歴代内閣が一貫して維持してきた憲法解釈を変更し、集団的自衛権の一部行使に道を開いた安全保障関連法の成立から、きょうで5年。菅首相は安倍政権の継承を掲げるが、違憲性のある法律をそのまま引き継ぐことは許されない。
安保法の制定は、7年8カ月に及んだ前政権が、法の秩序を毀損(きそん)した最たる例である。
「法の番人」といわれる内閣法制局長官を、政権の方針に沿う人物にすげ替え、一内閣の閣議決定で憲法解釈を見直した。歴代の法制局長官ら多くの憲法専門家の反対や、国会前デモのうねりを押し切り、巨大与党の「数の力」を頼んで、わずか1国会で強行成立させた。
安全保障環境が厳しさを増すなか、日本の平和と安全を守る手立てを尽くすのは当然だ。しかし、安倍氏のとった手法は、統治権力は憲法に縛られるという立憲主義をないがしろにし、熟議による合意が求められる民主主義の土台を壊した。
安倍氏は退任間際に公表した談話の冒頭、安保法成立を「大きな進展」と位置づけ、日米同盟はより強固になったと自賛した。だが、同盟強化がすべてなのか。これもまた、長期政権の「負の遺産」のひとつであり、首相の交代を機に、欠陥を正す議論を始めるべきだ。
安保法によって、自衛隊の海外での活動をめぐる政府の裁量は大幅に拡大した。国会の監視機能がそれだけ重要性を増したといえる。しかし、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)での日報隠しに表れた政府の隠蔽(いんぺい)体質が改まらねば、有効なチェックなどできまい。
そのうえ自公政権は今また、安保政策の大きな転換につながりかねない議論を進めようとしている。専守防衛の原則から逸脱する恐れのある敵基地攻撃能力の保有だ。
陸上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の導入断念に伴い浮上したもので、自民党の提言を受けて、政府が具体的な検討を始めた。
安倍氏は先の談話で、「憲法の範囲内」で「国際法を遵守(じゅんしゅ)」しつつ「専守防衛」にも変わりはないと述べたが、とても額面通りには受け取れない。だいたい、安保法の審議の際、敵基地攻撃について「想定していない」と明言していたのは、安倍氏自身である。
辞めていく首相が「今年末までに」と切った期限にとらわれる必要は全くない。日米同盟を基軸としつつ、近隣外交の努力を深め、信頼醸成をはかることこそ、地域の安定に資する。米中の覇権争いが激しさを増すなか、日本に求められる役割を見失ってはいけない。
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