近年、ダイアライザーの性能の向上、透析液の清浄化、新しい治療法などの登場で、昔よりはるかに良い透析を行えるようになりました。
しかし、透析の効率を上げるというのは今昔変わらず、いつになっても「課題」です。
患者さんも、できるだけ効率が良い透析を受けたいと思っているはずです。
透析にかかわる臨床工学技士(CE)として、透析効率を上げる方法を知ることは必須だと思います。
時に患者さんに説明をする時もあります。質問されることもあります。
しっかり知識として身に付けたいところです。
今回は透析効率を上げる方法とその理由、注意点など、紹介していきたいと思います。
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透析効率を上げる意義・必要性
透析効率を上げる意義・必要性について説明します。
①透析時間は限られている
ほぼ一日中透析ができる腹膜透析(PD)と比べて、血液透析は仮に週3回4時間とすると、
1週間で透析に充てる時間は合計3回×4時間=12時間しかありません。
1週間の総時間=7日×24時間=168時間と比べるとその差は明らかです。
割合だと僅か7%です。少ないですね。
この限られた12時間の透析時間を
15時間分相当の透析にしたり、20時間分の相当の透析ができるかどうかは透析効率にかかってます。
※15時間分・20時間分の相当の透析とはあくまでイメージの話です。ご了承ください。
②長期合併症の予防・予後の改善
効率が良いより良い透析ができると、長期合併症の予防・予後の改善のが期待できます。
これは海外や日本の研究でも明らかになっています。
長期合併症は以下のものがあります。
[代表的な長期合併症]
・透析アミロイドーシス
・CKD-MBD (慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常)
・RLS (レストレスレッグス症候群) 別名:むずむず脚症候群
・心不全、脳血管疾患
・感染症
効率を上げる考え方
方法に行く前に、効率を上げるうえで基本となる考え方を説明します。
透析量の指標など計算式を使う考え方もありますが、ややこしくなるのでここでは考えません。
ほぼすべての方法に当てはまるのではないか?と思います。
簡単です。
透析を上げる考え方は1文で表すと、ズバリ、
「血液と透析液をいかに多く触れさせるか」
です。
血液と透析液を多く触れさせることで透析の原理である「拡散」が効率よく行えるようにするということです。
イメージだけでもいいです。次に進みましょう。
効率を上げる方法
では、実際に効率を上げる方法について方法を説明します。
効率の上げ方は色々あると思いますが、大まかには以下の3つあります。
※今回は小分子物質(尿素窒素、クレアチニンなど)の効率について考えます。
①QB(血液流量)を上げる
血液ポンプの速度を上げる方法。
一番シンプルで簡単なことだが、
効率を上げる上で基本となり、更には超重要(だと思っている)。
[理由]
前述した効率を上げる考え方「血液と透析液を多く触れさせる」で「速さ」に対して注目した方法です。
血液と透析液は対向性(血液と透析液がそれぞれ向かい合って)で、
ダイアライザー内を流れています。
血液と透析液を多く触れさせるということは、単純に血液量か透析液量を増やせば、多く触れさせることができますよね。
患者さんの血液量を増やすのは、現実的に無理なので、、、。
血液の速さを上げて血液量を増やす(実際はポンプで回っているだけ)ってことになります。
例)
QB150ml/minとQB200ml/minにおいて
血液がダイアライザーを通過した量(総循環血液量=QB×時間)の比較
※透析時間4時間で除水なしの場合で考えます。単位に注意してください。
QB150ml/minの場合は
150ml/min×4時間×60min=36,000ml=3.6L
QB200ml/minの場合は
200ml/min×4時間×60min=48,000ml=4.8L
QB200の方がQB150より1.2Lも血液と透析液を多く触れさせることができますよね!
それだけ血液が透析によってきれいにできたってことになります。
[注意点]
・QB(血液流量)を上げるには、それに合った針の太さにしなければならない。
例えば針が17Gとか細いのに、QB300とか無理です。15G以上の太い針を使いましょう。
・シャントの種類、狭窄の有無などによってシャント流量が十分になければ、QB(血液流量)は上げられない。
シャント血管に流れているそもそものの血液流量以上のQBを設定することは、物理的に無理です。
血管にもあまり良くないとされています。シャントエコーでFV(フローボリューム)を確認しましょう。
②QD(透析液量)を上げる
コンソールと供給装置の画面の設定を変えて、透析液流量を上げます。
[理由]
血液流量と同じです。
血液と触れ合う透析液流量を上げることで「拡散」の効率を上げるのです。
[注意点]
設定画面をいじるだけで簡単に変えれちゃう簡単な方法ですが、かなり注意が必要です。
それはコンソールの稼働台数、供給装置の余力、RO装置のタンク容量に依存するということです。
例えば
QD500で透析を行う施設で、1日に10,000Lの透析液を使ってるとします。
供給装置とROタンクの余力はそれぞれ500Lくらいだとします。
この施設の透析液を作れる量はせいぜい10,500Lですね。
これをQD500をQD1,000にしました。単純に考えて、1日に必要な透析液は2倍で20,000Lです。
この施設の透析液を作れる量はせいぜい10,500Lで、はるかに超えてしまいます。
この場合どうなるかというと、
透析中に供給装置かRO装置から警報が鳴って、透析液が十分に供給されず、透析ができなくなる恐れがあります。
なので基本的にはQD(透析液量)の設定は変えないでください。
QDを変えるときはコンソールの稼働台数、供給装置の余力、RO装置のタンク容量を計算し、慎重に変えることをお勧めします。
ちなみに僕の施設では変えたことはありません。
機械室が2つありますが、患者さんも多いので結構ギリギリらしいです。
②の方法は頭の隅にでもしまっておいてもいいかもしれませんね。
③膜面積を上げる
ダイアライザーの面積が多きいものに変えるという方法です。
[理由]
血液と透析液を触れ合う場所(面積)を広げて、血液と透析液をより多く触れさせるようにする。
イメージとしては、、、
小さいぞうきん(手のひらサイズ)と大きいぞうきん(A4サイズくらい)で同じ床を掃除するとどっちが効率よく掃除できるか?という話です。
もちろん大きい(面積が大きい)ぞうきんですよね。
モップとかあればもっと効率よく掃除できますよね。
こんな感じに面積が大きいほど効率よく透析ができます。
[注意点]
・ある程度QBが確保できないと膜面積を上げても最大限に効率が上がらない。(諸説あり)
またぞうきんがけをイメージしてください。
いくら大きいぞうきんだとしても、だらだら、のろのろぞうきんがけしてちゃ、いつになっても床はきれいになりませんよね。
目安としてはQB250以下で膜面積2.1㎡まで、QB250以上で2.5㎡以上がいいと思います。
※あくまで目安です。
まとめ
・透析を上げる考え方は「血液と透析液をいかに多く触れさせるか」
・透析の効率を上げるには主に3つある
①QB(血液流量)を上げる
②QDを(透析液流量)を上げる
③膜面積を上げる
効率を上げる時は、注意点を守り、血液データ、シャント機能などあらゆる視点から考え、慎重に行いましょう。
今回は透析の効率という点で小分子物質に着目しましたが、
大分子物質については透析効率を上げる方法 (大分子物質)(内部リンク)を見てください。
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