2020/07/27 17:00
プレーヤーとしてのポテンシャルの高さや複雑なバンドアンサンブルで多くのリスナーを唸らせ、後進のバンドにも多大な影響を与えてきた9mm Parabellum Bullet(キューミリ パラベラム バレット)。昨年結成15周年を迎えアニバーサリーイヤーを賑やかに駆け抜けた彼らが、16年目の9月9日(通称:9mmの日)に、キャリア初のトリビュート・アルバム『CHAOSMOLOGY』をNewシングル「白夜の日々」と同時リリースする。そのレコーディングがいよいよ始まろうという6月上旬に敢行した今インタビューではフロントマン・菅原卓郎(Vo./Gt.)に話を聞いたのだが、作品に関して話す彼は兎にも角にも楽しそう。トリビュート盤を経験した誰もが「ご褒美」というその所以が、プレゼントを開く直前のようなテンションと相まってひしひしと伝わってくるインタビューとなった。また昨今、混乱の生じている世の中で、音楽を愛し、ライブを欲する私たちはどんな気持ちで、先の見えない日々を過ごせばよいのか――滝 善充(Gt.)が腕の不調から一時期ライブを休養したことなどを乗り越えてきた菅原の発する言葉にはやはり格別の響きがある。きっと多くの音楽ファンの気持ちに寄り添ってくれるだろう。
ロックバンドの人たちは、この日のために力を貯めてたんだなっていう演奏ができたら
――先日、緊急事態宣言が解除され世の中活動が再開しつつありますが、いわゆるステイホーム期間中はどんな風に過ごされましたか?
ここでそんなに後ろ向きになってもしょうがないと思っていたんで、改めてギターを練習したり、何か新しいことしようと思って楽譜を読めるように覚えました。ライブハウス上がりのバンドマンで読める人はそんなにいないですけど、読めたら何か楽しいかなと思って。ライブはできないんだけど、なにか前向きでいられるようにしていましたね。
――なるほど。では、生活の中で「音楽」の占める割合というのは相変わらずな感じで?
そうですね。でも、普段バンドで活動していると、今日はツアーでどこだとか、今日はレコーディングだからどことか、サイクルがバラバラになりがちなんだけど、外出自粛していると基本的に家にいるわけだから、決まった時間これだけ練習するとか、これだけ音楽を聴くってしやすかったですね。そういう意味では、学生の頃の「好きなだけ音楽聴けるぞ!」みたいな気分があって、それはちょっと楽しかったですね。
――すごく分かります。
まだ何も生まれてないんですけど(笑)
――ひたすらインプットをしていた感じですか?
うーん。すっごい基本的な練習しかやらないんですけど、その中でも「今日はちょっとうまいな!」とか「今日はちょっと下手だなあ」って感じるんで、それはインとアウトと同時だなって思いますね。楽譜も、ギターのどこのフレットを押さえるとピアノや楽譜のここの「ド」だとか、そういう小・中学生くらいの超初歩なんですけど、「分かったぞ!」って感覚が楽しいですね。聴けばわかるんですけど、場所が分からなかったんで、「そういうことなんだあ!」って言いながらギター弾いてます(笑)
――正直、こういうこと(コロナ禍)でもなかったら、こんな風に世の中みんなが一旦活動を止めて、個々の生活だけに取り組むような時間はなかなかないじゃないですか。そういう時だからこそ、童心にかえったり、初歩的なことを見直すことができたという捉え方をすると、先ほど菅原さん自身からも「ちょっと楽しかった」なんて言葉もありましたが、結果的にプラスになったこともありそうですね。
そうですね。もちろん不安な気持ちになるときも「どうすんだろうなー」って考えるときもあるんだけど、そうしててもしょうがないから楽しいことで打ち消すというか。それでなにかを見直すことができたのは大きかったですね。どんよりしないで過ごせるから。
――音楽業界、バンドシーンとしては、大きなムーブメントも起きましたよね。星野源さんの「うちで踊ろう」や数多くの配信ライブも行われるようになりました。そういうシーンの様子は、菅原さんはどんな風に見ていましたか?
今の僕らが置かれている状況の気分を落とさないで、繋がっていることや「ちゃんとまた演奏できるよ」、「またライブで集まれるよ」ってことを呼びかける意味では、すごく有意義でいいなと思いました。でも実際のライブは、またそれとは別のものだなって…いいなと思いながらも感じてましたし、今も感じています。
――過去を振り返ってもこれほどの期間、ライブをしなかった経験はないですよね。そのことにフラストレーションが溜まったりはしていますか?
