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 就任会見で菅義偉首相は数々の政策課題に言及したが、ひとつ触れなかったものがある。

 東日本大震災からの復興への取り組みだ。閣議決定した内閣の基本方針からも消えた。「東北の復興なくして日本の再生なし」はどうなったのか。自助の大切さを真っ先に掲げる首相の下で、被災地はこの先どうなるのか。疑問と不安を感じさせる新内閣の船出となった。

 安倍前政権は、震災後5年間に投じる復興予算を19兆円から25兆円に拡大。その後も公共事業を強力に推進し、インフラ整備は今年度中にほぼ完了する。一方で、産業再生や被災者の生活支援の予算は、それぞれ全体の1割前後にとどまった。

 人口減に見合う計画変更がされなかったため、多くの住宅地で空きが生じ、土地区画整理事業でかさ上げされた宅地の3割は使い道がないままだ。どこまで堅牢な防潮堤を造るかをめぐる意見の相違が、しこりとなって残っている地域もある。

 施設設備の復旧に補助金を受けた企業を対象にした国の調査では、売り上げが震災前の水準に回復したのは46%。業種間の差が大きく、公共事業の恩恵を受けた建設の74%に対し、水産・食品加工は32%だった。

 複数の企業で統一ブランドをつくって商品開発や販路の開拓を進めようという「自助・共助」の取り組みが各地で広がるが、コロナ禍の影響で首都圏などでの展示会や商談がままならなくなった。行政による継続的な支援が求められる。

 福島ではさらに多くの課題が積み残しになっている。

 たまり続ける原発汚染水や汚染土の処分をどうするか。帰還困難区域の解除をどう進めていくか。避難指示が解かれても居住率が3割ほどにしか戻らないなかで、地域をどうやって再建していくか。いまもなお避難生活を余儀なくされている人たちを物心両面で支えることも、政治の大きな責務である。

 復興のためには、被災地を忘れず、寄り添う気持ちを抱き続けることが何より大切だ。

 ところが安倍政権では、「閣僚全員が復興大臣」のかけ声とは裏腹に、「(震災が)東北の方だったから良かった」「復興以上に大事なのが自民党議員」といった耳を疑う発言が相次いだ。誘致の際のうたい文句だった「復興五輪」も、最近はほとんど耳にしなくなった。

 長年にわたって都市部の繁栄を支えてきたところに、未曽有の災厄に襲われた被災地のくらしをどう守っていくか。「私の中には一貫して、地方を大切にしたい、元気にしたいという気持ちが脈々と流れている」。そう語る首相の言葉が試される。

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