第21話 魔法の地図はハイテクの香り
「ご主人。マリナは騎士の経験が……、あるわけないか。あれはなんなんです?」
「いやぁ、どうも彼女なりに騎士に憧れていたらしくてですね……。その……騎士ごっこの延長のようなものだと思うのですが」
なるほどね。
……ってなんにも「なるほど」じゃないよ。
いい歳こいてなにやってんの、あの子。
でも、ま……、カワイイからいいか!
とにかく、マリナは買うことにした。厳密にはエフタ氏に買ってもらうわけだけど。
マリナはディアナとまだ寸劇をやっているんで、先に書類に調印する。値段は……金貨40枚か。日本円の暫定的な換算だと600万円。奴隷の値段としては、どうなのかいまいちわからんけど、安いよなぁ……。
まあ、ターク族不人気のようだし、天職もアレだから安いんだろうな。後学のために他の子の値段も聞いとこう。
その後、奴隷商館の雇われエルフの元、俺とマリナとの奴隷契約を行った。
マリナの中で、「姫であるところのディアナのご主人さま=私の主に足る存在」という方程式が完成したのだかどうだか、普通に滞りなく契約は完了したのだった。
天職板を出して契約内容を確認する。
よしよし……。「明らかに生命に危険を及ぼす命令以外マリナはジローの命令を拒否してはならない」 の項目に注釈が入ってないぞ。
え? どういうことかって?
エロスも許されてるってことだよ君! やったー!
童帝の俺がそんな命令を出せるかどうかは別にしてだけどな! うおー
マリナについては、商館のサービスである程度着飾って渡してくれるというので、最初の部屋で待つことになった。
部屋に移動する途中、ディアナを捕まえてエフタからなるべく多くの便宜を取り付けるから上手く乗っかってくれと頼んでおく。
「ところでエフタさん。市長との件、結局どんな約束事があったんですか? 僕が勝ってなにやら得したそうですし、教えていただきたいですね」
「ああ、地図ですよ。市長とは地図を賭けてたんです」
「え? 地図ですか? どうしてそんなものを?」
「地図といっても、古代の魔法地図ですよ。私はこれを集めていましてね。市長がルクラエラ山で発掘されたものを贈られて持っているという話を聞きつけて、交渉していたのです」
これです、と見せてくれるエフタ氏。
時代がかった羊皮紙?に簡単に描かれた地図……。なんだが、まるでタッチパネルように地図上の情報を、タッチして切り替えることができる。文字も出てきているが読めないので、レベッカさんに読んでもらう。
「ええっと。……『ルクラエッラ山の坑道奥にゴブリンの一団が確認された! 大至急討伐求む! クリア条件、坑道最奥のゴブリンマザーの討伐。クリア報酬、500G 魔石(赤)』だって。なにこれ」
「古代のハンターズギルドで使われた、仕事の発注書だと言われていますが、詳細はわかっておりません。私は他に8枚ほど持っていますが、だいたい似たような内容が書かれていますね」
……ギルドで発注するクエストですよね、これ。お金の単位もGだし。なにこの異世界。昔はもっとRPG色強い世界だったてことなのかな。
「エフタさん。古代って、だいたいいつ位の品なのかはわかっていないんですか?」
「精霊文明時代のものだと言われています。ですので、だいたい……1000年ほど前でしょうか」
ふぅん。
”真実の鏡”
――――――――――――――――――――――
【種別】
クエスト発注書 (Easy mode)
【名称】
No.00231
鉱山のゴブリン母さん
【解説】
モンスター討伐クエストの発注書
難易度 D
ゴブリンだと思って舐めてかかると失敗するぞ!
冒険者1年生の戦士はゴブリン母さんのスコップでタコ殴りにされて再起不能になったらしい!
