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町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい【完結保証】 作者:一色孝太郎
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第5話 町人Aはせどりを始める

2020/09/09 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました

遺跡のゴブリンから『鑑定のスクロール』を盗んでから 2 週間がたった。


いつも通り今日もギルドへどぶさらいをしにやってきたのだが、何やら様子がおかしい。


「おじさん、何かあったの?」


俺は受付のおっちゃんに尋ねる。


「おお、アレン坊か。なんでも北東の古代迷宮の跡でゴブリンの巣が見つかったんだ」


なるほど。どうやらあそこのゴブリンたちはついに見つかったらしい。


「そんでゴブリンどもは放っておくと増えて被害も大きくなるから討伐隊を組んでいるんだよ。お宝もため込んでいたら儲かるしな」


もしかしたら、ゲームのシナリオ的には、ゴブリンが集めたお宝のうち土に埋もれていたあの『鑑定のスクロール』だけが回収されずにそのまま残っていて、それをエイミーが手に入れたという設定なのかもしれない。


「ま、アレン坊にはまだ早ぇな」

「わかってるよ」


そもそも俺にはもう関係のない話だ。


俺は【鑑定】スキルを手に入れた。それで十分だ。


ちなみに、【鑑定】スキルも【隠密】スキルと同じように隠蔽している。


8 才児のギルドカードにいきなりスキルが増えていたら怪しまれるだけだろうからな。


さて、俺の次の目標は金儲けだ。ひたすら金儲けをして、なる早で 1,500 万セントのお金を作る。


なんでこんな大金がいるのかというと、『錬金のスクロール』を買うためだ。もちろん、このスクロールを使うと【錬金】というスキルを手に入れることができる。


では、何故【錬金】スキルがいるのか、ということだが、こいつは完全なチートスキルだ。どうチートなのかは説明すると長くなるので今はさておこう。


そもそも『錬金のスクロール』というのは実質的に課金しなければ買うことができない、いわゆる課金アイテムで、ルールーストアという怪しい店で買うことができる。ちなみにこの店はゲーム内ではアイテム交換所だ。『錬金のスクロール』から魔石まで、課金アイテムは全てここで買うことができる。


そしてその『錬金のスクロール』の価格は何と 1,300 万セントだ。価格はシナリオの進行度合いによって変動するのだが、一番高い時でも 1,500 万セントだった。


俺も逆ハールートがどうしてもクリアできなくて、『錬金のスクロール』のためのセントを買うために泣く泣く諭吉さんとさよならした。


う、思い出したら……こほん。


さて、ともかく俺の計画のキーとなるのはこの【錬金】スキルだ。このチートスキルを使って運命(シナリオ)をひっくり返してやるのだ。


そのためにもまずは金だ。金を稼いで稼いで稼ぎまくるのだ。


というわけで、午前中でどぶさらいを終えた俺は持っている中で一番ましな服に着替え、旅の商人たちが露店を構えている地区へとやってきた。


ゲームだとこの地区は攻略対象とデートにやってきて、フラグが立っていれば異国のアクセサリなんかをプレゼントしてもらえるのだが、俺が探すのはアクセサリではなく掘り出し物だ。


今の俺の所持金は 5,000 セントちょっとしかないが、これで買える掘り出し物を探すのだ。


まだ魔石がないのでヒロインチートの【鑑定】スキルではないが、それでも見たものが何で、いくらの価値があるのかを正確に見抜くことができるのは大きい。


俺は早速手ごろなアクセサリショップをのぞいてみる。


安いものだと 1,000 セントから売っている。


そんな中、2,000 セント均一コーナーにある薄汚れたイヤリングに目が留まった。


────

名前:ちからのイヤリング

効果:このイヤリングを身に着けた者の力を僅かに上昇させる。

等級:希少(レア)

価格:300,000 セント

────


「おじさん、このイヤリングって――」

「ああ、それは片方しかないからな。ダメだぞ、女にやるにはきちんと揃ったやつをあげないと嫌われるぞ?」

「あ、いえ、これはどういう品物なのかなって」


自分で言うのも何だが、このおじさんはまだこんないたいけな少年に一体何を教える気だ。まったく。


「そういうことか。こいつは俺の取引先だった商人の奥さんが借金のかたに置いて行ったものだよ。それより坊主、相手はどんな子だ?」

「いえ、そうではないんですが、このイヤリングをください」

「あん? まあいいか。2,000 だぞ」

「支払いはギルドカードでお願いします」

「あいよ!」


俺は自分のギルドカードと店主のおじさんのギルドカードをタッチする。


『2,000 セントを支払います。よろしいですか?』


目の前にプレートが出てくるので俺は『はい』をタッチする。これで支払いは完了だ。


いい買い物をした。半額の 15 万セントで売れればいいだろう。客は冒険者か、もしくはこういうのを扱っている店だろう。


他にも掘り出し物がないかを探していると、今度はボロボロに汚れた手袋が 1,000 セントで売られている。


────

名前:耐火の手袋

説明:魔法の力によって装備者を炎から守ってくる。とても燃えづらい。

等級:希少(レア)

