1.アニメシャドウバースのアナログ感
第1話を見た時の最初の違和感は、試合中のドローアクションだ。DCGであるシャドウバースでは本来ドローは自動で行われるはずなのだが、アニメでは丁寧にセットしたスマホをなぞる動作をとりドローを表現している。これは遊戯王においてデュエルディスクにセットしたデッキからカードをドローする動作と酷似しており、アニメシャドウバースが過去のカードゲームアニメをリスペクトしていることが見てとれる。
他にも、通信端末であるスマホでやるにも関わらずオンラインではなくわざわざ対面して対戦することや、四角いソリッドビジョン空間が展開されること、スマホを手首にセットしてデュエルディスクのように扱うことなど、アナログ感は随所に表れている。DCGなのだから無理にオフラインでやる理由はないし、対戦中のモーションも例えば音声認識にするとかして、わざわざ物理的に身体を動かす必要などなく、スマホデバイスを装着するさまも正直かなりダサい。こういった伝統的遊戯王スタイルデュエルからは、アニメシャドウバースが単純に次世代のカードゲームとしてデジタル(=スマホ)を選んだというだけで、カードゲームの対戦形式を変える気はないという保守的な姿勢を感じ取った。
個人的にはDCGのアニメであるという点に注目しており、紙のカードゲームとは異なる新しいゲームスタイルをどのように描いてくれるのかと期待していたのだが、結果的に伝統を受け継ぐだけになってしまい非常に残念に思った。
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2.マナコスト制カードゲームとアニメの相性の悪さ
試合形式が過去のものと変わらなかったのは残念だが、ストーリー、つまり試合内容が面白ければそれでいい(カードゲームアニメの面白さの大半は試合内容で決まる)。だが、これが絶望的につまらないのがアニメシャドウバースである。
これにはシャドウバースがマナコスト制のゲームであることが関係している。マナコスト制カードゲームは当然のことながらマナを支払ってカードをプレイしていくわけだが、最初は1マナからスタートし、ターンが進むごとにマナが増えていく形式をとる。これがアニメと相性が悪いのだ。なぜなら1ターン目からラストターン(アニメでは大抵10ターン前後で勝敗が決まっていた)までの全てのターンを描くのはアニメ一話分の時間の関係上ほぼ不可能だからである。よってほぼ全ての試合がダイジェストで描かれることになってしまい、視聴者はバトル全体を把握することはできない。
加えて、マナコスト制カードゲームは1ターン目に勝敗が決まることがない。これは当たり前なのだが、非常に重要なことだ。1ターン目に決まらないということはつまり、1ターン目はどうでもいいということになるからだ。アニメでは1マナのカードを適当にプレイしていたが、その行動による変化はライフ1,2点程度であり、視聴者から見て全く緊迫感がない。勝敗に直結しないような行動は視聴者にとってあってもなくてもいい、どうでもいい描写になる。かといって試合開始直後である序盤を省略するわけにもいかない。マナコスト制カードゲームは試合展開が遅いために重要なターンに到達するまでが遅く、最初から盛り上がることができない。
補足:これはもちろん一般的な視聴者にとっての話であり、現実的には序盤の攻防によるライフ減少やアドバンテージ差が後半に響いたりするだろうが、そのへんの解説を入れても分かりやすさは皆無だろうし試合の尺的にも無理なんじゃないかと思う。
さらにマナコスト制カードゲームは逆転して勝つターンもマナコストを守らなければならない。これはつまり、逆転するターンにプレイできるカードもせいぜい数枚程度になってしまう可能性が高いということである。マナの概念がない遊戯王のアニメにおいては、初代では天よりの宝札、GXではバブルマンといったカードによりアドバンテージを回復してカードを引いては使い引いては使いを繰り返して逆転、ということができたが、マナの制約があるゲームにおいてそれはほとんど不可能に近い。現在のアニメシャドウバースではまだ序盤ということもあり大抵が1∼3枚で勝利しているが、今後このマナコストの制約は展開のバリエーションを制限するのではないかという懸念がある。

