週のはじめに考える 民主主義の旗色は
2020年9月27日 07時42分
当たるを幸い、とでも言うべきか、昨今、中国のほとんど全方位的な強硬姿勢が目につきます。米国との確執は言うまでもなく、インドとは国境での衝突で角突き合わせ、南シナ海ではベトナムなどの主張お構いなしで領有の既成事実化に走り、かと思えば、突如、ブータンに領土論争を仕掛け、その一方で、新型コロナの国際調査を求めたオーストラリアに報復とみられる措置を次々に…。
◆広がる中国への「支持」
わけても、その遠慮のなさが際立つのは香港の扱いです。「香港国家安全維持法」には、国際社会から強い批判が続いていますが、意に介さず、民主活動家や言論人を弾圧する姿勢を変えません。
異論を無視できるのは、いわば揺るぎない「強国」としての自信の裏返しでしょう。少なくとも経済面で、それを助けたのは、低コスト、高利益に目が眩(くら)み、民主化を条件とせぬままグローバル経済に組み入れた民主主義+資本主義国の側。おかげで、言論の自由、法の支配、基本的人権の尊重といった民主主義の価値観とは相いれぬ「権威主義+経済大国」を出現させてしまった。
問題は、中国が孤立しているとは言いきれない点です。上記もしかり、その非民主的姿勢について書く時、私たちは、しばしば「国際社会から批判が」などと書きますが、今や、その「国際社会」がいささか怪しくなっている。
くだんの国家安全法について、今年六月、日本や英仏独など二十七カ国が、国連人権理事会の会合で「強い懸念」を示す共同声明を発表しました。ところが、同じ会合でキューバがその倍近い五十三カ国を代表して、中国への「支持」を表明したのです。
実は、似たことは昨年も起きています。新疆ウイグル自治区で、ウイグル族ら百万人超を収容施設に拘束し、テロ対策名目で「思想教育」をしているとされる問題では、昨年七月、日英独など二十二カ国が同理事会に「懸念」を示す共同書簡を提出しました。しかしここでも、それを上回る三十七カ国が中国「支持」の書簡を提出しているのです。
中国を支持したのは、「一帯一路」に取り込まれるなど主に中国マネーに依存する国々であり、しょせんはカネの力−。そう片付けるのは簡単ですが、あなどっていいことにはなりません。いくつかの国の指導者にとっては、中国が権威主義の強権的為政と経済的成功を両立させる「モデル」になっている節さえあります。例えば、フィリピンやトルコといった国は以前は今ほど権威主義的でなかった。中国の存在感の増大は影響していないでしょうか。
◆権威主義支配という悪夢
もし権威主義が世界秩序を支配することになったら…。そこまで考えてしまうのは、権威主義の台頭に対抗すべき民主主義の側に大きな不安要素があるからです。善かれあしかれ、民主主義陣営を引っ張るのは米国でしょうが、第一の問題は、そのリーダーです。
そもそもトランプ大統領は、ある米紙の記事の表現を借りるなら「wannabe dictator」(独裁者に憧れ、なりたがっている者)。確かに、これまでにも中国や北朝鮮など権威主義国家の指導者をうらやんでいるような言動は一再ならずありました。
今は、盛んに対中強硬姿勢をアピールしていますが、側近だったボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)が著書で暴露したところだと、米中首脳会談の際、自分の再選を確かなものにするため米国の農産物をより多く買うよう習近平国家主席に「懇願した」といいます。ウイグル族への対応まで「容認した」というのですから、もし事実とすればあきれるほかありません。米中対立は「新冷戦」とも評されますが、大統領にとっては再選戦略の一つでしかないのかもしれません。
しかも、米国第一主義を闇雲(やみくも)に進める中で、民主主義陣営を含む多国間協調に次々ひびを入れ、地球環境保護など、いくつかの領域で米国の存在感は薄くなっています。その空隙(くうげき)を埋めていっているのが、他ならぬ中国。いわば権威主義拡散のチャンスをトランプ氏が自ら作り出している構図です。
◆頼りにならぬリーダー
事ほどさよう、権威主義の拡散と対峙(たいじ)する民主主義陣営のリーダーとして、これほど頼りにならぬ人物もない。もし、十一月の大統領選で再選されるようなことがあれば、民主主義の旗色がさらに悪くなるのは必定でしょう。
救いは、中国が居丈高な強面(こわもて)路線を続けるうちは、渋々従う国は増えても、真の「支持」は広がらないだろう、ということ。ところが、です。ここに来て中国の軍関係のタカ派論客からさえ、高圧的な姿勢は得にならないという戦略的見直し論が出てきているようで…。これもまた、不安要素です。
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