おい、諦めるな!
★
「くっ……なぜだッ!!」
元剣聖リオン・マクバが、苦しそうな表情で叫び出す。
「なぜ……なぜ当たらんのだッ!! 私は剣聖、リオン・マクバであるぞ!!」
戦闘開始から数分が経っていた。
だが、リオンの攻撃は一向に僕に当たらない。すべての剣撃を、僕によって避けられるか防がれている。
そうして奴に生じた隙を、僕は見逃さなかった。
「うおおおおっ!」
僕はありったけの声量を発しながら、思いっきり剣を振り払う。
カキン――と。
振り下ろされてきたリオンの剣が押し負ける。
「なっ……!」
その反動で、リオンは大きく仰け反った。
「お、おい、やめっ……!!」
この致命的な硬直時間に、リオン自身も身の危険を察したのだろう。
必死に制止を呼びかけてくるが、いまさら攻撃をやめるつもりはない。
――淵源流、一の型。
――真・神速ノ一閃。
「ウボァァァァアアア!!」
聞き覚えのある悲鳴を響かせながら、大きく吹き飛んでいくリオン。
そのまま地面をころころ転げまわり、壁面に激突する様は、みっともないと言う他なかった。
「あ……ありえない!」
だが、腐っても元剣聖。
それでも負けじと立ち上がってくるあたりは、さすがの一言である。
「わ、私は最強の剣聖だ! その私がさらにステータスを上げたのだぞ! それでも敵わない相手など――いるはずがない! いていいはずがない!!」
「…………」
そうだな。
リオンは強い。
それは認めざるをえない。
けれど、僕には《対象の経験値蓄積の倍加》という能力がある。
この一週間、レイやカヤたちと特訓するなかで、強くなったのは彼女らだけじゃない。
僕も――その能力の恩恵に預かった者のひとりというわけだ。
とはいえ、相手は最強と呼ばれた元剣聖。
そんな彼すらも《スキルなし》で圧倒してしまうなんて、さすがに予想外だったけれど。
まあ、それでも。
僕のやるべきことは変わらない。
「元剣聖……いや、いまはもう、テロ組織に荷担する末端構成員か」
僕は気合いを込めてリオンと対峙し、その切っ先を奴に向ける。
「前言通り、おまえたちは全員拘束させてもらう。王都の牢獄で……みずからの半生を悔いてもらおうか」
その瞬間だった。
なにがあったのか、僕の身体がほのかに輝きはじめる。
薄暗い室内が、優しい光に照らし出される。
「なっ……。馬鹿な」
対峙するリオンが、大きく目を見開く。
「この風格は……まさか本当に、初代剣聖の……」
「初代、剣聖……?」
「ありえない。剣聖は私だ……。こんな奴であるはずがない……! そんなことがあっていいはずがないッッッッ!!」
そのまま突進してくるリオン・マクバだが。
「淵源流、三の型、光神之剣」
「ウボァァァァァァア!!」
初代剣聖の編み出した技に敵うはずもなく、返り討ちにあうのだった。
★
その一方で。
アルド家の
「ううっ……!」
さすがは影石の影響を受けているだけあって、アルセウス救済党は強い。二人の猛攻に、エムは防戦一方に徹するしかなかった。
鳴り響く金属音。
飛び散る火花。
無言で剣を繰り出す構成員に、エムは反撃の機会を見出せなかった。
「これは……驚いたな」
攻撃の手を止めぬまま、構成員のひとりが呟く。
「我ら二人の攻撃を受け続けるとは……驚嘆すべき実力だ」
「ああ。防戦一方とはいえ、上出来の部類だろうな」
エムに対して、構成員たちにはまだ余裕がある。いくらでも余力を残していそうな――そんな雰囲気だ。
「はぁ……はぁ。うぅ……」
「ふふ、だがさすがに限界か」
「うむ。我ら相手によくもったほうだろうよ」
駄目だ。
もう手が満足に動かせない。
振り下ろされる構成員の剣を、防ぎきることができない――!!
「エム!!」
ふと名前を呼ばれたのは、そんなときだった。
「諦めるな! まだ勝機はあるはずだろう!」
「ア、アリオス様……?」
見れば、彼はいち早く決着をつけたらしい。
元剣聖にして、さらに力を身につけたというリオン・マクバを、早くも気絶させている。
すごい。
私が戦っている構成員よりずっと強そうな相手なのに、こんなにも早く倒すなんて――
私は、こんなにも未熟なのに。
と。
「え……」
なにが起きたか、エムは身体の芯から力がわき起こるのを感じ取った。
なんだろう。
自分の力が数倍にも高められたかのような――
「エム! できる限り僕も君を助ける! いままでの苦しみも悲しみも――僕と一緒に乗り越えていこう!!」
「あ……」
アリオスのその発言に。
エムはさっき以上に、活力を高められた気がした。
「はああああああああ!」
エムは咄嗟に剣を振りかぶり、襲ってきた構成員の剣を力づくで弾き返す。
「なにっ……!」
仰天の声を発する構成員に向けて、エムは剣を振り下ろした。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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