1980年代から1990年代にかけて世界中を席巻した、アメリカ史上最高の歌姫、ホイットニー・ヒューストン。
アレサ・フランクリン、ダイアナ・ロス、ホイットニー・ヒューストン、ビヨンセ、マライア・キャリー・・・。類稀なる歌唱力とヒットソングを持つ女性ヴォーカリストの中でもごく限られた者のみがその実力をして「ディーヴァ」と呼ばれます。
今回は、偉大なるヴォーカリストの象徴である「ディーヴァ」という呼称が最も似合うアーティストと言っても過言ではないホイットニー・ヒューストンの代表曲・人気曲から、ボイストレーナー/ミュージシャンである私が10曲を厳選して紹介します!
ホイットニー・ヒューストンについて
ホイットニー・ヒューストンは1963年にアメリカ・ニューヨークからほど近いニュージャージー州ニューアークで生まれました。ホイットニーの母は有名なソウル・ゴスペルグループ、スイート・インスピレイションズの中心メンバー、シシー・ヒューストン、そして従姉妹にも有名シンガー、ディオンヌ・ワーウィックを持つサラブレッドでした。
家族の影響を受け幼少期よりゴスペルに触れ、10代の中頃にはスタジオ・レコーディングやファッションモデルとして活躍し、チャカ・カーンのバック・コーラスを務めるほどの実力派でした。
20代の初頭からニューヨークを拠点に音楽活動を本格化させていったホイットニーは、ある時に母・シシーと共にライブしているところをアリスタ・レコードの社長クライヴ・デイヴィスにスカウトされ、デビューへ漕ぎ着けます。
デビューした足で前人未到の記録を打ち立てた歌姫
1985年、アルバム「そよ風の贈りもの」でデビューし、いきなり爆発的な人気になり、このアルバムからシングルカットされた2作目のシングル「すべてをあなたに」以降、「グレイテスト・ラブ・オブ・オール」、「すてきなsomebody」といった楽曲が7曲連続で全米シングルチャート1位という前人未到の大記録を打ち立てたのです。
これまでの累計売上はアルバム:1億4000万枚以上、シングル:5000万枚以上とされており、「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガー」において第34位、「Q」誌の選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガーにおいて第98位と評されるなど、世界で最も素晴らしい歌手のひとりとして圧倒的な記録を誇っています。
ゴスペル出身の類稀なる歌唱力
ホイットニー・ヒューストンの一番の武器は類稀なる歌唱力です。有名ゴスペル・シンガーである母から歌を学び、幼少期からゴスペルクワイヤで培った「ゴスペル・フィーリング」はホイットニー・ヒューストンの歌唱力の源泉とも言えます。
ささやくような優しい歌声から何かが憑依したかのようなシャウトや絶唱まで、これほど緩急や表現に富んだ歌を歌えるヴォーカリストは他に類を見ません。
また、低音域から超高音域まで幅広い音域を持ち、どの音域でもブレることなく歌い切れるホイットニー・ヒューストンに憧れるヴォーカリストは少なくありません。
ホイットニー・ヒューストンの音楽性
ホイットニー・ヒューストンの楽曲はR&Bやソウルミュージックをバックボーンとしながら、万人が好んで聴けるような良質なポップス、あるいは当時のトレンドであったブラコン(ブラック・コンテンポラリー)です。
駆け足でデビューしたように見受けられる一方、デビューまでの準備に余念がなく、ホイットニーに魅せられたアリスタ・レコードの社長クライヴ・デイヴィスは「偉大な歌手だけではなく偉大な曲も必要だ」と考え、時間をかけてホイットニーの楽曲制作に相応しい優秀なプロデューサーやミュージシャンを集めたそうです。
How Will I Know(恋は手さぐり)
リリース年:1985年
収録アルバム:「そよ風の贈りもの」
まずご紹介するのはファーストアルバム「そよ風の贈りもの」に収録されているダンサブルなアップテンポのナンバー、「恋は手探り」です。
アルバムからシングルカットされると全米1位・全英5位に輝き、全米の年間シングルチャートでも6位に輝くなどいきなりヒットチャートに躍り出たのです。
80年代らしいシンセベースや打ち込み系のビートに乗って伸び伸びと歌うホイットニーも堪りません!
