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ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑
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第20話  護衛奴隷は鼻つまみ者の香り




 エフタと決めたディアナとの奴隷契約内容は、「ジローの命令に従うこと(性的なものは別よ)。契約破棄権はジローだけが持つ。ジローはディアナの最低限の衣食住の面倒をみなければならない。契約違反は違反したものの祝福が失われる」なんていう内容だったはずだ。厳密にはもっと細かい決め事があったけど、大雑把にいえばこんな感じだった……んだけどなぁ……。


 精霊契約魔法を実行したのはエルフ男だが、誓って契約内容を改ざんするようなことはしていないのだそうだ。

 というより、契約時に手を繋いで魔法を紡ぐのはそういった改ざん防止の為であって、仮に改ざんした内容で契約魔法を使っても手を繋いだ相手が内容を受け入れていないから弾かれるんだそうで。


 ただ、エフタが言っていたように、ハイエルフとの精霊契約だけは注意が必要でハイエルフ本人が望んでいなくても、ハイエルフが有利になるように精霊が内容を勝手に改ざんしてしまうのだそうだ。

 普通のエルフの場合はそういうことはなく、ハイエルフだけに起こる事象だということだけど……、こいつを予約の方々に売れなかった最大の理由ってこれなんじゃないのかなぁ……。




 さて、結局のところ、これから異世界で活動するのに必要なものはなにも手に入っておらず、むしろ余計なものを背負い込んでしまった格好だ。


 あの刺青もそのうち見慣れて可愛く感じるのかもしれないけれど、今のところは色とりどりでおめでたい仕様って感じだし、念願のエルフが手に入ったと言ってもなんだか素直に喜べない感じがあるな。

 しかし、特別なお導きって、どうして俺が選ばれちゃったんだろうなぁ……。


 エフタにも一杯食わされた感もありあり。

 しょせんただのニートの俺に、いっぱしの駆け引きとか無理だったんだ。

 だったんだ……。


 でも、すこしは奴にも損して貰わんと俺の気が済まんのだけど、なんかいいアイデアないかなぁ……。


 ……ま、とりあえずは細かいことを確認しつつ打開案を探すか!



「エフタさん。契約内容はともかく、僕とディアナさんとの契約が完了したわけですが、ソロ家としてディアナさんのお導きを手伝うってのは、まだ生きているんですよね?」


「はい。当然お導きが達成するまでは、バックアップさせていただきますよ」



 バックアップは生きているようだ。


 せめてこのバックアップくらいは上手く利用させてもらわないと、俺の祝福が危ない。「過不足なく生活できるように勤める」とか言ったって、家は一応あるけど、他にはなんにもないんだからな。もうお金もそれほど持ってないし。

 だいたいからして、異世界で寝泊りしたの全部シェローさん家なんだから……。まだ宿屋にすら泊まったことなかったりするんだぜ俺……。



「……では、我々の護衛ができる奴隷を1人、用立ててくれませんか? ……ほら、ディアナさんもお願いして」


「ご主人さまったら他人行儀なのです。さんは付けなくていいんだよ?」



 上目使いで言ってくるディアナ。


 かわいこぶったって、まだ他人みたいなもんだよ心情的には! お前がお願いしてくれないと、ディアナの為に必要っていう体にならないんですよ!



「ああ……、そういえば最初にお会いしたときに護衛のための奴隷が欲しいと言っていましたね。その後にエルフが欲しいなんて言い出すから、その衝撃ですっかり忘れてましたけど」


 契約が完了してから、微妙にフランクになってないかこのエフタ。……べつにいいけど。



「そうです。商売をしていくのに欲しかったというのもありますけど、ディアナさんの護衛という意味でも必要になってきますので。どうですか?」


「私からもお願いするのですエフタ。ご主人さまは甲斐性なしなのだわ」


 さりげなく毒吐くなこの子。あとでお仕置きしなきゃ。しなきゃ!



