第1話 藤咲実桜、着隊!

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「申し訳ありません! ブルーインパルスの飛行訓練に夢中になってしまって、到着が遅れました!」  それはいまから30分ほどまえのことだ。松島基地に到着した実桜は、まず最初に基地司令に着隊の挨拶と申告をした。基地司令に挨拶と申告を終えると、実桜は次に隊長が待つ飛行隊隊舎に向かった。道中何事もなければ、実桜は時間より少し早く、飛行隊隊舎に着いていただろう。  だけれど実桜の歩みを止めるものがあった。それはブルーインパルスの飛行訓練だ。憧れの飛行部隊の訓練に、実桜は夢中になってしまい、到着が遅れてしまったのである。  様子を見ていた警務隊の隊員に、「迷子になったんですか?」と、声をかけられていなかったら、到着時刻はもっと遅れていただろう。  自衛隊はいかなる場合でも、時間厳守・命令厳守が求められる。だから隊長は怒っているに違いない。  実桜が叱責を覚悟したそのときだ。なんと隊長は豪快に破顔一笑したのである。大爆笑されるようなことをした覚えはないのだけれど――。狐につままれたように、実桜はきょとんとしてしまった。 「すまんすまん。べつにおまえを笑っているわけじゃないんだ。おまえの親父さんのことを、思い出してしまってな。思い出し笑いっていうやつさ」 「父さんのことを、ですか……?」  戸惑いがちに実桜が訊くと、隊長は笑顔のまま頷いた。
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