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ネトオク男の楽しい異世界貿易紀行 作者:星崎崑
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第19話  ハイエルフは身贔屓の香り



 ハイエルフとか言われても……

 ハイエルフってこんな刺青いれずみとか入れちゃう種族なのか……。クソッ、神官ちゃんみたいな感じを連想していたけど、ちょっとだいぶ様子が違ってきちゃったじゃないのよ……。


 でも刺青女ってこっちの世界ではアリなのかな。日本じゃ刺青そのものがリアルで見る機会ほとんどないから、インパクト超強いんスわぁ。この子が俺の奴隷になるのかぁ……。なんだろうこの気持ち……。

 しかも王族とか……。



 俺の前にクソ真面目な顔で座る3人。エフタ氏、エルフ男、刺青ハイエルフ娘。


 ……おい、どうして誰もなにも喋らないんだ! 刺青ハイエルフ娘がじぃっと俺のこと見てていたたまれないんだよ!



「ゴホン。なにも言わないんですね、ジローさん」


 とエフタ氏。それはこっちのセリフでしょうよ。どうしろってんだ。



「……では、順を追って説明しましょうか。こちらはディアナさん。実はディアナさんは普通のエルフではなく、ハイエルフ族という……、簡単に言えばエルフの王族のようなものでしてね。ハイエルフ族はあまり下界に下りてきませんし、実質的な権力を持ってるわけでもありませんから、あまり知られてはいませんが」


 なるほど……。あまり知られていないハイエルフ族を知ってたレベッカさんパねぇ。

 しかしガチで王族なのか。どうして王族が奴隷になんて……。

 普通の奴隷でよかったんだけどなぁ……。っていうより普通の奴隷のほうがよかったんだけども……。



「疑惑に満ちた顔をしていますねジローさん。気持ちはわかりますが、聞いてください。…………ジローさんは運命というものを信じますか?」


 突然なにを言い出したんだ、この男は。

 俺が答えに窮していると肯定と受け取ったのか、あまり気にせず話を続けるエフタ氏。



「ハイエルフ族は『運命を司る大精霊ル・バラカ』に最も愛された種族だと言われています。そして、彼らは人生に一度だけ『特別なお導き』を授かるんですが、これが本当に特別でしてね。……関係する人間を巻き込んで、強制的にお導きが達成されるように動かされるんですよ。本人も気が付かないうちに。綺麗な言い方をすれば、運命に導かれるといったところなのでしょうが」


 導かれし者たちですね、わかります。

 さしずめ俺は商人だからト○ネコポジションかぁ。ハズレだわぁ。



「…………ところで、ジローさん、どうしてこの怪しい勝負受ける気になったんでしたっけ?」


「それは…………なぜだか負ける気がしなかった……。って、つまり?」


「私としても確信はありませんでしたし、今でも実は確信があるわけでもないのですが、あの時点ですでにジローさんが巻き込まれていた可能性が高いかな、と」


「えっと、つまり、その特別なお導きにですか? そのお導きの内容はなんなんです? 巻き込まれたのなら帰着するところがあるんでしょう?」



「おみちびきの内容はだれにも教えてはならない決まりなのです」


 突然口を開くハイエルフ娘。あらかわいいお声。



「そう。ディアナさんの言う通り、この特別なお導きの内容は他者に知られてはならない決まりらしいのです。ですが、推察はできます。一つ前の行程はおそらく『奴隷になる』か、これに近い内容だったのでしょう」


「ひみつです」


 そうか。ひみつなら仕方がないな。



「次の行程はわかりませんが、順当に考えれば当然『奴隷になって仕える相手を見つける』かそれに近いものでしょう。そして、そんな時にジローさんと出会った……。それこそ運命的に。私があの勝負を持ちかけたのは、そういった経緯があったからだったのです」


「僕が、その……ディアナさんの仕える相手の候補だと考えて勝負を持ちかけたと? では別に勝負をする必要はなかったのでは?」


「先ほども言ったとおり、確信があったわけではありませんし、私も商人の端くれですから……。なるべく得になるように動いたというだけのことです」


「…………?」


「勝負の件ですが……、ジローさんが巻き込まれていたなら、必ずこの席に座ることになると、あの時点ですでに決まっていたのです。運命が必ずそうなるように導かれる。それがハイエルフのお導きの強制力でしてね」


「んん? もう少し砕いて話してもらえますか? いまいち要領を得なくて……」


「そうですね……。つまり、巻き込まれていたのなら、ジローさんが市長になにを贈ったとしても市長は喜んで受け取っていたということですよ」


 俺の15日間の努力が全否定! 

