大内裕和中京大教授の盗用問題で、あらたな盗用を報告する。2014年4月発行の「愛知かきつばたの会20周年シンポジウム」(2014年6月)の記録として出版した『ブラック企業と奨学金問題ーー若者たちは、いま』(ゆいぽおと刊)のなかに、例によって私(三宅)が『選択』2012年4月号に書いた記事の内容と酷似する記述がみられる。
◆『ブラック企業と奨学金問題ーー若者たちは、いま』(2014年11月発行)に掲載された大内氏の講演録(該当部分)
二〇一〇年度の利息収入は二三二億円、延滞金収入は三十七億円です。これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところへ行っています。行き先は銀行と債権回収専門会社です。2010年度期末で民間銀行の貸付残高はだいたい一兆円で、年間の利払いは二十三億円です。債権回収会社は同年度、約五万五千件を下請け会社二社に委託し、十六億七千万円を回収していて、そのうち一億四百万円が手数料として払われています。
(44頁20行目〜45頁3行目)


私が書いた元記事はこうだ。
◆元記事[『選択』(2012年4月号)三宅記事
原資の確保であれば元本の回収がなにより重要だ。ところが、日本育英会から独立行政法人に移行した〇四年以降、回収金はまず延滞金と利息に充当するという方針を頑なに実行している。一〇年度の利息収入は二百三十二億円、延滞金収入は三十七億円に達する。これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところへ消えている。この金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サービサー)だ。一〇年度期末で民間銀行からの貸付残高はざっと一兆円。年間の利払いは二十三億円。また、サービサーについては、同年度で約五万五千件を日立キャピタル債権回収など二社に委託し、十六億七千万円を回収、そのうち一億四百万円が手数料として払われている。
(101頁3段目13行目〜4段目4行目)

講演録の大内氏の記述部分に、『選択』記事を参考にしたとの注釈はない。
この講演録のなかで、大内氏は「債権回収会社は同年度、約五万五千件を下請け会社二社に委託し、」と述べた旨書いてある。『選択』の元記事にはそんなことは書いていない。「日立キャピタル債権回収など二社に委託」である。日本学生支援機構や文部科学省への取材で確認したうえで書いた。サービサーが下請けに出したなどという状況は、少なくとも私は知らない。法的にも適法なのか疑問がある。いったいどんな根拠があってこんなことを書いたのか理解に苦しむ。
もし、適当に話を膨らませたのであれば研究者よりも噺家の素質がある。
私は『選択』記事を書いた1年あまり後の2013年夏、日本学生支援機構に取材して2010年度の債権回収会社による回収総額をあらためて確かめた。回答によれば回収額は約28億円、払われた手数料は約2億4000万円であるとのことだった。それを大内氏らとの共著『日本の奨学金はこれでいいのか』(あけび書房、2013年10月)で発表した。数字の食い違いがなぜおきたのかは不明で、現在日本学生支援機構にたずねている。
大内氏の講演は2014年6月だから、2010年度の回収状況の数字が複数あることを知っているはずだ。ところが検討した節はない。『選択』記事は匿名だからだれに聞けばいいかわからないにしても、『あけび書房』の本に私が書いたデータについては問い合わせがあってもいい。ところがその類はいっさいない。
「債権回収会社は同年度、約五万五千件を下請け会社二社に委託し、十六億七千万円を回収していて、そのうち一億四百万円が手数料として払われています」
まるで自分が調べたかのような自信ある口ぶりで講演をする大内氏の姿が目に浮かぶ。