|リクルートが提供するM&A・事業承継総合センターロゴ

|リクルートが提供するM&A・事業承継総合センターロゴ

後継者探しのご相談はこちら フリーコール 0120-15-7207 受付時間:平日10:00〜19:00 無料相談

営業権とは何か?のれんとの違いと実際に使われる2つの評価方法を解説

はじめに

M&Aを検討する際に「営業権」と「のれん」という言葉を目にする機会も多いと思います。営業権とのれんは、実務上ほとんど同じ意味を持つ言葉として認識されています。この記事では営業権とは何か、のれんという言葉に置き換わった経緯、中小企業のM&Aにおいて使われる営業権の評価方法などについて、株式会社エクステンドの今野洋之様に聞きました。


1. 営業権とは?営業権とのれんの違い

営業権とは?営業権とのれんの違い
そもそも営業権とはどんな意味を持つ言葉なのでしょうか。まず、M&Aにおける営業権の意味と、のれんとの違いについて解説します。

「営業権」と「のれん」は、実務上ほとんど同じ意味を持つ言葉として捉えられていますが、M&Aの現場では「のれん」を使うケースがほとんどです。

かつて、「営業権とは何か」について裁判で争われたことがあります。その際、昭和51年7月13日の最高裁判決において、以下の判決が出ました。

「営業権とは、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、特殊の製造技術及び特殊の取引関係の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を稼得することができる無形の財産的価値を有する事実関係である。」

会社は様々な財産を保有しています。現金預金や売掛金、在庫といった会社が保有している「有形の財産価値」は貸借対照表に明記されますが、伝統的信用や立地条件、取引先との関係といった「無形の財産価値」は貸借対照表に記載されません。営業権はこうした無形の財産価値を保有・使用する権利として捉えられていました。しかし、M&Aの現場では、伝統・社会的信用や立地条件、取引先関係以外にも、企業の様々な財産価値が譲渡価格に反映されます。つまり、営業権の定義では捉えきれない企業の価値を譲渡価格に反映するために、会社法上の「のれん」という言葉が使われるようになりました。のれんとは、M&Aの買収価額と、買収された企業の時価純資産を上回った差額を指します。本来、企業の価値は純資産の価格と一致するはずですが、なぜ買収価額と売手の純資産が同額にならないのでしょうか。

例えば、買手から見て、滅多に売りに出ない会社が売りに出されていたとします。今すぐに買収しないと他社に買収される可能性もあるため、どうしても買収したいという動機が働きます。仮に想定した買収価格より高かったとしても、希少価値が高いため、売手の純資産を超えた価格で取引が成立します。複数の買手で一つの会社を争う場合も同様で、買収価格は値上がりしやすいでしょう。

あるいは、売手の純資産とは関係なく、買手の目線から「自分たちが経営すればさらに利益を出せるから、少し高くても買う」といったケースもあります。買手の経営方針によって「この会社を買えばこの地域に進出できる」「この地域でトップになれる」「競合がいなくなる」「自社で新規参入するよりも買った方が時間とコストを軽減できる」という理由からM&Aを行う可能性も十分考えられます。つまり、M&Aの価格は買手の経営方針やその会社・事業をどれだけ必要としているかによって、大きく変わるのです。

前述の営業権の定義だけでは、こうした買手の主観的な経営判断がもたらすプレミアムを計上することはできません。こうした背景から「営業権ではなくのれんという言葉を用いる」ようになったというのが実態です。ただし、営業権とのれんは厳密に言えば別の言葉ですが、混同して使っても大きな問題があるわけではありません。


2. 中小企業におけるM&Aの評価方法

中小企業における営業権の評価方法
M&Aにおける営業権の評価方法は様々ですが、買手の意向や売却タイミング、希少性などによっても譲渡価格は変動します。一般的に、企業の営業権を算出する方法として、インカムアプローチ(例:ディスカウントキャッシュフロー法)、マーケットアプローチ(例:マルチプル法)、コストアプローチ(例:時価純資産法)が挙げられますが、中小企業のM&Aでこれらの手法が使われるケースは多くありません。

中小企業のM&Aにおける営業権の算出方法の中で、よく使われているのが「年買法(年倍法)」です。年買法は過去の「修正営業利益」や「税引後利益」などに、それが将来継続すると見込まれる年数を参考として、推定された年数を乗じて算出された額を営業権とします。さらに、営業権を含めた企業価値は「純資産額プラス事業収益(営業利益、EBITDAなど)×数年分(通常2~5年)」という計算式で算出することができます。

ただし、年買法で算出した企業価値は目安として活用できますが、必ずしも最終的な譲渡価格と同じになるわけではありません。売手の店舗や設備などを直接確認する「実査査定法」を併用するケースが多いでしょう。ここからは、営業権の算定方法として使われる年買法と実査査定法を解説します。

