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ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑
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第43話  秘密の部屋は打ち明け話の香り


 重要な話があるからとディアナとマリナとレベッカさんを集める。


 口で言って説明するだけにする……というのも考えたが、やはり実物の鏡を見てもらったほうが話が早いだろう。告白すると決めたのだから、変に出し惜しみみたいな真似する必要もないしな。

 なにより正しく理解してもらって、協力してもらうところは協力してもらわないといかんし。まあ、いちおう俺の奴隷であるところのディアナとマリナは大丈夫……だと思うし、レベッカさんのことも信用している。

 まあ、万が一、なんか問題が発生した場合は、鏡は一時凍結(という名の、壁に向けて設置による通行不能状態)にしておくしかあるまい。

 そして、理解力次第では3人を日本へご招待っての楽しいかもしれない。

 ディアナとマリナとレベッカさん連れて、例えばアキバとか行ったらやっぱり大騒ぎになるのかな。それとも案外スルーされたりするのかも……?

 いずれにせよ、向こうの世界のこと、少しは知ってもらったりもしたいな。


 3人を地下室に向けて案内する。3人とも当然地下室は初めてだ。


「ち、地下室にレベッカも連れて行くのですか? ど、奴隷の私たちだけでなく?」


「ん、ああ、ちょっと地下室で大事な話があるからレベッカさんにも聞いてもらいたいしな」


「話だけなのですか? こう聞き分けの悪い奴隷になんらかの器具を使ってある種の教育を行うアレとかナニをする秘密の小部屋としての地下室じゃないのです?」


「……お前は俺をなんだと思ってるんだディアナ……。……まあいいや、行けばわかるよ」


 地下室の扉の南京錠を開錠し重い木製扉を開ける。

 部屋にあるのは当然、こっちと向こうとを行き来できる魔法の鏡。だがまあ、今は向こう側から垂れ幕掛けてるからなんにも映ってないんだけどな。

 全員で部屋に入る。

 部屋には照明があるわけじゃないので真っ暗闇だ。みんなの表情は暗くてわからないが、先に話だけしておこう。



「大事な話っていうのはですね、……簡潔に言うと俺、この世界の生まれじゃないんです」






 ◇◆◆◆◇






 それから、この世界に来てからのあらましを3人に話した。


 向こうで鏡を手に入れたらこちらの世界……というより、この部屋と繋がっていたこと。

 外を歩いていたらシェローさんと出合ったこと。

 向こうの世界とこっちでは、いろいろ常識とか違っていたので記憶喪失のふりをして、シェローさんとレベッカさんとエリシェに行って祝福を受けたこと。

 あの時持っていたナイフは、すべて自分で作ったものだったこと。

 エフタとの勝負は負けたら元の世界にトンズラすればいいかとタカを括っていたこと。

 向こうの商品を持ってきて蚤の市で売ったこと。


 途中で何度か嘘や誤魔化しを入れようかとも思ったが、だいたいは本当のことを話すことにした。もともと記憶喪失とか、他にもいろいろ嘘が多かったんで、ディアナとマリナはともかくレベッカさんにはこれ以上申し訳なかったし、単純に嘘を吐くことに疲れたってのもある。

 とはいえ、言って不都合なこと(固有職とか掲示板に写真うpとか)はさすがに誤魔化したけどね……。


 3人は大人しく俺の話を最後まで聞いてくれた。

 少しは拒否反応しめすのかなと思ってたんだが、ディアナは「あなたがどこの出身だろうと、私のご主人さまにはかわりがないのです」と言ってくれたし、マリナは「マリナは主どのに一生尽くすともう決めているのであります」と泣けることを言ってくれる。レベッカさんに至っては「ま、秘密があるのはわかっていたしね。奴隷ちゃんだけじゃなく私にも打ち明けてくれたのは、どういう意味なのかしらー?」などとウフフモード。

 案ずるより産むが易しというか、変に気構えてたのがバカみたいだよ。


 あとは、実際に鏡から行き来してみせて、なんなら俺の部屋にも来てもらっちゃえばいいかな。



「それで、これがその鏡です。向こうの世界の僕の部屋と繋がってます。今は向こう側から布を掛けているので、なにも映ってないですけども」


「んー? ちょっと聞きたいんだけど、ジローの言うその『向こうの世界』ってどこにあるの? 海の向こうの大陸? それとも山岳のまた向こうにあるっていうプティ・コ・ラグーンのほうなのかしらー?」


 ん……? あれ? イマイチ伝わってないのかな……? 

 ……ああ、そうか。「異世界」って発想がないんだ。考えてみりゃ当然か。

 小声で「でも言葉が通じてるし、山岳のほうって可能性は低いわね……。でも、祝福を知らなかったからこの国でも火の国でもないし……」とかなんとかブツブツ言っているレベッカさん。なんて説明したらいいんだろうな、これ。


「えーと、ですね。僕もこの世界がどこにあるのかはわからないんです。だから『向こうの世界』もこの世界から見て、どのあたりにあるのかは見当が付かないというか……。レベッカさんの言う海の向こうの大陸なのかもしれませんし、それとも全然関係がない、全く別の世界なのかもしれません」


 少し表現を濁した。


「異世界のようなんです」なんて言うのも変だし、俺自身が持っている常識から言うと、まだ地球以外の惑星らしいっていうほうが説得力あるレベルだし。――そもそも異世界ってなんだっていう話だもの。

