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王都の外れの錬金術師 ~ハズレ職業だったので、のんびりお店経営致します~ 作者:yocco

第三章 聖女じゃありません。錬金術師です。

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36.ふんわりパンとの出会い

 私とお父様は、ベヒーモスとの戦いで両親を失い、孤児となってしまったミィナを伴って自宅に帰った。


 途中、お父様は、御者に彼女の自宅に立ち寄らせ、ミィナに当面必要になる衣類などを取りに行かせる。


 そして、彼女が荷物の整理をしている間に、お父様は同じ集合住宅内に住んでいる大家に事情を説明し、彼女の心が決まるまでは彼女が両親と住んでいた部屋は、そのまま借り続けることを伝え、前払いで家賃を払った。


 これからも生きていく彼女にとって、両親の形見となるであろう品が残るこの家は、ミィナが彼女と両親の思い出を整理できる状態になるまで、まだそのままにすることにしたのだ。


 そうして、回り道をして帰宅し、お父様は、まず家を取仕切る執事のセバスチャンにミィナのことについて事情と今後の方針を伝える。


 ミィナは当面客間預かりとすることになった。平民とはいっても、彼女は父が身柄を預かると決めた預かり人だ。客間までミィナを案内したセバスチャンは、そうミィナに説明して、遠慮なく部屋を使うように伝えた。


 ミィナは、ようやく部屋に一人になってベッドに腰かけると、そのベッドの弾力が気になって、ぴょん、と跳ねてみた。こんなふかふかな布団は初めてだった。そのふかふかした感触を桃色の頬に押し付けているうちに、柔らかいベッドは、傷ついた子猫を優しく受けいれ、その日は、食事の時間になって侍女に呼ばれるまで、ずっと眠り続けたのだった。


 ◆


 夕食の時間。

 私は『客人』扱いなので、食事はプレスラリア家の皆さんと一緒だった。……私、お作法も知らないのに、緊張するよう。そんな気分を表すように、私の真っ白のしっぽがしゅんと下がって、無意識に落ち着きなく揺れる。


 そんな時だった。

「パンを置かせていただきますね」

 そう言って、侍女のお姉さんが私のパンを置くためのお皿に、トングで挟んだパンを置こうとする。ちょうどその見たこともないほど綺麗なまんまるのパンは、私の鼻先をかすめていき、香ばしい匂いとほんの少しのフルーツの香りが鼻腔をくすぐる。

 好奇心で、しっぽがピン!ってなった。

 ピンってなって、しっぽの先だけでクルクル揺れる。


『うわあ、これ食べたい!食べていいかな?』

 周りにいるプレスラリア家の皆さんをキョロキョロ観察したら、皆さんパンに手を伸ばしていたので、私もパンを手に取る。

『……柔らかーい』

 そのパンは、私の手の中でふにっと簡単にへこんだ。


「ミィナちゃん、このパン美味しそうでしょう?」

 デイジーさんのお兄さんだというレームスさんが声をかけてきた。私より少し年上くらいの、お父様であるヘンリー様とおなじ淡い水色の髪と瞳の優しげな男の子だった。柔らかくたわめられた瞳が優しげだ。


「このパンはね、デイジーが錬金術で作った『ふんわりパン』って言うのよ!」

 そう言って説明してくれたのは、デイジーさんのお姉さんだというダリアさん。ダリアさんはお母様のアップルグリーンの髪の毛と瞳を持った、少し快活そうなお嬢様だ。


「温かいうちが一番美味しいから、食べてみて」

 その謎のパンの発明者だと言うデイジーさんからも、ニコッとした笑顔で勧められた。

 そういうデイジーさんは、お母様譲りのアップルグリーンの髪に、お父様譲りのアクアマリンの瞳だ。


「では、いただきます……」

 パンを、口に入るくらいの大きさに小さくちぎる。すると、ふわりとしたフルーツとアルコールの香りが鼻先を掠める。

「うわあ、いい匂いですね……」

 私はその香りにうっとりする。そしてパクリ。


 んーーーー!ふわふわ!


 私のしっぽがパタパタしている。あ、ダメ、これじゃお行儀悪いのにっ!

 なんか、レームスさんが私のしっぽをちらりと見て微笑んでいる気がするー!


「あ、あの、このパンとっても美味しいです!あと、感動しすぎてしっぽが動いちゃいました……お行儀が悪くてすみません」

 私は、真っ赤になりながら皆さんに頭を下げる。


 すると、プレスラリア家の家長であるヘンリー様がくくっと笑って、大丈夫、とおっしゃってくださった。


「そうよ、堅苦しいことはあまり気にしないでね」

 ローゼマリア様もフォローしてくださる。


「そういえば、デイジーはもっと違うパンも作りたいって言っていたよね」

 私から話題を遠ざけてくれたのか、レームスさんがデイジーさんに話しかけた。


「そうなのよ。『デニッシュ』っていう、今度は『サックリ』なパンの作り方も本に載っていて、それも食べてみたいのよねー」

 とても素敵なパンを想像しているのか、デイジーさんの顔はニコニコだ。


「『サックリ』なパンですか。それは不思議ですね。食べてみたいなあ……」

 うーん、どんなパンなんだろう。私には想像がつかない。


「だったら今度デイジーが作る時に、お邪魔じゃなかったらミィナさんも誘ったらいいじゃない!」

 いいことを思いついたというように、ダリアさんがポン、と両手で手を叩く。


「それは素敵ね!ミィナさん、今度一緒にどうかしら?」

 首を傾げて、私を誘ってくださった。


「はい!ぜひ!私お料理も大好きなので、とっても気になります!」


 ……悲しいことでいっぱいだった私の中に、楽しみなことがひとつできた。きっと、気を使ってくださるプレスラリア家の皆さんのおかげだ。


 そのあとは、私の緊張も解け、ゆっくりと食事とお話を楽しむことが出来たのだった。

お知らせというか謝罪かも……。

今まで、デイジーの髪色を「エメラルドグリーン」としていたのですが、もう少し柔らかい色合いに見直したくなって、「アップルグリーン」と全面的に見直しました。あとからすみません( ⁎ᴗ_ᴗ⁎)


あとは、読者の皆様からデイジーの兄姉の出番が少ない(かつ幼い)という指摘がありましたので、二年経って少し落ち着きのある感じに育った?兄姉を出してみました。

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