【年買法(年倍法)】

年買法のメリットは、売手の決算書をベースにした評価方法であるため、企業価値の目安を明らかにしやすいという点です。客観的なデータである「事業利益」に基づく計算方法であるため、公平性に優れており、交渉を開始する際の目安価格として活用されています。M&Aを検討する際に、自社がいくらで売れるのかを気にする経営者も多いと思いますが、年買法を用いると概算金額を見積もることができます。景気などの変動要因を考慮していない点や、年数倍率に恣意性が入りやすいという点が主なデメリットとして挙げられますが、シンプルで使いやすく、売手と買手双方にとってわかりやすい点は大きなメリットと言えます。

先述のように、年買法では「純資産額プラス事業収益(営業利益やEBITDAなど)×数年分(通常2~5年)」という形で企業価値を見積ります。年数倍率は、3年程度とするのが一般的ですが、売手の業種や収益構造などによって調整を行います。例えば、顧客との関係が継続的なストック型のビジネスであれば4年や5年に設定し、反対に都度顧客と関係を築くビジネスや、流行にされやすい商品・サービスを扱っている企業であれば2年などで調整します。

注意したいのは、年買法にファイナンス理論上の合理性はなく、「事業収益」についても、営業利益、経常利益、EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益)など、任意の基準で評価している点です。つまり、何を基準にするかで譲渡価格が変わってきますし、原材料価格の高騰や特別損失の形状などの変動要因を考慮するかどうかによっても変わってきます。特に決まりがあるわけではないですが、一番大事なことは、売手の収益性を最もよく表している数値を選ぶということです。

【実査査定法】

中小企業のM&Aにおいて、年買法と併用される評価方法が実査査定法です。実査査定法とは、買手の社長や事業部長、あるいはコンサルタントなどが一人または複数人で現地へ出向いて、売手の店舗や設備などの現物を直接確認し、いくらの価値があるのかを「査定」する方法です。要するに「目利き」です。

実査査定法が用いられるのは、売手が店舗や工場を所有している場合です。建物や設備は老朽化していないか、内装設備は居抜きで使えるかどうか、動いていない機械がある場合、減価償却が終了しているかどうか、リース残があるかどうかなどを確認します。店舗を査定する場合は、店舗前の人通りを調査することもあります。

M&A巧者と呼ばれる買手のほとんどは、実査査定法を重視しており、実際、買手の社長の目利きで譲渡価格が決まるケースもあります。現物を調査することで、その後の買収監査(ディーディリジェンス)を短縮できるというメリットもあります。その結果、M&Aのプロセス全体をスムーズに進めることができるでしょう。

【マーケットアプローチ(比較法)】

マーケットアプローチとは、同業他社の譲渡価格や同業の大手企業の株価などを用い、それに係数をかけて算出する方法です。類似取引比較法や類似企業比較法とも呼ばれます。ただし、中小企業のM&A案件でこの手法を使うことは多くありません。

その理由は、比較対象とする取引や会社をどのように設定するかで譲渡価格が変わるからです。理論上、複数社の平均値を出せば恣意性が薄まると言われていますが、恣意性を完全に払拭できるとは言えません。比較対象となる企業が、売り手企業と同じ目線で比較してよいと言い切れないのです。恣意性が残るものに多額の費用をかけるのは、中小企業のM&Aにおいて現実的ではないと思います。

【ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)】

ディスカウントキャッシュフロー法とは、将来のフリーキャッシュフローにリスクを反映させた割引率を適用して、企業価値を算出する方法です。市場の動向や競合企業の動きなどをもとに、フリーキャッシュフローの予測を行いますが、中小企業のM&Aにおいてディスカウントキャッシュフロー法が使われるケースは限定的で、金融機関等の外部組織・債権者への説明の際等に、適正な企業価値評価を行うため、ディスカウントキャッシュフロー法が利用されることがあります。

なお、ディスカウントキャッシュフロー法では、リスクを反映させた割引率を適用しますが、その設定には恣意性が入ってしまいます。「割引率はなぜこの数値にしたか」の問いに、間違いのない答えは出しづらいのです。よって、年買法より手間もコストもかかりますが、だからと言って客観的な譲渡価格を算定できるというわけではありません。恣意性が入るのであれば、手間もコストも小さくわかりやすい年買法の方が効率的と考える中小企業も多いです。

以上、企業価値評価における営業権の算定方法について説明してきましたが、企業価値評価の方法は多数あり、企業のビジネスモデルや事業の収益力などの実情によって評価の仕方も変わります。最終的にお互いが納得できるのであれば、どの手法を用いても特に問題はありません。極論を言うと、お互いが納得さえできれば100万円であろうと1億円であろうと問題ありません。理論や理屈ではない、買手経営者の経営判断も譲渡価格に反映されるため、頑なに考えるのではなく、柔軟な発想でM&Aに臨むことをおすすめします。