価格:70,000 セント

備考:汚れているが、洗濯可能

────


なるほど。洗濯すれば高値がつきそうだ。


「おじさん、この手袋下さい」

「はいよ。お使いかい?」

「うん」


俺はギルドカードで 1,000 セントを支払う。


30 分もたっていないが、中々良いものを買えたのではないだろうか?


残金が 2,000 セントちょっとになったので俺は家に戻った。


そして共同の洗い場で汚れた手袋を洗濯する。ついでに我が家の洗濯ものも洗ってしまった。まだ日は高いし、乾くだろう。


手袋と我が家の洗濯を 2 時間ほどかけて済ました俺は窓に干す。手袋の汚れが思ったよりも頑固で大変だったが、この陽気なら夕方には乾くだろう。


そして、頑固な汚れを落とした耐火の手袋の価値は 10 万セントにアップしていた。


****


翌日、学校を終えた俺は昨日仕入れた品物を持って冒険者ギルドへとやってきた。


「おっちゃん」

「おう、アレン坊。どぶさらいか?」

「そうだけど、それだけじゃなくて、売りたいものがあるんだ。相談に乗ってよ」

「おうおう、どれだ?」


いつもの受付のおっちゃんに相談することにした。このおっちゃん、実は元冒険者で怪我をして引退してギルドの職員になったそうで、今更だが名前はルドルフというらしい。


俺はどぶさらいをずっと頑張っている子供ということで目をかけてもらっている。大抵の子供は臭い汚いきついと 3K がばっちり揃ったどぶさらいを嫌がってすぐに来なくなってしまうのだそうだ。


確かに俺もつらいとは思うからな。気持ちはわかる。


ただ、そんなわけで俺は根性があるとおっちゃんやギルドの先輩方に可愛がってもらっているのだ。多分、悪いようにはされないと思う。


「この『ちからのイヤリング』と『耐火の手袋』を売りたいんだ」

「なに? どこでそんなお宝を?」

「マーケットで合わせて 3,000 セントで買ったよ」


それを聞いたおっちゃんは少し憐れむような目で俺を見る。


「おう……偽物じゃないといいけどな。見せてみろ」


確かに、普通ならそう言う反応になるだろうな。俺だってそんな話を聞いたら騙されたって思うだろうし。


俺は商品を手渡した。


するとその瞬間、おっちゃんの表情が変わった。


「おい、アレン坊。ちょっと奥に行って調べてくるから待ってろ」


おっちゃんは窓口の奥の部屋へと商品を持って走っていく。


奥のほうではおっちゃんと誰かが話をしているっぽい。時折、ええっ、という驚いた声が聞こえてくる。


そしてしばらくしておっちゃんが戻ってきた。


「こいつをアレン坊が売りに出すとおかしな輩に狙われる可能性がある。ギルドで適正価格で買い取るがいいか?」

「うん」

「じゃあ、まずこっちのイヤリングが 25 万、手袋が 6 万の合計 31 万だ。手袋のほうはちと状態が悪い。新品同様なら 50 万くらいの値段はつくんだがな。悪いな」

「ううん。こんな大金、見たことないしこれでいい」


とりあえずこう言っておく方が無難だろう。まだまだこれから大量に(さば)いてもらう必要があるのだ。ここは損をして得を取っておこう。


「よし、じゃあギルドカードに振り込んでおくぞ」


そうしておっちゃんは振込手続きをしてくれた。


「いいか? 今回はたまたま運が良かっただけだからな? 調子に乗ると失敗するぞ?」

「うん、わかってるよ」


やっぱりおっちゃんはやさしい。


この後俺はどぶさらいをきっちりとやってから帰宅した。

アイテムの等級について

伝説(レジェンダリー):神話、伝説級の貴重品

叙事詩(エピック):叙事詩や英雄譚などに登場する貴重品

希少(レア):非常に手に入りづらい特別な品物

非凡(アンコモン):質が良い、珍しいなど一般的な品物とは一線を画す品物

平凡(コモン):一般的な品物

劣等(ジャンク):質の悪い品物

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