【「若者のミカタ」で売り出し中、大内裕和中京大学教授の「奨学金本」は盗用だらけのトンデモ本だった!(5)】
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◇「一括請求」に関する記述にも疑問
一括繰り上げ請求に関する大内本の記述にも疑問がある。大内本(『奨学金が日本を滅ぼす』)81頁10~11行目だ。
【大内本(『総額金が日本を滅ぼす』)81頁】
これについて日本学生支援機構は「連絡もなく、救済も求めない人は、返済能力があると認識せざるを得ない」と説明していますが、とても乱暴な論理と手法です。
「一括繰り上げ請求」または「繰り上げ一括請求」は、日本学生支援機構最大の違法行為だと筆者が考え、是正させるべきであると、2013年にこの問題に気づいて以来、絶えず発言してきた問題だ。
日本学生支援機構法施行令5条4項(現在5条5項)には「支払能力があるにもかかわらず著しく返還を怠った場合」に、支払い期限がまだきていないものも含めて一括請求できると規定している。何百万円を一どき払う資力がありながら払わないといった、ごくまれな例を想定した規定である。
しかし、じっさいには、経済苦によって支払い困難になった若い利用者、返還開始からものの数年しか経っていない若者に対して、容赦なく一括請求をやっている。この実態を筆者は裁判記録の調査から突き止めた。2013年のことだ。関東一円で一括請求の取り立て裁判を随意契約で請け負っているのが、かつて武富士代理人を務めた熊谷信太郎弁護士だったことも判明した。
支払能力がない人に5条4項を適用するのは違法ではないか、いったい支払能力を調べているのかと筆者は支援機構に質問をした。それに対して支援機構広報室は、2013年9月2日、次のとおり電子メールで回答した。
「(一括繰り上げ請求をする際、債務者の支払能力について)審査はしておりません」
「・・・こうした再三の督促・連絡を行っても返還や猶予の手続き等がない延滞9ヶ月以上の者に対して、繰り上げ一括請求を行っております。
返還が困難な状況であれば、機構に返還期限猶予の申請等など連絡があると考えられ、連絡もなく延滞状態を継続しているものは、機構としては支払能力があるものと認識せざるを得ず、次の世代の奨学金の原資を確保する観点から、厳しい対応をせざるを得ません。」
(一部略)
この回答を筆者は「日本の奨学金はこれでいいのか!』(三宅本)に収録した(100~101頁)。支援機構の正式な回答で、かつ出所を明らかにして発表されているものは、筆者はこのほかに見たことがない。
そもそも、大内氏が代表をする奨学金問題対策全国会議は、一括請求の問題について一貫して消極的だった。筆者は2013年の設立時に乞われて入会した。以来、絶えず「一括請求は大問題であるから調査・是正に取り組むべきだ」と提言してきた。だが会の執行部はこれを徹底的に黙殺した。
大内氏は同会代表として新聞やテレビでコメントする機会が多かったが、筆者の知る限り、一括繰り上げ請求という言葉を発したことは一度もない。この運動のありかた批判して、筆者は2015年に同会を退会した。
その後昨年(2019年)になって、全国会議の活動報告に「一括請求問題」が項目として記載されていることを知り、「ようやく問題意識が出てきたのはいいことだ。ふたたび一緒に研究・告発をしていきたい」と再入会を申し出た。ところが、全国会議は筆者の再入会を拒否した。大内代表らの名で届いた回答書(2019年7月31日付)に記された理由はこうだ。
2019年7月31日
「再入会のお申し出に対するご回答」
奨学金問題対策全国会議
共同代表大内裕和
同伊東達也
事務局長岩重佳治
(前略) 三宅様は、当会議に在籍されているときから、日本学生支援機構のいわゆる「一括繰り上げ請求」を、当会議でも最優先の課題として中心的に取り組むべきであると主張され続け、それをしない当会議の姿勢は評価できないとして、当会議を退会されました。(中略)
限られたマンパワーで、一括繰り上げ請求に最優先で取り組むべきとの議論に対応する余裕もないのが実情です。むしろ、この問題に集中すれば、当会議の運動に支障がでることは確実であるというのが、今回の検討に参加したメンバーの共通の認識です。(後略)
筆者が一括請求問題に熱心であるため、入会すると他の活動に支障がでるというのだ。意味不明である。
ともかく、不自然なほど一括繰り上げ請求に無関心に見えた全国会議やその代表者大内氏だったから、大内氏が自著でに一括請求に触れているのは意外だった。そして、そこに紹介さている日本学生支援機構の「説明」なるものが、いったいいつどうやって得たものなのか気になった。
一括請求問題について全国会議や大内氏が支援機構に問い合わせたり、回答を得たという話は聞いたこともないし、見たこともなかったからだ。そんなことをするのであれば、一括請求問題の第一発見者である筆者を、一括請求問題に熱心なことを理由に排除する必要がない。
大内本にある支援機構の回答のなかには「返済能力」という言葉が出てくる。これにもひっかかりを覚えた。支援機構が回答するとすれば「支払能力」であって「返済能力」ではないはずだ。
「連絡もなく、救済も求めない人は、返済能力があると認識せざるを得ない」とされる支援機構の回答(説明)は、いつどの部署から得たものなのか。大内氏に説明を求めたが回答はない。支援機構が「返済能力」という表現を使うとは思えず、本当に記述のような説明をしたのか疑問を抱かざるを得ない。
◇大内氏への質問
仮に、サラリーマンの新聞記者でこれほどの盗用が発すれば、免職になっても不思議ではない。筆者のようなフリージャーナリストであれば致命的な信用失墜となり、まともに原稿を取り上げてくれる出版社や雑誌、編集者はいなくなるだろう。
大内氏も研究不正に問われる危険がある。もしや、何かのまちがいではないかと、筆者は大内氏に質問状を送って説明を求めた。だが回答らしい回答はない。
筆者としては、やむを得ず問題本の版元である朝日新聞出版に盗用疑惑がある旨「通報」した。同社は、問題があるとの認識にたち、現在コンプライアンス担当役員を含めて調査に動きだした。並行して中京大学の研究倫理の窓口にも告発した。こちらも調査がはじまった。また、著作権侵害による損害賠償請求訴訟も視野に入れて弁護士に相談している。
一方、大内氏は7月25日、奨学金問題対策全国会議という市民団体の代表に再任された模様だ。氏の「奨学金本」をめぐる盗用疑惑について、同会議の会員らは知らなかったか、知っていて見過ごしたかのどちらかだろう。
昨今、学生のレポートや論文に盗用が多いと聞く。教育を説く大学教授もまた盗用に手を染め、まさかとは思うが、仮にそれが不問に付されるとすれば、日本の学問の行く末はきわめて暗いと言わざるを得ない。
(完)