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王都の外れの錬金術師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営致します~ 作者:yocco

第五章 開店準備と錬金術師

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54.物件探し

 そして日は変わって、平日の、とある日、私とカチュアさんのふたりで、アトリエを開くための物件を探すために不動産業者の元へ出かけた。

 そして今は、その業者の男性従業員の案内で、物件を見せてもらうために馬車で移動中だ。当然リーフも一緒に馬車の中。私の膝の上で大人しく眠っている。


「その子はデイジー様の従魔ですの?護衛もつけないでご両親が出してくださるなんて、実はこの子が余程強かったりするのですか?」

 カチュアさんが不思議そうに尋ねてくる。カチュアさんは、そっと向かい側から手を伸ばして、恐る恐るリーフの背に触れてくる。


「うん、この子、リーフって言うんだけれど、実は元は大人ぐらいの大きさがある大きな狼なの。下手な護衛より強いですよ」

 私がそう答えると、『大きな狼』に反応して、リーフを撫でるカチュアさんの手がビクッと止まる。

 その気配を感じて、目を瞑っていたリーフが片目を薄く開けてカチュアさんを確認すると、そのまま何事も無かったように再び目を瞑った。

 リーフの背からカチュアさんの手が離れていってしまったので、代わりに私がリーフの背を撫で、その柔らかい毛を梳いてやると、心地よさそうにリーフの尻尾が揺れた。


 そんな雑談をしていると、一軒目の物件についたようで、馬車が、ガクンと揺れて止まる。

 馬車の扉が開いて、業者の男が顔を出す。

「お嬢様方、一軒目の物件に着きましたよ」

 そう言って手を差し出して、二人が馬車から降りるのを補助してくれる。


「ここは、下級貴族街と商人街を道を隔てたちょうど境目の立地です。ご商売をするにあたって、貴族と平民のどちらも顧客層として想定可能な立地ですね」

 そう言って、業者の男が物件の入口の鍵を開け、中に案内してくれる。私たちと一緒に、当然といった様子でリーフも中へ入ってきた。

「こちらの物件は、庭を中心として、建物がそれを覆うようにぐるっと立っているのが特徴です。どの角度からも庭が見えて……」

「それじゃダメよ!畑の日当たりが悪いわ!」

 私が、業者の説明を途中で止める。これじゃあ、決まった時間しか陽が当たらなくて、妖精さんもマンドラゴラさんも悲しいだろう。


「……畑、ですか?」

 業者がびっくりしたような顔で目を丸くする。何せ、貴族のお嬢様が畑を理由に物件を拒否するのだ。庭ではなく、畑を。


「ごめんなさいね、デイジー様は、錬金術を行うのに、薬草の栽培から手を入れてらっしゃるの。だから、薬草栽培のための畑にする予定の庭については、日当たりや広さが大事な条件になるのよ」

 びっくりして固まっている業者に、カチュアさんがわかりやすくフォローを入れてくれた。


「なるほどなるほど、そういうことでしたらこちらはお嬢様の条件にあいませんね」

 固まっていた業者は納得がいったのか、うんうん、と頷いてしばし考え込む。


 と、その時だった。

 入口の扉が、ガチャっと音を立てて施錠される音がした。

 荒々しい足音がして、ガラの悪い男が三人見学中の屋敷に乱入してきたのだ。


「物件屋さんよう、商売中に悪いねえ。でも俺らは、その身なりのいいお客様のお嬢さん二人に用があるんだなあ」

 そう言ってガラの悪い男たちはニヤニヤ笑いながらこちらへ近づいてくる。

 リーフは小さなままの体で、小さな牙を剥き出しにしてウウーッとうなっている。

 業者の男も私達を背にして庇うように間に立ふさがる。手には護身用の短剣が握られている。


「あっははは!ちっちゃなワンちゃんと手が震えてるお兄さんじゃ、ちょっと力不足じゃないかな」

 ガラの悪い男たちは懐からナイフを取り出してさらに近寄ってこようとする。

「どちらのお嬢さんも身なりからして身代金を頂戴しても良さそうだし、可愛い顔してるから売っぱらっちまってもいい金になりそうだっ!」


 そう言って一人の男がナイフを振り上げた瞬間、リーフが元の大きなフェンリルの体躯に戻る。唸り声をあげる口から覗く牙は、大人の男の指より太い。

「……へ?」

 自分達に覆い被さるように突如現れた獣の影に、三人の乱入者の動きが固まる。

 リーフはその隙を見逃さず、一人目のナイフを持つ男の腕に噛みつき、ナイフを落とさせ、ドガッと腹に体当たりをかます。男は壁に勢いよく背中をぶつけて失神した。

 そして、残りの二人の横をすり抜けて背後に回ると、その鋭利な爪でシャッと横薙ぎ一閃、四本の足首をまとめて切り裂いた。足の腱を切られた残りの二人のならず者は、どうっと音を立てて仲良くその場に倒れ込んだ。


「お嬢様方、一度ここを出て警備兵を呼びましょう!早く、こちらへ!」

 私達は、業者の案内で出口へと移動する。足の動きがまだぎこちないカチュアさんは、業者が一言失礼を詫びてから抱き上げる。リーフは、ならず者の見張りのつもりなのか、その場に留まっていた。

 業者は鍵を開けてまず私たちを外へ逃がし、大声で警備兵を呼ぶ。


 すぐに警備兵が二人走ってきて、業者の説明を受けて建物の中に入る。すると、入れ違いにリーフは子犬の姿に戻って私の元へやってきた。私はすかさずリーフを腕に抱き上げ、ありがとうと、耳元に感謝の言葉を伝える。


 ならず者たちは、警備兵に捕縛され、貴族令嬢と大店の商人の子女の誘拐未遂容疑で引っ張られて行った。


「……確かに、下手な護衛より強いですわね」

 カチュアさんは、小さな愛らしい子犬の姿になって私に抱かれるリーフを見ながら、ほう、と安堵の溜息をついていた。


 その後も、リーフがいるなら大丈夫だろうということで物件を見てまわった。そして、一軒の物件が私達の目に止まる。


 王都の北西門、その側にその『空き地』はあった。城門には警備兵の詰め所も併設されていて、閉門時も常時二名の警備兵が待機しており、安全面もいいと言えるだろう。

 そして、ちょうどそこは下級貴族街と商業地の際にあり、私とカチュアさんの実家からも近い。文句のない場所だ。

 また、北西門は王都の西隣にある迷宮都市に向かう冒険者や商人たちで人通りも多い。

 その土地は、立地条件も広さも良いのだが、まとめて売るには高額なために買い手がなかなかつかず、かといって分割して売るのもどうかと、業者も悩んでいた土地なのだという。


「ご予算があるなら、土地を買って好きに上物を作るのが一番ですわよね」

 一日中かかって探して、もう日は茜色だ。その陽がよく当たる広い空き地を眺めながら、カチュアさんが満足げに立っている。

 私もその隣に並んだ。

「ありがとう」

 そう言って、私は夕日を浴びながらカチュアさんの手を握った。

 手を繋いだ二人の影が、長く長く伸びていた。


 余談だが、私がその土地の購入契約をした後、その情報が、この国で一番の権力をお持ちである方の耳に入った。

「それは良い土地に目をつけた。北西門の警備兵を一年後には倍の四人に増やせるよう、詰所を増築するように」

 そんなご命令が下ったとか。

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