Saving All My Love For You(すべてをあなたに)
リリース年:1985年
収録アルバム:「そよ風の贈りもの」
「そよ風の贈りもの」に収録されている「すべてをあなたに」はホイットニー・ヒューストンのファンの間でも屈指の人気を誇る名バラードです。
マリリン・マックー&ビリー・デイヴィス・Jrのカヴァーバージョンであるこちらの曲もアルバムからシングルカットされると全米1位を獲得し、その勢いのまま全英チャートでも1位に輝くなど世界各国でも人気を博しました。
ジャジーな雰囲気溢れるスローなサウンドをバックに、広い音域を緩急を付けながら表情豊かに歌う様は圧巻です。
Greatest Love Of All (グレイテスト・ラヴ・オブ・オール)
リリース年:1985年
収録アルバム:「そよ風の贈りもの」
アルバム「そよ風の贈りもの」に収録されている楽曲の中で個人的にイチオシなのが「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」です。
ジョージ・ベンソンのカヴァーであるこちらの曲も、シングルカットされるとさも当然のように全米1位(全豪でも1位)に輝いているのですが、この曲のテーマは「子どもの自尊心」であり、自分を大切にすることの尊さ、それを大切にするんだという強い意志が現れた名曲です。
80年代のバラードソングの多くは男女関係を扱ったものでしたが、マイケル・ジャクソンの「マン・イン・ザ・ミラー」と同様、人としての在り方を情熱的に歌う様が美しいです。
I Wanna Dance With Somebody(すてきなSomebody)
リリース年:1987年
収録アルバム:「ホイットニーII~すてきなSomebody」
セカンドアルバム「ホイットニーII~すてきなSomebody」に収録されている「すてきなSomebody」はホイットニー・ヒューストンのアップテンポなナンバーの中で最も人気を誇っています。
シンセが前面に出たデジタルなポップサウンドの中で時に柔らかく、時にパワフルに緩急を付けながら歌う様が素敵ですね。
このアルバムは女性で初の全米アルバムチャート初登場1位に輝き、「すてきなSomebody」もシングルカットされると全米1位に輝いた他、全英・全豪でも1位という圧巻の記録を叩き出しました。
Didn’t We Almost Have it All(恋のアドバイス)
リリース年:1987年
収録アルバム:「ホイットニーII~すてきなSomebody」
アルバム「ホイットニーII~すてきなSomebody」に収録されている「恋のアドバイス」はホイットニー・ヒューストン屈指のバラードソングです。後にシングルカットされ、もちろん全米1位に輝きました。
ホイットニー・ヒューストンといえばパワフルに歌い倒す姿をイメージする方が多いですが、彼女が凄まじいのはむしろ緩急の「緩」の部分で大人しく柔らかく歌えるところです。
ここではそんな彼女の圧巻の緩急を堪能出来るライブバージョンをご用意したのでぜひ1曲通して聴いてみてくださいね!
So Emotional(やさしくエモーション)
リリース年:1987年
収録アルバム:「ホイットニーII~すてきなSomebody」
アルバム「ホイットニーII~すてきなSomebody」に収録された「やさしくエモーション」はバンドテイストなデジタルサウンドが特徴的なアップテンポな曲調の名曲です。
こちらの曲もシングルカットされるとこの曲も1位に輝いたわけですが、なんと当時のホイットニー、ここまでご紹介してきた曲を含めリリースした曲が7曲連続で全米1位を獲得するという前人未到の快挙を成し遂げていたのです!
