40.強力解毒ポーションを作ろう②
自宅にいる私は、まだ王城で変事があったことなど知らない。
ただ、失敗した実験結果を目の前にするのみだった。
……失敗したのは、糧にしよう。うん。気を取り直して……。
紙に書出して、素材ごとの抽出条件などを整理してみる。
①毒消し草→下処理不要、沸騰させるとダメ(検証済)
②マンドラゴラの根→沸騰させないとダメ?(未検証)
③魔石→触媒としての効果を発揮していない。成分が抽出できていないのでそれ以前?(未検証)
まずは②のマンドラゴラの根の抽出温度を確認しないとダメだなあ。
私は、新しいビーカーにみじん切りのマンドラゴラの根と蒸留水を入れて、加熱を始める。
【マンドラゴラのエキス???】
分類:薬品のもと
品質:低品質ーーー
詳細:成分の抽出が出来ていない。
もう少したつと、気泡が大きくなってきた。そして、沸騰前まで行っても状態は変わらない。
そして、沸騰が始まる。
ボコボコと気泡が泡立つ中、マンドラゴラの根のみじん切りが踊っている。
よし、沸騰させても大丈夫!
ならこのまま続けて……。
【マンドラゴラのエキス】
分類:薬品のもと
品質:高品質
詳細:成分は十分抽出されている。
しばらく煮込むと、エキスをちゃんと取り出すことが出来た!
書き出したメモを訂正する。
①毒消し草→下処理不要、沸騰させるとダメ(検証済)
②マンドラゴラの根→沸騰させて煮出す(検証済)
③魔石→触媒としての効果を発揮していない。成分が抽出できていないのでそれ以前?(未検証)
おそらく、毒消し草の抽出液とマンドラゴラのエキスを別々に作り、混ぜたものに魔石を入れて、魔石を触媒として成分を変化させる。温度は沸騰させてはいけないが、それ以外は不明。……ここまでは整理出来た。
……と、その時だった。
バン!と大きな音を立てて、乱暴に実験室の扉が開かれた。
「お父様?」
私は突然やってきた父に驚いて首を傾げる。だってまだ職務中のはずだ。
「デイジー、解毒ポーションは作っていないか?前に誕生日に毒消し草をいただいたよな?」
お父様は急いで来たのか息も荒く、性急に尋ねてくる。
「ちょうど今『強力解毒ポーション』を作ろうと思って実験中ですが……」
「じゃあそれを急いで仕上げてくれ!」
お父様が「よし、これで間に合う!」と、勝手なことを言っている。
……『実験中』と『できる』はイコールじゃない。
だいたい今は試行錯誤している途中で、割り込まれるとすごく頭が混乱してくる。
「静かにやりたいので、お父様は居間で待っていてください」
そう言ってお父様を実験室から追い出して、扉を閉めた。
……どこまで進んだかを、もう一度思い出そう。
私はひとつ深呼吸をして、ノートに視線を落とす。
毒消し草の抽出液とマンドラゴラのエキスを別々に作り、混ぜたものに魔石を入れて、魔石を触媒として成分を変化させる。
今は、マンドラゴラのエキスが出来たところだ。
次は、毒消し草のエキスを作る。
私は、新しいビーカーにみじん切りの毒消し草と少なめの蒸留水を入れて、加熱を始める。
沸騰直前まで加熱して止めると、エキスが抽出できた。
【毒消し草のエキス】
分類:薬品のもと
品質:高品質
詳細:成分は十分抽出されている。
毒消し草のエキスの中に魔石を入れ、だいぶ冷めてきたマンドラゴラのエキスを加える。
そして、丁寧にかき混ぜていく。
【強力解毒ポーション?】
分類:薬品
品質:低品質ーーー
詳細:複数の成分同士が反応できていない。
そのままの温度であまり反応に進行が見られないので、慎重に加温していく。
やはり、沸騰前であれば品質の低下は見られないので、そこまで上げて、その温度をキープする。
【強力解毒ポーション】
分類:薬品
品質:低品質ーー
詳細:複数の成分同士が反応し始めている。
うん、このままいけばいけるはず……。
私は、棒でゆっくりかき回していく。
すると。
【強力解毒ポーション】
分類:薬品
品質:高品質
詳細:あらゆる毒を治療する。ただし他の状態異常は除く。
お父様が急いでいるようだったので、タライに水魔法で氷水を出して、そこにビーカーを浸して素早く冷やす。そして、布でこして、薬をポーション瓶に入れた。
二つポーション瓶を持って、お父様が待つ居間に急ぐ。
「お父様!出来ました!」
「でかしたぞ、デイジー!」
お父様は私を抱き上げ頬擦りする。
「デイジーを連れて王城へ行ってくる!」
お父様は私を抱き上げたまま馬車へ行こうとする。
「お父様、いつもの私のポシェットをとってください」
お願いすると、気づいた侍女のケイトが私にポシェットを手渡してくれた。
「ありがとう、ケイト」
私は新しいポーションをポシェットに入れて、肩からかけた。
私とお父様は馬車に乗って、王城へ急いだ。