少年法答申案 根拠に乏しい改正案だ
2020年9月23日 07時54分
十八歳、十九歳の少年事件は現行どおり、すべて家庭裁判所に送られる。だが、少年法の適用年齢とは明言しない−。法制審議会の部会が承認した答申案は玉虫色だ。本当に改正が必要か疑わしい。
罪を犯したら、成人の場合なら刑罰が科される。少年法は教育によって立ち直りを図る理念でできている。少年が未成熟で変化の可能性に富んでいるためだ。
だから改正民法の施行で二〇二二年四月から成人年齢が十八歳に引き下げられると、少年法上の取り扱いをどうするかが問題となる。法制審の「少年法・刑事法部会」がまとめた答申案では、十八歳と十九歳は大人とも子どもとも異なる取り扱いをする−そんな玉虫色の表現になった。
焦点だった少年法の適用年齢への明言がなく、国民意識や社会通念などを踏まえて、「今後の立法プロセスでの検討に委ねる」と判断を避けてもいる。結局は政治の側に丸投げするのに等しい。三年半もの議論を踏まえた専門家の見解を示してほしかった。
論議の過程で元少年院院長や元家裁調査官ら少年司法や矯正に携わった人々から、適用年齢の引き下げに反対が表明されたことは、なお重視すべきである。
一方で事件を起こした少年は、すべて家庭裁判所に送致される。この点で現行制度が維持されたことは評価する。だが、家裁が「刑事処分相当」と判断した場合に検察官に「逆送」する対象事件は拡大するのだ。
現行では殺人や傷害致死などに限られるが、強盗や強制性交などが追加される。起訴されれば、大人と同様、氏名や顔写真など本人を特定する報道が可能となる。これらはまさに厳罰化だ。いったん実名などが公表されれば、ネット時代には少年の社会復帰がより困難にもなろう。
少なくとも現行制度の有効性を認めるなら、教育による立ち直りに期待する理念に逆行する厳罰化という結論になぜ至ったのか。その論理的な説明が足りない。
答申案は今後、法制審の総会で正式承認され、法相に答申。さらに少年法改正案が来年の通常国会に提出される見通しという。
少年事件が激減し、凶悪化の事実も認められない現状である。つまり現行制度を改める必要性がないまま「改正ありき」で手続きが進んではいないか。改正すべき合理的な根拠が乏しいままの見切り発車は危うい。
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