみも増して、とやってたのですが、ある頃から、何にも考えずに見るようになりましたね。鑑賞を仕事としてやっているわけじゃないんだし、理屈で捉えすぎたり、分析しすぎたりってのは、やっぱり疲れますよね。この枯滝がどうだとか、これが亀石だなとか言っていると。一周回ったんでしょうね、ちょっと違うな、もっと楽に見ようという感じになりました。
家族でお寺巡りって少しハードルに感じるかもしれませんが、うちは、小さい頃から旅と言えば、必ずお寺を入れていたので、英才教育が効いてますね(笑)。誰も文句言いません。みんなで楽しむコツとしては、少しでいいので、予習を一緒にすることですかね。歴史とか成り立ちを少し頭に入れておくだけで、楽しめる深さが変わってくるので。そして何より大事なのは、子どもが飽きてきたな、と思ったらすぐ出てあげることですね。
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「みんなが好き」な旅から脱却しましょう。
今回のこの2つの大好きなお庭に行ったのは、12年ぶりだったんです。前回は、ちょうど感染症医になろうとしているころでした。まさかあの時、12年後にこれほどまでの感染症が世界を襲い、自分が日本の最前線で闘っているとは想像していませんでしたが、お寺もお庭も仏像も、歴史がすごくすごく長いので、自分の10年程度の感染症医としての日々なんて、まったく取るに足らないと心の底から思いましたね。
そして、12年前も家族で〈居初氏庭園〉や〈旧秀隣寺庭園〉に行ったのですが、今回、上の子はもう中学生になっているし、この間に3人目の子どもも生まれて家族が増えたという変化もあります。子どもたちと一緒に写真を撮って、私も写真が好きなので、「どう? このアングル?」なんて言い合うこともできて。大好きなお庭を子どもたちと共有して、その素晴らしさを伝えることができて、本当に良かったです。
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こんなにゆったりと旅行したのは、もちろんコロナ以後初めてでしたが、本当にお寺巡りの癒し効果というんですかね、心底リフレッシュできました。やっぱりお寺っていいな、旅っていいな、移動っていいな、と。コロナがそういう楽しみを奪おうとしているわけですが、どうすれば感染しにくいかということはこの間の経験でわかってきたので、できるだけ感染リスクを抑えながら旅をするってことが大事です。旅はやっぱり、人としての生きがいだから。
©忽那賢志
その意味で、「ずらし旅」、いいですよ。この2泊3日の旅で、「これ、ずらし旅だね‼」って妻と20回は言い合いましたよ(笑)。私はもともと「ずらし」好きですが、人があまりにいないと不安になる人も、「これ、ずらし旅じゃない!?」と言っていればポジティブな気持ちになれるのではないかと思います。みんなが行くところに行って、「映え」る写真を撮る。そんな旅を、withコロナ時代は脱却しないといけないと思います。「みんなが好き」じゃなくて、「自分が好き」を探す。それが「ずらし旅」ですよね。新しい概念だと思います。モデルコースじゃなくて自分でコースを創っていく。それが「ずらし旅」の醍醐味。この2泊3日でどんなコースを私たち家族が創ったかは、次回の記事でご紹介しましょう。
新型コロナウイルス感染症対策の基本はやっぱり手洗い。「3月のライオン」の作者、羽海野チカ先生と忽那先生の素敵なエピソードはこちら。
居初氏庭園(いそめしていえん)
滋賀県大津市堅田の居初家にある庭園。千利休の孫・千宗旦の弟子である江戸時代前期の茶人、藤村庸軒と地元の郷士、北村幽安が合作したもので、国指定の名勝庭園である。園内の「天然図画亭」と呼ばれる茶室からの眺めは、琵琶湖と対岸の雄大な景観を借景としたもの。
滋賀県大津市堅田2丁目12-5
見学は要事前予約 077-572-0708
旧秀隣寺庭園
1528年の秋、12代将軍足利義晴が、京都の兵乱を避け、朽木稙綱を頼ってこの地に身を寄せた。この時、稙綱が将軍のために造営したのが〈岩神館〉で、その館内に造られた庭園が、現在、〈旧秀隣寺庭園〉として残る。秀隣寺は、朽木宣綱が、1606年に正室の菩提を弔うために、かつての岩神館のあった地に建立した寺院であることから、正しくは〈岩神館庭園〉と呼ぶべきともいえる。庭園は、安曇川が形成した段丘の縁にあり、安曇川の清流、そしてその背後に横たわる蛇谷ヶ峰を借景としている。池泉鑑賞式の庭園で、随所に豪快な石組を配する、全国屈指の武家の庭。
高島市朽木岩瀬374
新型コロナウイルスと最前線で闘う感染症専門医
忽那 賢志
感染症専門医。2004年に山口大学医学部を卒業し、2012年より国立国際医療研究センター 国際感染症センターに勤務。感染症全般を専門とするが、特に新興再興感染症、輸入感染症の診療に従事し、新型コロナウイルス感染症にも最前線で診療にあたっている。
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