うーん、わかんないっすね。そのとき置かれている状況に、結構すぐ馴染んじゃうタチだから(笑)。今は今、ライブはライブのためにとっておいてるって感じかな、俺は。「ライブがしたいな、ライブがしたいな」って考えることはいくらでもできるんですけど、ただ僕だけ焦ってもしょうがないし。仮に今やってもいざ集まったら、クラスターだなんだって騒がれたら観に来た人たちが嫌な思いをするだろし、無駄に危険な目に遭うことはないから、確実にライブができるところまで、着実に進んでいきたいって気持ちでいますね。
――なるほど。そうして、晴れてライブができるようになった際には、できなかった期間で得た刺激や知識などによって、より一層洗練されたステージが観られるのかなとも期待しますが。
はい、そうですね。この期間にサボってたバンドマンは多分バレちゃうんで、そうならないように(笑)。期間は空いたけど、やっぱロックバンドの人たちはすごく備えていて、その日が来たら、この日のために力を貯めてたんだなっていう演奏ができたらいいなと思いますね。
トリビュート盤はご褒美だからってみんな言ってて。じゃあ僕らも是非そういう目に遭いたいと
――9月9日、「9mmの日」にNewシングル「白夜の日々」とキャリア初のトリビュート・アルバム『CHAOSMOLOGY』の発売が発表されていますが、こちらの制作の進捗はいかがですか?
僕らのシングルに関しては、なかなかバンドで集まることができなかったんですけど、各々で準備してて、レコーディングは無事に終わりました。あとトリビュート・アルバムは、続々とレコーディングが始まっているみたいなので見学というか、「どんな感じですか?」ってパッと訪問に行ったりしてます(笑)。
――いやあ、楽しみですね!
楽しみですねー。(トリビュート・アルバムは)完成したものが僕らの手元に来るまで聴かないって手もあるんですけど…訪問としてお礼も含めて、ちゃんとご挨拶周りをしてます。
――トリビュート・アルバムは「歌盤」と「インスト盤」から成る2枚組という新鮮な構成ですよね。複雑でテクニカルなバンドアンサンブルが魅力のひとつである9mmですから、そのファンの方々は「インスト盤」と聞いてかなりそそられているんじゃないかと。このアイディアはどんな風に生まれたんですか?
せっかくのトリビュート盤なので、できるだけ面白いものにしたいというか、他であんまりやっていないものがいいなって考えたんですよね。それで、ヴォーカルがいるバンドのトリビュート・アルバムなのに、インストにアレンジしてもらうっていうことは誰もやってないと思って。僕らの仲の良いバンドや好きなバンドにはインストバンドもたくさんいるから、その人たちに「歌詞のことは置いといて、ヴォーカルのメロディーも一つのパートとして扱って曲を解釈して演奏してください」ってオファーしようってなりました。普段も僕らメンバーは制作過程で歌(歌詞)が入っていないものを最初に聴くわけですけど、その状態でもすごくいいじゃんって思ってるから、そこがアイディアのスタートですね。それから、周りの先輩のバンドでトリビュート盤を出している人たちから聞くと、トリビュート盤でいろんな人に演奏してもらうのはご褒美だから、何を聴いても嬉しいってみんな言ってて(笑)じゃあ僕らも是非そういう目に遭いたいと。そんな中でも歌盤とインスト盤と2枚組にしたら、それぞれ違う楽しみ方ができるかなということで出てきたアイディアですね。
――そして何と言っても気になるのが参加アーティストのラインナップですが。
この間、ストレイテナーのホリエ(アツシ)さん(Vo./Gt./Pf.)とアルカラの(稲村)太佑さん(Vo./Gt.)とリモートのテレビ収録で共演したんですけど、そこで「あるかもね~。お願いね~」みたいな匂わせはしました(笑)。
――ストレイテナーは、逆にみなさんがストレイテナーのトリビュートアルバム「PAUSE ~STRAIGHTENER Tribute Album~」(2017)に参加しましたよね?