【魔術特性】
クリア後は報酬に変化
【精霊加護】
なし
【所有者】
エフタ・ソロ
――――――――――――――――――――――
ガチ過ぎる……。
クリア後は報酬に変化って、未クリアクエストなんかこれ。
坑道奥には1000年待ち続けたゴブリン母さんが干からびてたりするのかなぁ……。
「では相当に古いものなんですね。高いんですか? これ」
「私も含め、コレクターが割といますし、数も少ないですから……、少なくとも金貨20枚程度はしますね」
20枚か。たけえな。
でもま、いずれ手に入れてクエストクリアできるか試してみたいな。クエストがまだ生きてればの話だけど。
エフタ氏、試したことあるのかな。
「なるほど。けっこうするんですね。ところで、この地図に書かれている内容、実際に坑道奥に行ってみたりはしたんですか?」
「坑道奥はさすがに行ってませんよ。古い坑道はモンスターが多く湧きますしね。ですが、私の持つ他の地図のもので、鉱物の採集依頼というのがありましてね。これは探してみたことがあります。残念ながらなにも見つかりませんでしたが」
試したは試したんだ……。意外と暇だなこの人も。
「話は変わりますがエフタさん。ちょっとお願いがあるんですが、さっきディアナに聞いたところ、お導きの次の行程をクリアするには、まだだいぶ時間がかかりそうだという話なのですよ」
「まだだいぶかかるのですー」
「で、僕はいままで1人でしたし拠点も、宿屋やこのレベッカさんのところに厄介になっていてそれで済んでいたんですけれど、これからはそうもいきませんよね。で、すでに屋敷を買ってあるのですが、まだ住める状態ではないので、当然整備しなければならないわけです。しかし、それができるほどの資金が恥ずかしながらありませんでね。ディアナの住む家になることですし、ソロ家でバックアップしてもらえませんかね、これ」
「わたしとご主人さまとの新居なのですね……。ど、奴隷は地下室でお仕置きされたりするのだわ……、ご主人さまったら気が早いですぅ……」
また変な妄想が口から溢れてるよ! 今大事なところだから自重して!
「ええ、構いませんよ」
こっちも軽いな! こいつの金銭感覚どうなってんだ! 護衛奴隷もポンと買ってくれちゃったし!
ディアナのお導き達成したら、よほど旨みがあるんだろうなコレ。俺にも一枚噛ませろ。
「ありがとうございます。ではその件は後ほど話すとして、実は……今『御用商と商取引をしよう』という内容のお導きが出ているんですよ」
「おお、それは素晴らしい。やはり私とあなたとは大精霊の巡り合わせがあったということですね」
と、本当に嬉しそうにするエフタ氏。
本気かこいつ。ボンボンの考えることはわからん……。
俺を騙すようなことをするくせに、全然悪びれないし……。いや、悪いと思ってないんだろうな心底。
でもま、ディアナのバックアップの件もあるし、しばらくはこの男とも付き合っていかざるを得ないわな。
ただ、もうイタズラに引っ掛からないように気をつけることにしよう。
◇◆◆◆◇
「おまたせしました」
部屋に奴隷商の主人と、白を基調とした綿の簡単なドレスを着せられて、軽く化粧を施されたマリナが入ってくる。
戸惑いの深紫の瞳をキョロつかせ、自信なさげに両手をイジイジさせて、モッジモジのマリナ。
なにこのかわいい生き物。リアルお持ち帰りできるなんて夢のようじゃん。デッヘー。
マリナと目が合う。もう変なこと口走らないのか、なにか言いたげに俺を見ている。
ご主人さまとしては、マイ奴隷に一声かけてやらねばなるまいて!
「綺麗だよマリナ。本当に綺麗だ。……君を隅々まで冒険したい」
やべ、むしろ俺が変なこと口走っちゃった。
驚き目を見開いて顔を真っ赤に染めるマリナ。
俺の左腕をツネリ上げるディアナ。
俺の右腕をヒネリ上げるレベッカさん。
おっ折れる!
「だいたいご主人さまは無礼なのです。私に対して無礼なのです。私には何一つああいう事は言わなかったのです」
「そうね。ジローはちょっと考えなしなところが多いかもねー」
「あ、主どのにそんなこと言わ、言われても、う、嬉しくなんかないんだからぁ……」
「いやーモテモテですねジローさん。ははは」
これがモテるってやつなのか! 生まれてはじめてモテた!
なんてな。もうエフタには騙されないぞ!