佐藤さん漫画賞 政治笑える自由の尊さ

2020年9月26日 08時01分
「お一人さま一個かぎりです」 (c)佐藤正明

「お一人さま一個かぎりです」 (c)佐藤正明

  • 「お一人さま一個かぎりです」 (c)佐藤正明
 優れた漫画をたたえる日本漫画家協会賞の大賞に、本紙で政治漫画を執筆する佐藤正明さん(71)が選ばれた。昭和の末から令和の今日まで、描き続けた政治や社会の風刺が評価されての受賞だ。
 協会賞は一九七二年度に始まり日本を代表する漫画賞の一つだ。佐藤さんは今回、大賞のうち、一コマ漫画などカーツーン部門での受賞。選評では「新しい情報に対する吸収力」などが絶賛された。
 その評の通り、佐藤さんは旬の芸能人やヒットした歌、映画などに広く目を配り、そうした軟らかい題材を元に、硬くなりがちな政治の話題を笑いで解きほぐす。実に貴重な表現者といえよう。
 新聞という活字の媒体にふさわしく、言葉遊びも大きな魅力だ。今年五月に掲載の「お一人さま一個かぎりです」は、コロナ禍の特別定額給付金を薬にたとえたヒット作。新型コロナの治療薬の候補「アビガン」と当時の安倍晋三首相との語呂合わせで「アベ丸(がん)」と命名しており、効能書きなどのしゃれもさえている。
 風刺漫画は、故中曽根康弘氏が首相だった八六年から執筆。内容について、担当記者と打ち合わせはしない。政治の専門家になるのではなく、市井の感覚や視点を大切にしている。「風刺漫画を描くからと言って、正義感に燃えているわけではありません。あくまでもフリーな立場の、やじ馬でいなくちゃ」とも語っている。
 佐藤さんの作品が多くの読者の笑いと共感を呼び、しばしば政治面の「主役」になる理由だろう。
 残念ながら世界では今、政府や権力者への批判が萎縮している。記者の逮捕や殺害が横行。中国では、習近平国家主席に似ているとして「くまのプーさん」が検閲の対象とされる。民主主義の拠点だったはずの米国でも、トランプ大統領自らが、意に沿わない報道を激しく難詰している。
 日本でも報道への圧力が強まり「政治を笑える自由」はぎりぎり守られている状況だ。歴代十九人もの首相を笑いのめしてきた佐藤さんの受賞が物語るのは、その自由の尊さなのかもしれない。

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