「ええ、護衛用の奴隷程度ならかまいませんよ。丁度奴隷商館にいることですし」


「……ずいぶんあっさりと承諾しましたけど、護衛用といえど、安いものではないんじゃないですか?」


「安くはありませんけれど、必要ならば仕方ありませんし……。なにより今回ジローさんには、働いてもらいましたしね。私ばかり得をしても悪いですから、サービスだと思って恩に着てください」


 いちいち言い方が憎たらしい!

 でもなぜからイマイチ憎みきれないのは、ボンボンゆえの天然感からかなぁ。悪辣という感じというより、悪戯イタズラ好きって感じなんだよなエフタ。

 でもなんというか、末っ子同士という感覚がヒシヒシとしてくるぜ。これは確実に気が合わない。



「ではちょっとここの主人に聞いてきますよ。護衛用の奴隷はそれほど需要があるわけではありませんから、あまり選べないかもしれませんが」


 そう言って、部屋を出て行くエフタ。

 護衛用の奴隷……か。ここでさらに新しい奴隷と契約すると、さらにもう1人分稼がなきゃならないってことなんだよな。

 もう完全に異世界に生活ベースを移さざるを得なくなんじゃないだろうか……。



 エフタが出て行ったのを確認して、いままで黙って成り行きを見守っていたレベッカさんが口を開いた。



「ねぇ……ジロー、大丈夫? その子との契約を破棄したいのなら私がなんとかしようかー? 両者の合意があれば破棄できるんでしょう? 私は契約に関係がないし、……『言う事を聞かせる方法』ならいくつか知っているわよ」


 今まで見せたことのない酷薄な目をディアナに向けるレベッカさん。


 わ、怖い。

 物怖じしない天然風味のディアナでも、射竦められて目線そらしてるし。



「……ありがとうございますレベッカさん。ですが、僕も思うところもありますので、無理にならない程度に頑張ってみようかと考えているんです。少なくとも、彼女がほどほどに(・・・・・)働いてくれる内は……ね」


「わ、私はちゃんと働くんだよ! 契約は精霊がかってに変えちゃっただけで私はわるくないのです」


「ふぅん……。そうね。まあ、私は男の仕事になるべく口出ししない主義だからねー。でも……、困ったら私に言ってねジロー」


「はい。ありがとうございます」



 レベッカさん頼りになるわぁ……。でも頼りすぎてどこまででも、甘えたくなるわぁ……。






 ◇◆◆◆◇






 しばらくしてエフタが戻り、別の部屋に護衛奴隷を集めたというので、見に行くことに。


 そろそろ酔いは醒めてきている俺は、奴隷を集めたものを見に行くという、現代日本では絶対に起こり得なかった状況に、またいちいちビビりはじめていた……。


 しかもそこから1人お買い上げするんだもんな……。


 異世界だ異世界だ! と変に浮かれすぎてたのかもしれないなぁ……。異世界だろうがなんだろうが、他人の人生を丸ごと買おうなんて傲慢すぎる事態だもんよ。


 俺が勇者だったらむしろ奴隷制度を根絶するために戦うなんていう、選択肢もあったのかもしれないのかな……。


 でもま、しょせん俺はトル○コだったということなんだな……。




 ……さあ! 割り切って巨乳の女の子買うぞ! イエーイ!





 こちらです、と商館の主人に通された部屋は20畳くらいはあろうかという天井の高い一室で、そこに奴隷と思しき人たちが縄で繋がれ並べられていた。



 あ、やばい。


 当たり前だけど、これ、ガチで奴隷だ。

 縄で繋がれて、一様に暗い目をして、きれいだけど非常に簡素な白い貫頭衣を着ていて。

 人種はさまざまだが、全員男だ。人間だけじゃなく、ドワーフや、獣人らしき者もいる。



 重い……。


 にこやかに「どうでしょうか。もしよろしければ天職や護衛経験の有無などを一人一人説明させていただきますが」などと言っている商館の主人との対比もあって、なおさら重い……。


 さっさと選んで脱出したいと思ったが、男ばっかなんだよな。

 ”強くて若い女の子”なんてファンタジー世界でも架空の存在なのかしら。夢破れることの多い異世界で本当に嫌になってしまいますね!