そうですね。ストレイテナーのときは、ある年のARABAKI ROCK FEST.の打ち上げでホリエさんが僕に「トリビュートやろうと思うからよろしくね」って話してくれたんですよ。だから僕らもテナーにはお願いしたいと思ってました。ちなみに、アルカラはインスト盤のほうでオーダーしました、歌あるのに(笑)。
――え!? では、太佑さんのヴォーカルは封印なんですね(笑)。
そうですね(笑)。でもアルカラのインストはすごくかっこいいので、「インスト盤で!」っていえば太佑さんがヴァイオリンを弾いてくれるんじゃないかなって感じでお願いしてます。(稲村太佑はヴァイオリンも堪能で自身の楽曲内やライブでも披露している)
――親交のあるアーティストの中でも、オファーの基準や決め手はありましたか?
もちろん元々の縁もありますけど、曲の仕上がりが思い浮かぶような人たちというか、あのバンドの音になるよなって思い浮かぶ人たちにオファーしようって話をしました。あと、チャラン・ポ・ランタンにお願いしたんですけど、これはちょっと面白いエピソードがあって、以前チャラン・ポ・ランタンがラジオで9mmの曲をカバーしてくれて、それが縁で9mmのステージにも出演してもらったんですね。だから「ぜひその曲やってください」って曲も指定でお願いしました。あとインスト盤の方だと、SPECIAL OTHERSとかLITEとか、その辺りは付き合いも長いのでまず名前が上がりましたね。
――ではみなさんの遍歴を知るファンの方は、過去の対バンなどを思い返して予想したりなんかもできるラインナップになりそうですか?
「そりゃそうだよね!」っていう納得してもらえるところもあるし、「そうきたか!」ってところもちゃんと入ってると思いますね。
――レコーディングが始まるタイミングということは、それぞれがトリビュートする楽曲も決まったところですか?
そうですね。ただ、さっき話したみたいに完成するまで聴きたくないって気持ちが自分の中にちょっとあるから、誰がどの曲をやるか把握しようとしてもできないっていう不思議な現象が起きてて。誰が何やるか、覚えられないんですよ。多分楽しみにしたい気持ちが覚えないようにさせてるんだと思います(笑)。
――さっきトリビュートしてもらうのは「ご褒美」と先輩が言っていたという話もあったんですが、改めてトリビュートされる側になってみてご自身の感想はいかがですか?
レコーディングされた音源じゃなくて、対バンのライブ中に対バン相手が僕らの曲をカバーしてくれたことは今までもあったんですけど、そういう時って大抵お互い内緒にしてたりするから、観てるファンの人たちはもちろん、袖にいる僕たちも始まった時に「わー!そう来るわけ!?」ってなるんですよ。それを今度は、ライブの1日だけで消えちゃうものじゃなくて、レコーディング音源で何回も味わえるんだから、作られた側の人はご褒美だと思うんだろうな。自分たちの曲の新しい形を聴けるのは、単純に楽しいですしね。自分たちではここリフを聴いてほしいから前に出そうと思ってそういうバランスで作ったけど、別のバンドで解釈したら別の部分がフックになったり。そういうところが楽しみですね。
――今お話されたことがまさにだと思うんですが、トリビュートされたものを聴くことで、みなさん自身が9mmを振り返ったり改めて向き合ったりするような経験にもなりますよね。
そうですね。自分の曲だけど、一回蚊帳の外に置くというか、全く別のものとして捉え直せるのはすごくワクワクしますよね。なるほどなって思って、トリビュートしてくれたバージョンのアレンジでも演奏してみたくなるだろうし。多分僕らだったら、ここのアレンジは(オリジナルから変えて)トリビュートバージョンのままにしちゃおうとかってやりだすんじゃないかな(笑)。そうしたっていいなっていうのも楽しみですね。
――これがもう一つの正解だった、みたいな。
そうそうそうそう。ありがとうございます!って(笑)。
――お話している声のトーンや表情の端々から、本当に楽しみな菅原さんの気持ちがひしひしと伝わります。でもトリビュートをされる側になるというのは、やっぱり長いキャリアがないと有り得ないことですし、去年15周年を迎え、ここまで活動を続けてきた他でもない9mmのみなさんへのご褒美ですね。
そうですね。始めて1、2年じゃできないことで、曲があって繋がりがあって、それで初めてできることだと思うから有り難く頂戴します。
――ファンの方としても、そういう姿が見られるのはうれしいことだと思います。
結成した年とかメジャーデビューの年とか、そういうので数えたら今年はアニバーサリーでもなんでもないんだけど、この年にはトリビュートがあったよなってファンのみんなも覚えてくれたら9mmに関する思い出が増えていいんじゃないかなと思います。
止まっているとそれだけでダメだなって思いがちだけど、だからって悪くなっているわけじゃない
――ところで、5月1日に菅原さんのファンコミュニティが開設されましたね。
SNSがそんなに得意ではないんですけど、去年頃にACIDMANの大木(伸夫)さん(Vo./Gt.)が始めていて、それを見てたらやれるかもしれないと思ったんで、とりあえずやってみようと。こんなときだから、一つでも多く窓口みたいなものがあったらがいいかなって。今は広く届けるというよりかは、僕らのファンの人たちで、9mmを聴きたいとか9mmの情報が欲しいとか、そういう風に9mmをちゃんと求めてくれている人のところに届かないのが嫌だから、それを届ける場所にできたらいいかなと思って始めたんですよ。
――開設から1ヶ月ほど経ちましたが、率直な感想はどうですか?