 いくら使ったと思ってるんだお!



「ですから、巻き込まれていても巻き込まれていなくても損のない勝負を打ったというわけです。……まあ、まさかあそこまで手の込んだ贈り物をするとは、私も思っていなかったので驚きましたが。そして、あれなら巻き込まれていなくても勝負に勝っていた可能性が出てくるでしょう。私が未だに確信を持てないのはそういうわけなのです」


「勝っても負けてもエフタさんにとっては得をする勝負だったというわけですか。市長とどんな取引があったのかは、是非教えていただきたいところですが。……しかし、この……ディアナさんを僕に渡すのは損ではないのですか?」


「……いえ、それこそが最大の得です」


 あ、そうなの? すこしは損しろよ。


「実は、ソロ家は代々この『特別なお導き』をサポートする代わりに、ハイエルフ族からある協力を得る協定を結んでいましてね。行程もだいぶ進みましたし、もうすぐお導きは達成でしょう。そうなれば、私としてもソロ家としても大きな恩恵が得られるのです」



 なるほどねぇ……。もういっそ関心するよ。勝手に遊び人認定してたけど、案外やり手じゃないか。


 今回の勝負のエフタ氏の描いた絵は……、俺が導かれてなくて負ければ精霊石10個儲け。導かれてなくて勝っても市長との取引分儲け。導かれていていれば絶対勝って市長との取引分儲かって、さらにハイエルフのお導きも進んで儲かる。

 精霊契約の時にエルフ男が言っていた通り、どう転んでも損にはならなかったってわけだ。


 ……まあ、俺にとってもいちおう損はないし、別にいいんだけどさ。ちょっと上手く転がされた感があるな。


 でも……、奴隷になるなんてお導きありえるんだろうか。大精霊酷すぎだろ。



「……しかし、ディアナさんは奴隷、なのでしょう? 別に僕でなくても売ってしまっても構わなかったのでは? 売れてしまえば、それがその運命だったということになるんでしょうし?」


「最初に会ったときにご説明しましたが、いわゆるエルフ奴隷を求めている方とは条件が折り合いませんでね。……いくつか事情はあるんですが、最大のものはやはり、『ハイエルフになにか変なことをすれば種族間問題に発展する』という点でしょうか。これについてはジローさんも気をつけてください」


「変なこと……とは?」


「自前の奴隷となれば、性奴隷であろうとなかろうと、そういうこと(・・・・・・)があるのが普通です。それで奴隷側が主人を訴えたりということも皆無と言ってもいいでしょう。……ですが、今回の場合はそういう風にはならない。ということですよ」


「な、なるほどなー……」


 美味い話には裏があるとは言うけれど、裏ありすぎだよ! ほとんど全部裏だった!


「……では他の事情のほうはなにがあるのでしょう?」


「これは本人を前にして言いにくいことですが……。まず容姿といいますか、全身の紋様に拒否感を示す方が多いだろうということ。『特別なお導き』中は精霊魔法が限定的にしか使えないという点。さらには、彼女は王族。つまり使用人がするような仕事は一切やったことがないという点も重要です」



 Oh…………。


 異世界で足手まといのお姫様を奴隷に……とか、それなんてエロゲ? って雰囲気なのに、実際は手を出せば種族間問題、見た目もへヴィな刺青娘、精霊魔法もちょいちょいで、料理もできなきゃ掃除もできん!

 「エフタは無礼です」とか言ってて可愛い感じもするけど、刺青とのギャップがすげえしなぁぁ。


 しっかし……、俺って異世界貿易のために文章が読める護衛が欲しいってだけじゃなかったっけっか?