3.遊戯王SEVENSという革命
さて、シャドウバースの話は一度置いておいて、遊戯王SEVENSの新システムが画期的という話をしたい。SEVENSはアニメシャドウバースと同時期に始まった遊戯王の新シリーズだが、第1話において主人公が「キュークツなデュエルの世界を変えたい」という理由で「ラッシュデュエル」を発明する。リアルでも従来の遊戯王カードとは別にラッシュデュエル専用のカードを発売するなど、わざわざ全く互換性のない新しいゲームを生み出した理由として、カードゲームの問題点「動きが少なく地味であること」「試合が長いこと」を改善したいという考えがあったのだろうと推察できる。
補足:動きが少なくて地味というのはつまりオタクがメガネクイクイしながらやってるようなゲームってことだ。格ゲーやFPSは動きが大きい分全く何も知らない人が見ても「なんかすげぇ」となりやすいが、カードゲームはアドの取り合いをする冗長なゲームで思考時間も長く画面映えしない。
その問題意識はラッシュデュエルのルールに表れている。ラッシュデュエルでは通常召喚は1ターンに何度でも可能(モンスターゾーンは3枠)であり、毎ターンドローフェイズには手札が5枚になるようにドローできる。例えば先1でモンスターを3体全て通常召喚で出して、さらに2体を生贄にして上級モンスターを召喚、空いた枠にさらにモンスターを召喚、なんてこともできる。こうなると後手が盤面を返せなければ即座に負けてしまうわけだが、後手も同じように盤面を形成、攻撃して全て倒すことができる。さあ2ターン目、先手は1ターン目に全てのカードを使ったため、従来であればトップドローから逆転しなければならないのだが、ラッシュデュエルでは5枚ドローできるため即座にアドバンテージを回復することができる。このようにラッシュデュエルにおいて従来のアドバンテージの概念は存在せず、基本的に全てのカードは使い得で、最初からクライマックスなのだ。
アニメシャドウバースにおいては実際あったように「1ターン目にアイボリー出すなよ」というツッコミが可能だったが、SEVENSではカードが使い得であるがゆえにそんな難しいことは考えなくてもいい。またイグニスドラゴンをトップで引き込む演出もSEVENSでは不要になる。一気に5枚引くのだからその中に切り札があるのもある程度自然だし、通常召喚権が無限にあるので下級召喚→効果で手札入れ替えといった具合でさらに掘り進めることもできる。実際作中では切り札カードを効果でデッキの一番底に埋められたがその後カード効果でデッキをシャッフルし、トップ5ドローで引き込むという展開があった。こういった逆転は従来の1枚ドローならほぼ不正といってもいいようなご都合展開であり、ラッシュデュエルの5枚ドローだからこそ成立すると言えるだろう。アニメシャドウバースにおける「毎回イグニスドラゴントップしてるだけやんけ」というような批判(→)も、遊戯王SEVENSでは通用しなくなる。
このように、前述したアニメシャドウバースで起こっている問題点を遊戯王SEVENSでは大量ドローと大量召喚によって解決している。

補足:ちなみに5枚ドローのメリットについて、「アドバンテージ」と「逆転可能性」の面から述べたが、他にも、「デッキ全てを使い切れる」ということも利点であるように思っている。従来のカードゲームでは40~60枚のデッキに対して通常ドロー1枚でありデッキのカードの大半を使わないのが普通だが、40枚に対し5枚という速度で掘り進めるためカードほぼ全てを使い切ることもより現実的になってくる。今後アニメでそういう展開のデュエルもあるかもしれない。

補足:一応付け加えておくがラッシュデュエルが優秀なのはアニメの中での話であって現実でのカードゲームとしての面白さは加味していない。俺はプレイヤー目線としてシコシコアド稼ぐほうが好きだしロングゲームはひりつくけど、アニメ視聴者としてはSEVENSのラッシュデュエルの方が最初から盛り上がるし圧倒的に面白い。なので実際ラッシュデュエルが現実で流行るかどうかはかなり怪しいと思っているしそれで遊戯王OCGがラッシュデュエル用カードをあまり刷らなくなってアニメもすぐ完結しました~みたいなことになっても仕方ないと思ってる。

4.総評
ラッシュデュエルによってカードゲームの新しい形を提示した遊戯王SEVENSに対して、カードゲームアニメの伝統を重んじる姿勢を見せるシャドウバースが苦しいのは明白だ。同時期にアニメがスタートしたことで伝統的なカードゲームの欠点が分かりやすく可視化され比較されるうえ、アニメ全体のクオリティとしてもSEVENSのほうが優勢であるように感じる。SEVENSでは3話くらいまでちょいちょい遊戯王自体のルールが説明され、1話で登場したブルーアイズに対しても説明を加える(あの超有名なカードさえ教えてくれる謙虚さ!!)など新規に対して丁寧であり、デュエル中もギャラリーがゲーム展開の解説をしてくれて分かりやすい(先行してライフ計算してくれたり捲り目を教えてくれたり)。シャドウバースはそこら辺が全然なくて、ルール説明がないのはさすがに驚いた。あとSEVENSで主人公が「デュエルの王になりたい」という目的を持っているのに対し、シャドウバースの主人公には特に目的がないというのも、物語に締まりがない要因の一つかもしれない。
アニメシャドウバースが面白くないのは確かだが、同時に遊戯王のアニメシリーズのキャリアの長さ、それゆえの非常にしっかりとしたアニメ戦略を強く感じた。