3. M&Aにおける営業権の評価を高めるために

_M&Aにおける営業権の評価を高めるために
M&Aにおける営業権や企業価値の評価方法について解説してきましたが、企業を評価する以上、これと言える最適な手法があるわけでなく、一長一短、つまりいずれも完璧なものではありません。最終的な企業価値を決定するには、買手と売手双方の交渉が不可欠です。その交渉を有利に進めるためにも、売手がM&Aを検討する前に準備しておきたいことを紹介します。

① 最終的に残したいものを最初に明確にしておく

事業や資産、株式を譲渡して最終的に残したいものは何でしょうか。例えば、リタイア後の生活を守る、従業員の雇用を守る、業務を継続してもらうなど、様々な想いがあると思います。しかし、その中で最も優先するもの、絶対に守らないといけないものは何でしょうか。それを最初に決めておくことが非常に大切です。というのも、先にお金の話から入ると、最後の詰めの段階で「あといくら上げられないか」とお金にのみフォーカスが当たって過剰な欲が出てしまい、取引が決裂することが多々あるからです。結果として、タイミングを失って売却できなくなったり、より安価な価格で売却せざるを得なくなったりします。折角のチャンスを逃さないためにも、何を残して何を守るのかを先に決めておくべきです。

売手としては、できるだけ高く売りたいですし、買手としては、できるだけ安く買いたいと思うのは当然です。しかし、金額だけをあれこれ言っても話はまとまりません。売手は最低限守りたいものは守れる。買手は最低限得たいものを得られる。その前提で金額を調整していく気持ちが大切です。高すぎても安すぎても、どちらかが後悔することになった場合、M&Aは決して成功とは言えません。金額以外の部分での納得感を先に定義し、金額は結果的に決まってくるというのが理想のM&Aです。

② 社長の人望にも価格が付く

中小企業のM&Aで一番成立しやすいのは、近隣の同業種が買手になった場合です。というのも、売手の業種やビジネスに理解があるからです。知っている相手であればなお安心感がありますし、近隣のため管理も相対的に難しくありません。

その際に、社長の人望や過去経緯で譲渡価格が変わってくることがあります。例えば、「同業他社でライバルではあるけれども、先代の時に助けてもらった」といった話になることがあります。また、「社長と社員の関係が良くて離職率が低く、社員の仕事の質も高い」といった話も出てきます。そうすると、提示している譲渡希望価格が多少高くても買収される可能性が高まります。社長がそれまで積み上げてきた徳や人望が最終的に買手を動かすことは珍しくありません。M&Aにはこうした側面もあることを理解しておいてほしいのです。

③ M&Aは社長としての最後の、最大の営業という気持ちで臨む

面識のあるなしに関わらず、M&Aにおいてトップ面談は非常に重要です。売手社長の立ち居振る舞いや話し方などによって、買手社長が抱く印象は大きく異なり、最終的な譲渡価格に反映されます。

売手の社長にとって、M&Aは最後の、そして最大の営業。会社だけでなく、社長自身も売ってほしいと思います。実際、トップ面談の場で買手の社長が「あなたと仕事をしたくなった」というケースもありますし、社長自身の人柄や魅力で譲渡価格がぐっと上がったケースもあります。

売手の社長は、会社だけでなく自分自身のことも伝えていかないといけませんし、買手もそういったところまで見ないといけないと思います。サポートする私たちも、お互いの人柄や魅力まで伝わるように支援させていただきます。


話者紹介

株式会社エクステンド 今野 洋之
株式会社エクステンド
今野 洋之(こんの ひろゆき)
慶應義塾大学を卒業後、旧さくら銀行(現三井住友銀行)に入行し、中小企業向け融資を一貫して担当。企業再生に関与するため中小企業財務責任者に転身、日本経済と中小企業の再生・発展を目指す。2008年に株式会社エクステンドに入社。1,300件以上の相談対応件数を誇り、経営改善計画の立案や履行、M&Aの活用による事業再生を担う。M&Aコンサルタントとして各拠点で活動するかたわら、これまでに100回超の講演・セミナー講師を務める。

ご相談・着手金は無料です

後継者探し事業承継総合センターご相談ください!

第三者承継のお手伝いをいたします

事業承継総合センターの特徴

  • 1万社以上の中から買手企業を比較検討可能
  • M&A品質の担保
  • 着手金なし成果報酬
お電話でのご相談 0120-15-7207 (FAX:03-5539-3514)
受付時間:平日10:00~19:00
お問い合わせにあたり、プライバシーポリシーに同意したとみなされます。