 いや……、エルフの奴隷が欲しいとか欲かいた俺が悪かったのかもしれないけどさ。なんかもエルフならなんでもいいか! って心境だったのも否めないし。


 でも、むしろ俺が護衛しなきゃならない感じになっちゃったなぁ、これ。ぐぬぬ。


 俺がそのときどんな表情をしていたのかはわからないが、エフタ氏と話している最中も、じいっと俺を見つめていたディアナが言った。



「だいじょうぶだよ、ご主人さま。お導きがおわれば、みんな良くなるのです。だからよろしくおねがいしますね」




 ~綾馳次郎脳内裁判~



「え~、突然ではありますが、第754回脳内裁判を行いたいと思います。今回の案件は『どーよ今回のコレ。許せる? つかマジどうすんの? 脱出しちゃう?』です」


ギルティ(有罪)。エフタの野郎、マジ外道。日本円に換算して70万くらい使ったのに!」

ギルティ(有罪)。俺のエルフ少女とラブラブHの夢が失われて何に希望を抱いてこれから生きていったらいいのかもうわからない。俺は今泣いているんだ!」

ギルティ(有罪)。もっとライト感覚で奴隷を所有したかったのに、人生で一回だけのでかいクエストとかちょっと重いんスよねぇ~」

ギルティ(有罪)。もっとオッパイ大きい子が良かった」


「いや待てお前たち。気持ちはよくわかる。が、彼女は今なんて言った? ごしゅじんさまと言わなかったか。そうだ、俺は俺たちはもう彼女のご主人様なのだ! もうそれだけで許せる! ノットギルティ(無罪)!」


「判決。あの子がご主人様と言ったからすべて許せる気がした、この異世界の片隅で」


 ~脳内裁判終了~




「…………エフタさん。こんなにネガティブな情報を晒してしまったら、僕が彼女を奴隷とすることをやめると言い出すとは思わなかったんですか?」



 なんつって、もうやめる気はないんだけどな。


 刺青の件を抜きにすれば、ハイエルフちゃんスタイル良くてかわいいしね。胸は残念だけど、ケツはいいぞ! 脚も長いし、髪も綺麗だ。まあ、もうちょっと肉付きが良ければ言うことなしだね。


 あれ? それともこの気持ちもお導きの強制力で発生したものなのかなあ? 



「いえ、思いません。これは口止めされているので言えませんけど、もうあなたはどうあってもこの契約を思いとどまることができない。……そうでなくとも精霊契約もしていますしね。『あなたが勝った場合私からエルフ少女を受け取る』と。それに最初に言ってたじゃないですか。エルフを手に入れるのが夢だって」


「ん? それって受け取らなかった場合、契約違反になるんですか? ちょっと曖昧ですね」


「そうですね。曖昧です。……案外契約違反にならないかもしれませんし、試してみますか?」


「……あー、遠慮しておきます」


 悪いわー。エフタ性格悪いわー。






 ◇◆◆◆◇







 その後、俺とハイエルフ娘のディアナとの精霊契約をし、受領証にサインをして、つつがなく契約が完了した。


 天職板を出して内容を確認してみる。



 ―――――――――――――――――――――――


 【精霊契約】

 ジロー・アヤセとディアナ・ルナアーベラとの奴隷契約要綱

 ディアナはジローの所有する奴隷としてほどほどに働いてもよい。

 ジローはディアナを所有する者としての責任として、ディアナが過不足無く生活できるよう勤めなければならない。

 この契約の破棄は両者の同意の下、いつでも行えるものとする。

 この契約が果たされなかった場合、果たさなかったジローの祝福が失われる。


 ―――――――――――――――――――――――




 ……ん? 

 あれ? なんか偏ってね? なんか俺不利じゃね?

 さっき話し合って決めた契約内容と大幅に違うんですけど!?


「……ああ、ジローさん、言い忘れてました。ハイエルフとの精霊契約は、精霊が勝手に大幅な脚色をすることがあるそうですから、気をつけてくださいね。ふふふ」


 見ろ! このエフタの嬉しそうなツラ! 脚色ってレベルじゃねえぞ!



「ああ……、これで私はもう奴隷……。ご主人さまに首輪をつけられて街を歩かされたりするのですね……。そして見世物小屋に入れられたりするんだわ……、ああ……、ご主人さまぁ無礼ですぅ……」


 こっちはこっちで変な妄想が口から溢れてるよ!! ちゃんとお口チャックして!!










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