アフガン和平 歴史的な好機を逃すな
2020年9月25日 07時23分
四十年余に及ぶアフガニスタン紛争をめぐり、アフガン政府と反政府武装勢力タリバンの和平交渉がカタールのドーハで始まった。米軍が完全撤退に向かう中、歴史的な好機を逃してはならない。
アフガン政府と、イスラム法による厳格な統治を目指すタリバンとの直接交渉は二〇一五年にもあったが、タリバン創設者のオマル師の死が公表され、中断された。今回は米国とタリバンが二月末に来春までの米軍完全撤退、アフガン政府とタリバン双方による捕虜交換などで合意したことを受け、十二日にスタートした。
アフガンでは一九七八年の青年将校による革命以来、紛争が続いてきた。二〇〇一年には米中枢同時テロが起き、首謀者で武闘派組織アルカイダのビンラディン容疑者を旧タリバン政権が引き渡さなかったため、米軍中心の連合軍が侵攻。同政権は崩壊した。だが、その後も内戦は続き、タリバンは全土の数十%を支配している。
軍事的な解決は見えない。交渉の後見役である米トランプ政権の狙いは大統領選に向けた成果づくりだが、そうであっても類いまれな好機だ。アフガンでは〇九年以降に約三万五千人の市民が命を失い、米軍の死者もアフガン戦争を含めて二千四百人を上回る。生命の重さは何物にも代えがたい。
もちろん楽観はできない。統治のあり方や女性の権利など、交渉の争点はいずれも溝が深い。
米国内の不協和音も不安材料の一つだ。軍需産業にとってアフガン内戦は格好の市場で、イスラムを嫌悪する「人権派」も少なくない。六月には米有力紙に「ロシアがタリバン系勢力に米兵殺害の資金を供与している」という米中央情報局(CIA)の情報(米国家安全保障局は内容に異議)が載った。和平交渉を妨げたい勢力が意図的に流したという観測がある。
それでも交渉の主役らが妥協を重ねて、同じテーブルに着いた意義は大きい。開会式で反タリバンの急先鋒(せんぽう)だったアフガン政府のアブドラ国家和解高等評議会議長は「戦闘を続けても勝者はない」と言明。ポンペオ米国務長官はタリバンを意識して「(西側流の)体制を押しつけない」と譲歩した。タリバンも過激派「イスラム国」(IS)の掃討作戦を継続。政府側交渉団の女性メンバーたちも受け入れた。
交渉はまだ出発段階で、逆戻りする危険も伴う。歴史的な好機が水泡に帰さぬよう、日本を含めた国際社会の支援が必要だ。
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