「どうしますジローさん。護衛としてなら、近接戦闘に長けた天職を持つものか、傭兵経験のあるもの、もしくはハンターズギルドに登録して働いていた者なども良いかもしれませんね。そっちのドワーフの彼などは、お奨めらしいですよ。天職もちょっと珍しい『戦士』ですしね」


 さーて、どうしよう。

「実はおにゃのこがいいんですぅ」なんて恥ずかしくて言えないしなぁ。また「正気か」とか言われちゃうんじゃないのかな。

 うーん、なんか良い言い訳は……。


 と、不意にディアナと目が合って、ピンと来た。これだ!



「ええっとですね。実は、護衛としての技能を持つものが欲しいというのも第一条件としてあるのですが……、この子の世話をするという仕事も頼みたいと思っているので、できれば彼女と歳の近い女性が良いのですよ。さすがに、彼らのような頑強な男に、若い女性の世話を頼むというのもアレですしね。ですので多少妥協して、戦闘系の天職さえ持っていればいいんで、若い女性の奴隷はおりませんか?」


 よし、完璧なロジック! 我ながら惚れ惚れするね。



 商館の主人は「おお、そういうことでしたか」などと言い、エフタは含み笑いをして感じが悪い。クソ、もうこいつにはどう思われてもいいわい!



「では、戦闘系の天職を持っている若い女の奴隷を用意させていただきます。申し訳ありませんが、少々お待ちください」


 と、ご主人。

「ご主人さまは助兵衛です」

 とディアナ。ほっとけ。



 その後、また別の部屋に奴隷を集めたということで、移動した。


 女性奴隷と男性奴隷は別々に扱い、同じ部屋にいさせたりはしないらしい。……って、エフタの野郎! また嵌めようとしやがったな!

 どうも、奴のからかいの対象になってる気がするぜ……。追求してやる!


「エフタさん、商館のご主人に男性の奴隷縛りで見せるようにいいましたね?」


「いやぁすみません。護衛が欲しいいうことでしたので、良かれと思ってのことだったのですが……。ディアナさんの面倒というとメイドの代わりもさせるということでしょうか。欲張りですねジローさん」


 このタヌキお兄さんめ。





 ◇◆◆◆◇





 人数はだいぶ少ないが、さっきの部屋の女版とでも言うべき光景が広がっている。

 一様に暗い目、さまざまな人種、きれいな貫頭衣。


 うーん……。やっぱりへヴィだわぁ……。


 みんな10代か20代と思しき年齢だし、奴隷なんかにはなりたくなかったよなぁ。まして戦闘系の天職持ってるからって、護衛として戦ったりとかなぁ……。

 奴隷に必要以上に感情移入しちゃマズイのかもしれんけど、そう簡単には割り切れねーわ、やっぱ。


「えっと、主人。ここのみんなは戦闘系の天職を持っている子たちということなんですよね? 実際に戦闘経験がある子はいるんですか?」



 と、聞きつつ女の子を吟味してみる。

 カッコいい事言っても、結局は好みの子のほうがいいもんね。



 ……


 …………


 ………………




 すみのほうにさ、いるんだよ。褐色の肌の女の子が。


 他の子と同じように暗い目をしているけど、釣り目がちの目に太い眉。アメジストのような紫の髪も美しい。

 年齢は20歳いかないくらいで、スタイルも抜群だ。

 地味な貫頭衣の上からでも、つい主張しちゃう立派なお胸。

 それになにより、少し長くて尖った耳。


 あれって……、我々の業界で言うところのダークエルフちゃんなんじゃないんでしょうか。うふ、うふふふ、なんでこんなところに並んじゃってんのかな?