この間、あるコメント収録をしたときに「ベストライブって何?」っていう質問をされて、僕は自分のライブじゃなくて観に行ったレッチリ(Red Hot Chili Peppers)やパティ・スミスの話をしたんですけど、それをファンコミュニティに「(みんなの)ベストライブなんですか? 9mmのじゃなくてもジェラシーしないんで教えてください」って載せたら、みんな見事に9mmのライブを挙げてくれて。そりゃそうだわなって感じですけど(笑)。思い出の9mmのライブを挙げてくれたんですけど、そういう風にリアクションがあって楽しいですね。演ってる本人は(投稿を)読むと思い出すから、映像化されていないライブのことも「ああそうだよね。そんな場面あったな」ってなるし、やっぱり9mmを深く知って楽しみたい人はここに集まってくれてるんだなって感じます。
――こういう直にライブでコミュニケーションが取れないときだからこそ、より有意義な場所になっている感じがしますね。
そうですね。そういう風にできたらいいなって思っています。
――少し話が変わるんですが、菅原さんはこの数ヶ月間をなるべくポジティブに過ごそうと意識してたと先ほど言われました。でも、世の中にはなかなかそうもいかない苦しい方も大勢いらっしゃると思うんですよ。なので、どうしても苦しい時に、例えば菅原さんはどんな風に乗り越えてきたのか教えてください。
うーん、家から出れないなとか仕事が難しいってなってくると、ずっと停滞してるような気持ちにどうしてもなるんですけど、でもちょっとずつは進んでるんですよね。僕はバンドが大変なときには「あ、今日はちょっとこういう風に進んだ」とか「少なくとも昨日よりは悪くならなかったな」って思いながら、いろんなこと乗り越えてきました。止まっているとそれだけでダメだなって思いがちだけど、悪くなっているわけじゃない。単純な話ですけど、髪が伸びたり、髭や爪が伸びたりするじゃないですか。時間が経ってるということをそういうことで感じる。すっごい些細なことですけど進んでるんだから、例えば僕らのライブに行こうって決めてくれている人だったら、そこがまた少し近付いたんだなって思うだけで違うと思うし。毎日すっごい変化がなくたってよくて、昨日より悪くなきゃとりあえずOKって風にしていくといいかなあ。
――ありがとうございます。今年の夏はフェスやイベントも中止が相次ぎ、アーティストにとってもライブファンにとっても、なんとなく物足りないひっそりとした夏を過ごさなければいけないのかなと思う中で、今の菅原さんのお話は1日1日を過ごしていく支えになることと思います。最後に改めて、またライブで熱を共有できるその日まで、ファンの方へ向けてのメッセージをお願いします。
本当に音楽が好きで、それを日々の暮らしの糧にしている僕らみたいな人間としては今すごくしんどくて、つい暗くなっちゃうんですけど、でも絶対にライブができなくなることはないので。人間の長い歴史の中で、病気が流行ったりウイルスが蔓延してたりしますが、今はこうやってインタビューに答えることだってできる。僕らが感じたい本当にライブの熱とか、こういう音で聴きたいとか、何も考えずに会場にいたいっていうのはまだ少し遠いですけど、だからこそ「あー、自分はこの曲がほんとに好きなんだな」って音楽の力が強まっていると思うこともあるし。自分はやっぱり音楽が好きなんだなって思うこと、それは全然悪いことじゃないから、そう僕と同じように感じて過ごしてもらえたらいいなと思います。
インタビュー・文/岡部瑞希
Tribute ALBUM 「CHAOSMOLOGY」 2020.9.9 Release
■ティザー映像はこちら
11th Single 「白夜の日々」 2020.9.9 Release
9mm Parabellum Bullet Official Website >>
https://9mm.jp