しかも当時はジャーニーやヴァン・ヘイレンといったバンド全盛期であり、マイケル・ジャクソンのような大スターの全盛期という「戦国時代」。そんな時期に7曲連続で全米1位を獲得するのは今のヒットチャートとは比較にならないほど困難なはずです。
その勢いのまま、数年の時を経てあの名曲をリリースしました。
I Will Always Love You (オールウェイズ・ラヴ・ユー)
リリース年:1992年
収録アルバム:「ボディガード オリジナル・サウンドトラック」
お待たせしました!ホイットニー・ヒューストンの数々の名曲の中でも最も有名な名曲、R&Bやアメリカンポップスにおける永遠のクラシックこそ、ホイットニーが主演した映画「ボディガード」のテーマ曲「オールウェイズ・ラヴ・ユー」です。
もちろん全米1位を獲得したわけですが、なんとその期間は14週連続!2012年にホイットニーが亡くなった際、約20年の時を経て再びシングルチャートトップ3に輝いたことからも、この曲がいかに愛されているかが伺えます。
日本のオリコン洋楽チャートではなんと27週連続で1位、全英・全豪のチャートでも10週連続1位に輝き、この曲が収録された映画のサントラはなんと全世界で4200万枚以上も売り上げたという伝説を残しました。
この曲の魅力はなんといってもホイットニーの緩急溢れる表現力豊かな歌声です。ささやくように始まる出だし、ファルセットで繊細に歌い上げる最初のサビから2番へ繋がる柔らかいフェイク、そこからラストに向かって畳み掛ける様!1秒の隙もなく全てが見どころと言える珠玉の名曲です。
I’m Every Woman(アイム・エヴリ・ウーマン)
リリース年:1992年
収録アルバム:「ボディガード オリジナル・サウンドトラック」
映画「ボディガード」のサントラに収録されているしっとり系の楽曲・・・と思いきや途中からアップテンポな雰囲気にガラッと変わる人気曲が「アイム・エヴリ・ウーマン」です。
ホイットニー・ヒューストンの先輩にあたる人気のR&Bシンガー、チャカ・カーンのカヴァーソングであるこの曲はホイットニーのアップテンポの楽曲の中でも特に人気が高く、スタイリッシュでクールな雰囲気が堪りません。
I Have Nothing(アイ・ハヴ・ナッシング)
リリース年:1992年
収録アルバム:「ボディガード オリジナル・サウンドトラック」
映画「ボディガード」のサントラに収録されている、ホイットニー・ヒューストン屈指の名曲「アイ・ハヴ・ナッシング」。
AOR、R&B系の有名アーティストと縁の深い名プロデューサー、デヴィッド・フォスターが手がけるこちらの曲はドラマチックな展開と、楽曲のパワーに全く力負けしないホイットニーの卓越した実力が冴え渡る名バラードです。
Run To You(ラン・トゥー・ユー)
リリース年:1992年
収録アルバム:「ボディガード オリジナル・サウンドトラック」
映画「ボディガード」のサントラに収録されている「ラン・トゥー・ユー」もまた、名プロデューサー、デヴィッド・フォスターが手がけるバラードの人気曲です。
イントロのホイットニーの囁くようなフェイクに始まり、ラストへ向かって熱が高まっていく様はもはやホイットニーならではの様式美。ひとつのサントラにどれだけの名曲を盛り込むんでしょうか・・・ホイットニー恐るべしです。
最もおすすめの名盤はズバリ!「そよ風の贈りもの」
どのアルバムも売れに売れまくったホイットニーですが、その中で私が最もおすすめする名盤は「そよ風の贈りもの」です。
1980年代に活躍したR&B系アーティストの多くは下積みやプロデュース業を経て成り上がるか、楽器やダンスなどの才能に恵まれて有名になったパターンが多い中、ホイットニーはシシー・ヒューストンという偉大なゴスペル・シンガーを母に持ち、幼少期から「ゴスペル・フィーリング」を培い、息を吸うかのように音楽を含む芸能活動をはじめるとクライヴ・デイヴィスに見出されてと、運や才能に恵まれたアーティストと言えます。
そんなホイットニーが最も輝いていたのは「ボディ・ガード」のサントラかもしれませんが、アーティストとしての勢いや魅力が最も無尽蔵に解き放たれていたのはやはりファーストアルバム「そよ風の贈りもの」に他なりません。
これまでにご紹介した「すべてをあなたに」、「恋は手さぐり」、「グレイテスト・ラヴ・オブ・オール」といった全米1位の楽曲が3曲収録されており、全米アルバムチャートで14週連続1位獲得を筆頭に世界各国のチャートを沸かせ、グラミー賞の各部門にノミネートするなど圧巻の記録と記憶を叩き出した名盤です。
ベストアルバムもおすすめ!
今回ご紹介していったヒット曲をはじめ、あらゆるアルバムの代表曲が収録されたベストアルバムもおすすめです!
まとめ
ホイットニー・ヒューストンの名曲・有名曲・代表曲と言われるような楽曲を時系列順にご紹介してまいりましたがいかがでしたか?
歴代最強のディーヴァ(歌姫)として、あらゆるジャンルのレジェンドの全盛期だった80年代に、ビートルズですらなし得なかったシングル7曲連続全米1位という大記録を残し、その類稀なる歌唱力や表現力で世界中の人々を虜にし、記憶に残るような歌を紡いだホイットニー・ヒューストンの凄さや魅力が伝われば幸いです。