41.王子の治療
私とお父様は、馬車で王城へ急いだ。
その馬車の中で、お父様から、第一王子殿下が遅効性だが強力な毒におかされ、危ないのだと聞かされた。
馬車を降り、殿下の部屋まで行かなければならないのだが、王子殿下の部屋は王城の奥深く、王家の皆様の居住スペースにあるため、かなりの距離がある。
「デイジーの足では、急がせるのもかわいそうだな」
そう言って、ひょいと私を片手に抱き上げると、お父様は早足で目的の部屋まで向かった。
「魔道士団、副師団長のプラスラリア子爵だ。陛下に『薬が手に入った』とお伝え願いたい」
お父様は、部屋の前にいる兵士に言伝を頼んだ。
兵士は、扉をノックし、部屋に入り父の用件を伝える。するとすぐに陛下の声で許可がおり、私たちは部屋の中へと招かれた。
「おお、デイジー!薬を持ってきてくれたというのは本当か?」
陛下は、生死の境を彷徨う幼い我が子を前に、藁にでもすがりたいといった様子だ。
「はい、『強力解毒ポーション』を作ってまいりました。鑑定の結果、どんな毒にも効果があるそうです」
私は一礼し、ポシェットの中からそのポーション瓶を取り出して陛下に差し出す。
「ハインリヒを呼べ。疑うわけではないが念のため今すぐ鑑定させよ」
陛下は私からポーション瓶を受け取ると、すぐに兵士に命じた。
兵士は一礼すると足早にその場を後にした。
程なくして、ハインリヒが急いで部屋へやってくる。
「鑑定せよとのご命令、どの品にございましょうか」
「これだ」
陛下がハインリヒに瓶を差し出す。
すると、ハインリヒはその瓶をじっと凝視した後、陛下に結果を告げた。
「このポーションは、毒であれば、どんなものでも解毒できると出ております」
ハインリヒは、信じられないと言った様子だ。
「陛下、それを殿下にお飲みいただきましょう!」
年老いた宮廷医師は、陛下に進言する。
うむ、と頷いて、陛下はそのポーションを医師に預けた。
ポーション瓶を受け取った医師は、蓋を開け、ベッドに横になる王子殿下のもとへゆく。そして、両頬を手で挟んで口を開かせると、少しずつ、少しずつポーションを口に含ませていく。
「殿下、苦しいのが治ります。お飲みください」
そう医師に言われると、殿下は素直にコクリコクリと喉を嚥下させていく。
すると、紫がかっていた顔色は、赤みこそまだ戻らないものの正常な肌の色を取り戻していく。だが、殿下はまだ顔を歪ませ、腹部の痛みを訴える。そして苦しそうに息を浅く早く吐く。
……え?あの薬で治らないの?
私は正直、鑑定が全てと思っていただけに自信があった。なのに、治らないというのはどういうことだろう?私は混乱した。
「お父様……」
私は何かを間違ってしまったのだろうか。不安になってお父様の服の裾をぎゅっと掴んだ。お父様は私の手を包み込んでギュッと握り返してくれた。
「どういうことだ、なぜ治らん!」
陛下は焦れたように、医師に向かって言葉荒く尋ねる。
「陛下、落ち着きください。毒についてはもう大丈夫でございます」
医師は、焦る陛下を言葉で宥める。
「殿下、少々お腹を失礼いたします」
医師はそう言って、殿下のお腹を少しづつ場所をずらして押して行き、殿下が痛がる場所を探る。ちょうどお腹の中央あたりの柔らかい場所を医師の細く節張った指が押すと、殿下は大きく顔を歪ませた。
「何かわかったのか!」
陛下の問いに、医師は頷いた。
「しばらくの間、殿下のお体は毒に晒されておりましたから、胃の腑が傷ついておいでです。その傷をハイポーションで癒せば、全快いたしましょう」
医師がそう言って、頭を下げて見立てを申し上げる。
その言葉に、陛下も王妃殿下も光明が見えたのだろう、ほっとした表情をする。
「早く治してやってくれ」
陛下が医師にそう告げると、汗ばんだ額に張り付いた王子殿下の前髪を両脇に優しくかき分ける。
「勿論でございます」
そう言って医師は助手にハイポーションを取り出させて受け取ると、再び殿下の口元へポーションをゆっくり流し込む。素直にポーションを飲み込んだ殿下は、やがて呼吸が深く穏やかなものになり、僅かながらも頬に赤みがさしてきた。
薄ら瞳を開いて、あたりを見回す。
「……お、とうさま、おかあ、さま……」
そう言って腕を伸ばす。その手を王妃殿下が握りしめ、王子殿下を抱きしめる。
「ウィリアム、よかった……一時はどうなることかと……」
そう言って、かけがえのない我が子の命が守られたことに泣き崩れるのだった。
国王陛下は、そんな妃殿下の背を優しく撫でて慰める。
「宮廷医師マドラー、そして錬金術師デイジー。此度は我が息子のために尽力してくれて、一人の父として、心から感謝する」
その言葉に、医師と私は陛下に「もったいないお言葉です」そう言って、頭を下げるのだった。
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