おい、ちょっとだけだぞ
周囲には静寂だけが残された。
レイも。
エムも。
村人たちも。
誰一人として言葉を発さない。
「き、綺麗な人だったわね……」
ややあって、レイがぽつりと呟く。
「それでいて、なんだか儚い雰囲気があったような……。アリオス、あの人、何者なの?」
「……女神ディエス様だ」
言いづらかったが、ここは正直に答える。
嘘をついたって仕方ないし、さっき女神本人がそう名乗ってたしね。
案の定、レイはびっくりしている。
「女神様って……あのおとぎ話の!?」
「ああ。と言っても、会えるようになったのはつい最近だけどな」
「いやいや、会えるだけでも充分すごいと思うんですけど……」
……たしかにそうか。
おとぎ話によれば、女神は世界を創造せしめた絶対的な存在だ。
世界の
実際にも、ヴァニタスロア戦でも時を止めてたしな。
……もしかすれば、この《チートコード操作》も、成長するにつれ理を超えた力を使えるようになるのだろうか。
すでにそういう力もあるけどな。
無敵時間とか。
「女神様って……」
「やっぱりアリオスさんは神様と知り合いだった……!?」
「ふふふ、だから言ったろう。アリオス様は神様なのだ。アリオス様が滅ぶとき、世界も滅びる」
あかん。
余計なことを言ってしまったせいで、村人たちがそれを口々に騒ぎ立てている。
しまいには、《新米冒険者のアリオスさん》ではなく《神様のアリオスさん》と言われ始めている始末だ。飛躍しすぎである。
「こほん」
僕は無理やり咳払いをかまし、話題を変えた。
「ところで、エムはもう大丈夫か? もうさっきの黒い奴は始末したが」
「あ、はい」
エムはこくりと頷くと、自身の胸に手をあてる。
そして数秒後、首を横に振りながら答えた。
「……もうなにも
「そうか……」
ほっと一安心する。
エム――すなわち、アルド家で奴隷として扱われていた
ウィーンや女神の話を統合すると、アルセウス救済党がなんらかの実験のために、彼女を利用していた可能性が高い。
だったら。
女神が言っていたように、近いうちにアルド家に潜入する必要があるだろう。
相手は大物領主だ。
存分に慎重を期す必要はあるが。
「しかもアリオス様。私、なんか自由に力を使えるようになってます」
「力を……?」
そうか。
女神もそんなようなこと言ってたよな。
さっきまではあの黒い物体によって引き出されていた力を、自分自身の意思によって使いこなせると。
「ちょっとだけ、力を試してくれないか。ちょっとだけだぞ」
「はい。ちょっとだけですね」
そう言ってエムが瞳を閉じた――その瞬間。
「!?」
僕は思いっきり目を見開いた。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
と、地面が揺れ出したからだ。
木々が揺れ、雑草がさざめく。
「お、おいおいおい! ちょっとだけって言っただろうが!」
「はい……。ですから《ちょっとだけ》力を解放してます」
言いつつも、まだ力を解放し続けるエム。
こりゃ駄目だ。
いままで戦ったことがないぶん、自分の強さを自覚していないんだろう。ウィーンと同じタイプだな。
この手のタイプは世話が焼ける。自覚がないからな。
――チートコード発動。
――対象の攻撃力の書き換え。
エムの攻撃力を一時的に1/4に落とした。
「あ、あれ……。なんで……?」
エムから発せられていた力は瞬く間に鳴りを潜め、地震もおさまった。
「すまないが、一時的に力を抑えさせてもらった。あとで元に戻すから、いまはそのままでいてくれ」
「力を抑える……? そんなことができるんですか……?」
「ああ。おまえは強い。だからまずは、それをしっかり自覚することが大事だな」
「は、はい……! 肝に命じます、アリオス様」
うんうん。
ちゃんと理解してくれたみたいだな。
と思っていたのだが。
「…………」
「…………」
なんだろう。
レイとカヤから呆れた目を向けられている。
「アリオス。とりあえず、ひとつだけ言わせてほしいのだけど」
「な、なんだ?」
「特大ブーメランが頭に刺さってるよ?」
「なんだと!?」
僕は慌てて後頭部をさするが、なにも刺さってなかった。
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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