 ま、考えるだけ無駄なんだけどさ、言葉は通じる、地球と環境変わらない、一日の長さまで同じ……、だけど地球じゃない魔法もあるモンスターもいる世界。

 こんなのどうしたって説明しようがないし、変に考えるだけ損するってレベルだもんな。月が2個あったり海が変だったりするけど、「これ実は平行世界の地球です」って言ったほうがまだ説得力あるくらいだぜ。


 口で言ってもイマイチ理解されないだろうし、とにかくもう鏡から向こうの世界へ一度招待してしまうのが一番話が早いだろう。


「では向こうに行って鏡に掛けてある布を除けてきます。そうしたら僕の部屋が鏡に映るのが見えるはずです」


 そう言い残して鏡から自分の部屋へ戻る。今はちょうど黄昏時で布を除けても照明を付けなければ向こうからは、こっちがよく見えないだろう。

 布を除けて部屋の照明をつけると、漏れ出る(という表現が正しいかどうか不明だけど)明かりが、鏡に向こうの様子を映し出す。

 3人とも所在なさそうに鏡の前で立ち竦んでいるだけだ、マリナだけ能天気に驚いている。

 よっしゃ、俺自ら手を引いてこっちへ案内しちゃうかい!


 鏡を通り3人の元へ戻る。部屋の明かりの分地下室も明るく、今は3人の表情もうかがえるが、まるで俺が突然鏡から出てきたように驚くディアナとレベッカさんである。マリナだけ能天気に「すごいであります、不思議であります」といつもの調子。


「はは、さすがのディアナとレベッカさんも驚きましたか。今、向こうに見えてるのが僕の元々いた世界の、僕の部屋です。よかったら、ちょっと行ってみます? お茶くらいなら出しますけど」


「主どのの部屋にしては狭そうでありますね」


「ハッキリ言うなぁ。これはね、文化が違うんだよ。マリナ」


「…………」


「…………」


 ん、どうもディアナとレベッカさんのリアクションが芳しくないね。異世界では「鏡から出てくるやつは悪魔の化身」だとか、そういう類の好からぬ迷信でもあったとか……? だとしたら不味かったかな……。


「ねえ……ジロー。私にはなんにも映って見えないんだけど? マリナには鏡の中の世界が見えてるのー?」


 困惑した様子のレベッカさん。マリナには問題なく見えているようなのに、レベッカさんには何も見えないらしい。


「え? えっとどういうことです? 見えてないんですかレベッカさん」


「ジローが鏡の中に消えて、しばらくしてから鏡から明かりが漏れてきてるのはわかるんだけどね。最初から灰色にくすんで特に何にも映っていないわよー?」


「そ、そうなんですか……。マリナには見えてるみたいなのに……。ディ、ディアナはどうなんだ? なんか映ってるの見えてるのか?」


 ディアナに向き直り聞く。

 でも、自分の部屋から見たディアナのキョトンとした様子を思い出せば、答えは聞かずとも知れたようなものだった。


「……ええ、しっかり映っているのよご主人さま。……最初から、(・・・・・)自分の姿が(・・・・・)ずっと映って(・・・・・)いるのです(・・・・・)。私には……、これはただの鏡なのです……」






 ◇◆◆◆◇






 結局、だれも鏡から俺の部屋へは来られなかった。

 全員一応向こうへ行けるかいろいろ試したが、無理だった。俺と手を繋ぎながら行けば行けるんじゃないかとか、俺が向こうから手を伸ばして引き寄せれば……とか、足掻くには足掻いたが無理なもんは無理で、一番可能性ありそうなマリナでもダメだった。


 そうとも、これが現実ってやつさ……。






 ◇◆◆◆◇




 ディアナは、マリナには向こうの世界が見えたのに、自分には見えなかったのがよほど悔しかったのか、あの後目に見えて落ち込んでいた。

 ここはご主人さまが慰めてやるしかねぇ……と思い立ったが、どうやって慰めてやったもんかわからなかったんで、明るく努めて「ハ、ハイエルフでもできないことってあったんだな! ハハハ!」とか口走って慰めるどころか逆に怒らせるような結果に。完全なヤブヘビだよ! これじゃあ立つフラグも立たんわい。

 レベッカさんは「ま、しょうがないねー」だけで終了。達観しているというか何というか……。

 マリナはマリナで、せっかく見えているのに、向こうの世界へ行けなくて残念がっていた。


 だがまあしかし、連中を日本に連れて行ったところで、観光させたり美味しいもん食ったりするくらいしかできないんだし、これで良かったんだと無理やりにでも切り替えるしかないよな。俺も……、あいつらもね。


 さて、鏡の件でちょっと出鼻をくじかれた感があるけれども、とにかくこれで、懸案だった秘密も教えて一応納得というか、理解してもらうこともできた。

 これからはジャンジャン向こうから商品持ってきて商売して、ディアナにもマリナにも仕事割り振って効率良くお金持ちになっていきたいね。

 特に日本でオクやれる人員は(鏡の件もあって)俺一人だけなんだから、異世界での商売、蚤の市とか、店を持つなら店員とか、そういうのはどんどん人使っていかないと効率が悪くてしかたがないのだしな。ディアナとマリナに店員ができるのか激しく不安だけど、せめて自分の食い扶持分くらいは働いてもらわないといかんぜ。


 でも、とりあえず今日はベッドをディアナたちに譲って、俺は自分の部屋に帰ることにするわ。

 なんてったって、今日大晦日だからな。年越しそばも食べなきゃだし、明日はお正月だしね。






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