44.オークの森
騎士たちを先頭にして、私たち一行は王都南東にあるというオークの森をめざして進んでいた。
青い空は広々と広がり、その下には緑に繁る草原と、一筋の道が延々と続いていた。王都では全く味わえない開放感に、私はひとつ大きく背伸びをした。
すると、お父様が私と並んで話しかけてきた。
「確か、デイジーは水属性の氷魔法が使えたよね?」
「はい」
私は、リーフの柔らかい体毛の上で、その背の動きに揺られながら答えた。
「だったら、魔獣が現れた時は、まずは氷魔法で足元を狙って足止めをしてくれると助かる。騎士団の人が動きやすくなるからね」
そういえば、参加するにあたって、魔法の使い方なんて考えてなかったな、私。
一緒に戦うということは、その人たちが戦いやすくすることも大切なんだと、私はうん、と頷いて頭の中に覚え込む。
「あとは、魔法の種類は問わないが、狙えるなら、脚の腱を切るのもいい。相手の動きを奪えば、こちらの安全度は格段に上がるからね」
私は、うん、と頷いた。
「あとは、自分が攻撃する時は、相手の眉間や首、心の臓がある場所を狙うと効率的に倒せる」
そうやって、お父様に、魔導師としての戦い方や、騎士団の人との連携の仕方などを教わりながら進んだ。
そのうち、道の先に鬱蒼とした森が広がっているのが見えてきた。
「あれがオークの森だな」
お父様が指を指して教えてくれる。
「オークというのはね、単体であればそこまで恐れるような魔物じゃないんだが、群れをなす習性があってね。大きな群れになると、オークキングを筆頭に、オークジェネラル、ハイオークといった上位種を含んだ群れになるんだ。そうなるとかなり厳しい戦いになる。だから、軽視しちゃダメだよ」
森に着くまでの間、そういったオークの生態について教わった。
森の入口に着いた。
馬に騎乗していた人達は、馬を下り、手綱を木などに固定する。
私はリーフを連れて、ちょうどみんなの真ん中あたりで守られるように進んでいく。
それっぽいキノコはなかなか見つからない。
すると、行く手に二匹のオークがウロウロしており、一匹が逃げ、一匹がこちらにやってきた。
「やあああ!」
先行をとっていた騎士の一人がその首を綺麗にはねる。ゴロリと、地面に首が転がった。
「一匹が奥に逃げました。援軍を呼びに行った可能性もありますので、警戒をお願いします」
騎士がそう全員に伝えると、皆が頷いて辺りを警戒した。
『あ、『おしゃべりキノコ』生えてる!』
足元を見て、そう思った時だった。
「前方から来ます!4、5……オーク三体に、ハイオーク二体です!」
その言葉に全員が警戒態勢に入る。
「
私は、オークの群れに向かって足元に氷結魔法を仕掛けた。すると、オーク達の足が凍りつき、歩みが止まる。
「助かります!」
騎士達が礼を言って、オークに向かってかけていく。
二人の騎士は、それぞれ綺麗に一体ずつオークの首を狩る。
「「
お父様がハイオーク一体を、もう一人の魔導師がオークの最後の一匹の首を薙ぐ。
残りはハイオーク一体。
リーフが駆けて行って、その首に噛みつき、食い破った。
「終わったか!」
お父様が辺りを確認するように、メンバーの者に促す。しかし。
「奥からオークジェネラル三体来ます!」
ハイオークよりもさらに一回り大きく、帯剣したオークがやってくる。
「……あれが三匹もいるとなると……」
「……後ろにキングがいると思った方がいいでしょうね」
「
多分あれはさっきのより断然強い。同じ魔法ながら、しばらく魔力を練って威力を上げてから解き放つ。
二体は足止めに成功したが、一体を取り逃した。
「上出来だ、デイジー!」「
そう言ってお父様が、私の取り逃がした一匹の脚の腱を薙ぐ。
ドウッ、と音を立ててオークジェネラルがその場に崩れ落ちた。
すかさず騎士二人が、倒れた一匹の眉間に剣を突き立て、足止めを食らって立ち尽くす二匹目の首を切り裂く。頭を突かれたオークから剣を引き抜いた騎士が、身を翻して残り一体を仕留めようとした、その時。
ガンッ
と、剣で金属を叩きつける鈍い音がした。その重い剣の衝撃に、騎士がガハッと血を吐いて倒れた。
そこには、群れを蹂躙され、怒りに目を血走らせたオークキングが立っている。剣戟はそのモノの打ち下ろしたものだった。
すかさず、回復師が倒れた騎士に向かって回復をかける。
「ハイヒール!」
すると、倒れた騎士が、剣を支えにして立ち上がる。
オークキングと足元の氷結が回復したオークジェネラルの二匹を中心に、僅かな隙を探すように私たちは睨み合っていた。
その時、リーフが私に小さく耳打ちした。
「『
言われた通り、私はオークキングとオークジェネラルに向けて片手を差し出して唱えた。
「
するとたちまち地中から、木の幹から茨の蔦が勢いよく襲いかかり、オークキングとオークジェネラルの体をグルグルに拘束する。オークキング達は抵抗しようと剣を振るうが、切っても切っても次々と新たな蔦が襲いかかる。そして暴れれば暴れるほど、その拘束はきつくなる。とうとうオークキング達は、立っていられなくなり、ドウッ、ドウッと地響きを立てて倒れ込んだ。
「……これは凄い魔法ですね」
騎士は、抵抗できなくなったオークキング達を見下ろし、ほっとした表情でその見事に拘束された有様を見下ろして感嘆する。
「土魔法の一種なんです」
私はそういうことにした。多分、緑の精霊関係の魔法だと思うけれど。
「これがなければもっと苦戦していたでしょう」
そう言って、騎士二人でトドメの一撃をそれぞれ加えて葬った。
蔦はスルスルとほどけ、やがて土に、木の幹に取り込まれて消えた。
私たちは、オークとの戦闘の間に見つけた『おしゃべりキノコ』の中から品質の良いものを数株採取して、次の目的地に向かうことにした。
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