菅政権の課題 コロナと自殺 悩みの「総合病院」必要

2020年9月22日 07時45分
 都市部を中心に自殺者が増加傾向を示している。コロナ禍の影響が懸念される。国や地方自治体、民間が連携し、問題解決まで寄り添えるよう相談体制を分厚くしていくことが急務だ。
 警察庁によると八月の自殺者数は速報値で昨年八月に比べて二百四十六人増え、千八百四十九人となった。首都圏や愛知県で増加が目立ち、愛知は大村秀章知事が緊急メッセージを発信し、一人で、悩みや苦しい思いを抱え込まず、身近な人や公的な窓口に相談してほしいと呼び掛けた。
 将来への不安や孤立、感染への恐怖など積み重なったストレスでうつ状態に陥りやすい状況は世界で続く。心の健康問題に取り組む米財団ウェルビーイング・トラストは、自殺や薬物の過剰摂取などにより、米国では今後十年間に七万五千人が「絶望死」する可能性を指摘し、公的機関が支援に力を入れる必要があると提言した。
 社会の損失は長く続く恐れがあることを念頭に置き、腰を据えた対策が必要となる。
 日本では一九九八年に自殺者が急増して三万人を超えた。九〇年代後半には金融機関の破綻が相次ぎ、銀行の貸し渋りが起きたことなどが背景にある。この十年は減少傾向が続き、二〇一九年の自殺者は二万人余となった。
 自殺率が全国ワーストだった秋田県で、苦しむ人たちの相談や支援などに〇二年から取り組むNPO法人「蜘蛛(くも)の糸」の佐藤久男理事長は「金融危機や、〇八年のリーマン・ショック時の反省をもとに、亡くなる前に救いの手を届けなければ」と話す。
 今回のコロナ禍では、経済的な苦境に加え、学校閉鎖による孤立感や、医療や介護などに従事する人々の心身の疲弊も深刻だ。人々の苦悩の形はより多様になっている。既存の相談窓口の周知とともに、各種給付金など救済制度の充実、継続が求められている。
 「蜘蛛の糸」は佐藤理事長が、自分の会社が倒産し、絶望の淵に置かれた経験を基に中小企業経営者らの相談に乗るところから活動を始め、弁護士、司法書士や臨床心理士らが幅広く相談を受ける体制を整えた。目指したのは悩みの「総合病院」だ。
 今後も感染拡大は予断を許さない。人々の苦悩は長期化する可能性がある。官民が力と知恵を出し合い、悩みの「総合病院」を各地で増やしていきたい。菅政権の本気の取り組みを求める。

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