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王都の外れの錬金術師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営致します~ 作者:yocco

第五章 開店準備と錬金術師

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50.石化解除薬を作ろう①

 私は、自室で『錬金術教本』で、石化の解除について探した。今は机の上にそのページが開かれている。そして、他にも、参考にした本が何冊か開かれたままだ。

 うん、見つかるには見つかったのだ、そのページ。だけど、結構大変そうだった。

 そのページを見ながら、私は唇をへの字に曲げて首を傾げ、うーん、と唸る。


 材料はこう。

 マンドラゴラの根→ある

 石化液の袋(魔物の内臓)→ない

 水(蒸留水)→ある


 道具はこう。

 コイル(金属製のワイヤから作る)→ない

 磁鉄鉱→ない


 作り方はこう。

 ビーカーの中で作ったマンドラゴラのエキスに石化液の袋を入れて、その中にコイルを入れる。そして、上から磁鉄鉱をコイルに近づける(磁鉄鉱は水にはつけない)。そうすると、コイルの中に見えない『何か』が流れるので、魔力を磁鉄鉱に注いでその『何か』の量を増やす。すると、マンドラゴラのエキスと石化液が反応して薬になるのだそうだ。


 ちなみに、コイルっていうのは、金属の針金で作る。針金の中央部分にぐるぐると螺旋状にした部分を作ったら、それが『コイル』だ。

 また、私たちの住む国では、針金というものはとても高価だ。鍛治師さんが、何度も何度も金属を熱して叩いて伸ばすことを繰り返して作るからだ。針金は鳥籠にも使われたりするが、一部の裕福な人だけが手に取ることができる高価な品なのである。


 そして、『磁鉄鉱』というのは、鉱山などで時々見つかる鉄を引きつける性質を持つ石のことだ。普段お目にかかることも、使うこともないものだった。


 知らないものも多かったので、『錬金術教本』だけではなく、我が家の蔵書もひっくり返しながら探した。と、まあ、調べて理解すること自体も大変だったのだ。しかし一番の問題は、作れるかどうかの確証が持てないことだった。

 コイルの中を流れる『何か』の正体がわからずに、魔力を上手にコントロールできるだろうか?

 私は、部屋の花柄のシーツが敷かれたベッドの上に、ぽふんと倒れ込む。ベッドで寝ていた子犬姿のリーフが、私の脇に擦り寄ってくる。癒されるなぁ。だけど。


 ……自信、ないなあ。


 しばらくリーフの温もりに癒される。

「リーフ、ありがと」

 私はのそりと起きてリーフを撫でてから、調べたことをノートにまとめて、お父様に相談してみることにした。


「デイジー、本当によく調べたね。がんばったな」

 居間でゆっくりしていらしたお父様は、まずここまでの私の頑張りを褒めてくださった。頭を撫でる大きな手が温かく、褒めてくださるのもなんだかこそばゆい。私の不安ばかりだった心が、少しほっこり暖かくなった。


「それにしても、入手困難な品がいくつかあるね。オリバーさんは、商業ギルドの長なのだし、珍しいものについても入手する伝は色々お持ちかもしれない。我が家へお招きして相談してみてはどうかな」


 私は素直にお父様の提案を受け入れることにした。

 お父様はその日のうちにオリバーさん宛に手紙をしたためてくれた。


 ◆


 数日後、オリバーさんが我が家へ訪ねてきてくれた。

 オリバーさんが手土産に持ってきてくださった、『ダリオル』という名前の最近王都で流行りだという卵のタルト菓子と、侍女が用意してくれた紅茶がテーブルに乗せられている。

 私はお父様と並んでソファに腰を下ろし、向かいにオリバーさんが座っている。


「この度は、娘の石化の解除薬を作る手段を見つけてくださったそうで……、本当にありがとうございます。お招きいただいたご用件は、入手困難な品についてのご相談ということでしたね」

 そう言って、オリバーさんが私に向かって確認をしてくる。


「はい、魔物の内臓である石化液の袋、金属のワイヤー、磁鉄鉱を入手する伝がお有りでしたら、ご協力をお願いしたく思いまして」

 そう言って、私はオリバーさんに、その三品をメモした紙を差し出す。


「そうですな、確かにお嬢様には馴染みのない品ばかりですね。磁鉄鉱と金属のワイヤー、これは私の知り合いから入手できるかと思います。石化液の袋は、魔物の内臓なのでタイミング次第ですが、もし在庫がなくとも冒険者ギルドに依頼を出せば良いでしょう。そうですね、これらの材料については、私の方で準備させていただきましょう。揃い次第、お宅にお届けいたします」

 オリバーさんは、笑顔で大きく頷いてくださった。その頼もしい表情に、私はほっと安堵感を覚えた。


 だが、私にはもうひとつ相談しなければならないことがあった。

「必要な材料と機材と方法については、調べはつきました。ですが、私はこの方法で薬を作ったことがありません。おそらく試行錯誤しながら作ることになります。ですから……」

 私が俯き加減に言い淀みかけると、オリバーさんが「ではこうしましょう」と、提案を出してきてくれた。


「薬が無事に完成して娘の足が治った場合には、成功報酬として金貨三枚、残念ながら薬が完成しなかった場合には、手間賃として銀貨五枚をお支払いする。これでどうでしょう」


「失敗した場合もお金をいただけるのですか?」

 私は不思議に思って首を傾げる。


「お嬢様、これから商売をなさるのでしたら、貰うものはきちんと貰うようになさらないといけません。たとえうまくいかなかったとしても、お嬢様はその貴重な時間を私の注文のために割くのです。そう言った手間賃も、きちんと料金として含めてお考えになるべきですよ」


 私は、こうして生粋の商売人のオリバーさんとの取引の中で、また一つ商人として心得ておくべき常識を学んだのだった。

いつも応援ありがとうございます。いただいた応援やご提案コメントについては、感謝しながら拝見させていただいております。これからも応援よろしくお願いします(。ᵕᴗᵕ。)

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