母直伝、本場ベトナムの味 戦争難民2世が夢受け継ぐ

関西
兵庫
社会・くらし
2020/9/19 14:00

 ベトナム料理店「サイゴンチュンハイ」の前に立つ石田長海さん(8月、神戸市)=共同

ベトナム料理店「サイゴンチュンハイ」の前に立つ石田長海さん(8月、神戸市)=共同

留学生や技能実習生などベトナム人住民が多い神戸市長田区で、ベトナム戦争後の混乱から逃れ来日した両親を持つ石田長海さん(34)が、母から受け継いだ味を広めようと開いたベトナム料理店が国籍を問わず人気を集めている。

靴工場や倉庫が立ち並ぶ一角で4月に開店した「サイゴンチュンハイ」。香草やレバーパテ、ニンジンのなますなどをフランスパンに挟んだベトナムのサンドイッチ「バインミー」を中心に、生春巻きや麺など数種類の料理を持ち帰り専門で提供している。

石田さんは母(56)の頭の中にあるレシピを教わりながら調理場に立つ。母はベトナム戦争中、サイゴン(現ホーチミン)で生まれた。貧しくて学校に通えず、幼い頃から料理を作り、はだしでてんびん棒を担ぎ、道端で売り歩いた。20歳で来日し、同じく難民として日本に来た男性と結婚、長海さんが生まれた。

母が作る家庭料理は、神戸在住のベトナム人の間では有名だった。母は店を構えるのが目標だったが、家計が苦しく、子育てもあり、かなえられずにいた。その夢を長男の石田さんが実現した。

丁寧な仕事が売り。スープは牛骨や鶏から時間をかけて煮出し、うま味調味料は一切使わない。ベトナムのフランスパンは食感が軽く、中に空洞が多いのが特徴で、バインミー用として地元の人気パン屋に依頼し、試行錯誤を重ね開発した。味に厳しいベトナム人からも評判は上々で、常連客が続々と増えている。

金銭的に余裕がない留学生や実習生でも懐かしい母国の味を堪能できるよう、日本では値が張るがベトナム料理には欠かせないハーブやミントは自宅で栽培し、値段を下げる努力をしている。

今は約6畳の狭い店舗だが、近く拡張してイートイン空間も設ける。石田さんは「たくさんの人に食べてもらいたいという母の願いをしっかり受け継ぎたい」と話している。

 ▼長田区のベトナム人 1970年代以降にベトナム戦争の難民として来日し、全国2カ所に置かれた受け入れ拠点の一つ、姫路定住促進センター(兵庫県姫路市)を経て、長田の地場産業の靴工場などで働くベトナム人が定着した。近年は留学生や技能実習生が増加し、隣の兵庫区と合わせ3千人以上が在住。全国有数のベトナム人社会が息づく町となっている。

〔共同〕

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