「…………あ、あの? 聞いておられました?」


 と、ご主人。すまん。全く聞いてなかった。聞いていたとしても、もうその情報は陳腐化したし。



「この子の情報をおしえてください」


 と、ダークエルフちゃんを指名すると、全員の表情に戸惑いと驚きが浮かんだ。なにがそんなに意外なんだね、チミたち。私のエルフ好きは知っておろうが。



「ジローさん。その子はターク族ですよ。あまりそういう事を気にしないのかもしれませんが、よろしいのですか?」


「だからなにがですか? ターク族?」


 ……エフタの説明によると、ターク族はその特徴的な褐色の肌と、エルフに似た耳のせいで、偽エルフとして迫害の対象……とまでは言わないが、差別対象となっている種族らしい。

 特にこの国ではその傾向が顕著で、南の火の国では褐色で差別されることはないらしいのだが……。

 また、ターク族はあまり精霊に愛されていないという認識らしく、天職が2つ以上出た例がないそうで、精霊信仰の強いこの国では、相当に肩身の狭い思いをしているんだそうだ。ついでにお導きの数も少ないとかなんとか……。


 うーん。なるほどねぇ。

 でも俺には全く一つも関係ねぇ!

 もうこの子に決めましてん!



「その子、名前はマリナって言うんですがね……、あまりお奨めできない理由がもう一つありまして。……天職が騎士ナイトなんですよ」


 と申し訳なさそうに言う主人。

 ん? 良さそうじゃん。護衛には特に。なんか問題あるの?



「どうして騎士はダメなんです?」


「それはね、騎士は男性しかなれないものだからよジロー。だから騎士の天職を持つ女は、実質的になんの天職もないのと同じと見なされる。実際には戦えるのにね。なぜだかそういうことになっているのよ」



 と憤るレベッカさん。

 女は騎士になれない……か。でも戦闘系の天職なんだろうし、レベッカさんも戦えるって言ってるし、問題ないじゃんね、どう考えても。


 ……て、そうか。天職は職業だから「騎士の職に就けない」以上、意味がなくなってしまうわけか。どうしてもRPG脳で考えちゃっていかんな。天職は職業! ゲーム(あそび)じゃないんだぜ!



 話を聞く為に、直接マリナに話しかけてみる。……ちょっと照れるな。



「ええっと、俺はこれからあなたを買いたいと思っているんですが、戦闘経験はありますか? 家事はできますか? 文字は読めますか?」


 後ろでエフタの野郎が「奴隷に敬語!」とか言いながら噴き出している。あんにゃろうだんだん遠慮がなくなってきたな。


 でも、我ながら確かに滑稽だ! なんか質問もカタコトになっちゃったし……。でも知らない女の人にいきなりタメ口とかきけないんだもん!



 俺の質問にモジモジしていたと思ったら、意を決したように突然キッと俺を睨み付けマリナは言った。


 口走ったと言ってもいいかもしれない。



「わ、わわ私が騎士の誓いをたてるのに相応しい主であるなら、その証拠を示しなさい! さ、さもなくば私の体は奪えても、心は奪えないと知ることにな、なり、ましょう?」


 やだ、なにこの子、超かわいい。

 でも大丈夫か。途中でグダグダになったぞ。がんばれ! 最後までがんばれ!


 俺がつい和んでいると、ディアナが横から掻っ攫っていった。



「マリナ。私はディアナ。ディアナ・ルナアーベラ。エルフ族の姫なのですー。私に忠誠を近い、私の走狗となり、私に生涯を捧げなさい。さすれば卑しきターク族のお前にも、精霊の加護が得られるでありましょうー」


 ディアナ……。

 なんで突然乗っかった……。しかも棒読みで。

 契約するのは俺だっつーの。


 まあでも面白いからいいか。



「おおおお、姫!」

「よしなに頼みますよ、マリナ……」




 寸劇を繰り広げている2人を尻目に、契約の手続きをする俺なのだった。









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