おい、おまえらか弱くないだろ
一方その頃。
大物領主――アルド家にて。
「ふおおおおおおっ……」
ユーフェアス・アルドは豪勢な椅子にふんぞり返り、盛大な欠伸をかました。
「腹ぁ減ったのう。おい、そこの」
「は、はいっ!!」
「ワシが喜ぶもんを作ってこい。10分だけくれてやる」
「え、よ、喜ぶものって……」
「それくらい自分で考えんか! 貴様ら奴隷の、それが役割じゃろうが!!」
ユーフェアスは近くにあった
「っ……ぅう」
奴隷はそれでもなにも言わない。
目に涙を溜ながら、
「わ……わかりました」
と部屋を出ていく。
あの絶望的な表情。
あの生気を失った目。
生きる希望を丸ごと失ったかのような様子が、ユーフェアスはたまらなく好きだった。
どうせ10分で用意できるはずがないことはユーフェアスにもわかっている。
「クク……どう痛めつけるか……いまから楽しみじゃのう……」
「――相変わらず趣味の悪いお方だ」
ふいにユーフェアスの背後に現れるは、灰色ローブをまとった男。
背中に刀身の長い剣を携えた、見るからに達人とわかる剣士だ。
同志A。
たしかアルセウス救済党の構成員からはそう呼ばれていた。
党首に続いて、メンバー中でもトップ2の人間だと聞いている。
「Aか……。急に後ろに現れるのはやめろと言っておろうに」
「急にではありませんよ。数秒前から俺はここにいた。気づけなかったあなたの落ち度だ」
「ふん、生意気を言いおってからに。多額の資金をそちらに提供をしているのは誰だと思うておる」
「……これは失礼を致しました」
Aは腹部に右手をあてがうと、丁寧に一礼をする。
こういった一挙手一投足が、いちいち様になっている男だった。
「……その代わりと言ってはなんですが、我々の提供したホムンクルスにはご満足いただいていたようですね?」
「ああ。やはりエムは優秀であった」
とりわけ有能だったのは戦闘面だ。
そこいらの中級冒険者など相手にならないほどに強い。
Aランク冒険者は国中にわんさかいるわけでもないため、護衛などにもぴったりだ。
「あんなものを作りおって……
「クク……決まっているでしょう。我が国の救済ですよ」
「…………」
ユーフェアスはふうとため息をつくと、
「やれやれ。食えない男じゃのう」
とぼやいた。
と。
「あ……あの、領主様。これを……」
おそるおそるといった様子で、さきほどの奴隷が戻ってきた。
両手に大皿を携えている。
載っているのは――卵焼きか。
盛りつけも頑張っている。
10分という短い時間で、それこそ懸命に作ってきたのだろう。
だからこそ――落としがいがある。
「馬鹿か貴様はっ! そんなゴミ、誰が食うと思っとるんじゃぁぁぁあ!!」
「ひぃぃっ! ご、ごめんなさいごめんなさい!!」
泣きながら土下座をする奴隷に、ユーフェアスは果てしない快感を覚えるのだった。
「クズめ……」
ひとり、Aがそう呟いているのも気づかずに。
★
「さて……いきますよ」
ラスタール村。
村の外れにて。
レイは遠くのカカシに向けて、静かに右手を掲げる。
その様子を、僕を含め、多くの村人が見守っていた。
「はああああっ!!」
気合いのこもったかけ声とともに、レイは強大な魔力を解放。
光の可視放射が彼女の手から発生し、見事、カカシを貫通した。
いや、それどころじゃない。
その奥にあった木々すら、丸ごと突き抜けていった。
「はは……」
思わず苦笑を浮かべる僕。
とんでもない成長具合だ。
さっきとは段違いじゃないか。
「す、すごい……」
レイも同じく、涙すら浮かべて感動の真っ最中だ。
「いまのは中級魔法……こんなのが一瞬で使えるようになるなんて……」
「おめでとう。でも、レイならもっと強くなると思うぞ?」
「やばい……嬉しすぎて……」
まあ、彼女は内にこもるより外で動き回るのが好きなタイプだもんな。
強くなった感動も
「アリオス、ありがとう! これからも
二人で、というフレーズを妙に強調した言い方に、カヤが突っかかる。
「あらレイ。私だってアリオスさんに訓練してもらうんだからね?」
「あんたはもう強いからいいじゃない。ここはか弱い乙女たる私が……」
「なに言ってんの。アリオスさんにかかれば私もか弱い……」
――また始まった。
レイとカヤが集まると、最近いつもこうなる気がするな。
まあ、賑やかなのは悪くないんだが……
「あ、あの、アリオス様……」
ふいに名前を呼ばれて振り返る。
そこにいたのはエム。
彼女も、僕たちの訓練を遠目に眺めていた人物だ。
袖の長い服を着させることで、奴隷紋はうまく隠してある。
これで彼女が奴隷であることが知られないし、村人がアルド家から因縁をつけられる可能性も薄まるだろう。
ちなみにウィーンはいま召喚していない。あいつがいたら絶対に騒がしくなるからな。
「どうした? エム」
僕の問いかけに、エムは恥ずかしそうにもじもじしながら答える。
「その……私とも、戦ってほしいんですけど」
「へ……エムと?」
彼女も戦える身なのか?
いまの姿からは想像もつかないが……
「エムちゃん。なにを言ってるんですか」
苦笑とともに隣のメアリーが宥めるが、僕は彼女のただならぬ様子に気づいていた。
エムは本気だ。
――切実なまでに。
「……抑えられないんです」
うつむきながら、エムがぼそりとそれだけを呟く。
「私だけ、他の
「黒い、声……」
――同志Aは本当に
ホムンクルス――彼女の出生となんらかの関係があるのか。
正直、なんのことかまったくわからない。
だけど。
彼女の悩みは真剣そのものに思えた。
だから。
「いいよ。全力でぶつかってくるがいい」
「はい……」
エムが頷いた、その瞬間。
「はぁぁぁぁああ……」
彼女の全身から、見覚えのある波動が発せられた。
それは漆黒の宝石――改め影石とまったく同じ、闇の波動。
「なぁぁぁあああっ!」
「なんじゃこれはっ!!」
村人たちがいっせいに騒ぎたてる。
僕も正直、驚いていた。
この威圧。風格。
想像以上だ。
「うぉああああああああっ!!」
瞬間、彼女は剣を握っていた。
異空間から出現させたかのように。元々そこにあったかのように。
いつしか、エムは漆黒のオーラに包まれていた。物静かで和やかな彼女とはまるで似つかわしくない、ドス黒いオーラ。
「お願いします……剣聖アリオス様。私を……止めてください」
泣きながらエムは言った。
「ああ……任せてくれ」
本作におきまして、書籍化&コミカライズが決定しました!
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