【役立つ道具の話】セメダインC

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接着剤のセメダインCのお話です。知っているようで知らない話だったら価値があります。

公開講座で持ち物リストに接着剤と言うと、このセメダインCを持参される方も少なくありません。歴史の長い商品で、工作の接着剤といえばよく使われていました。プラモデル少年にとっては僕らの強い味方!です(した)。

海外製の合成接着剤が輸入され始めたのは明治中期を過ぎたあたりのようで、それまで接着剤といえば天然物(ニカワなど)を主原料としたものでした。しかし、耐水性・耐熱性にかけていました。そうした状況で開発されたのがセメダインCです。日本初の合成接着剤です。

このセメダインCの原料はニトロセルロースです。セルロースは硝酸と化学反応し、セルロースのエステル系誘導体のニトロセルロース(硝酸セルロース)が生成します。この原料のセルロースは木材です。セメンダインCの品質表示を見ますと、セルロースと書いていますが、セルロース単体では接着剤にならないので、これはニトロセルロースのことですね。ニトロセルロースと明記する必要が無いようです。

酢酸ビニル樹脂とありますが、これも接着剤として機能します。

ニトロセルロースは融点が171℃付近にありフィルム等に使われる透明なプラスチックです。世界でも最古の合成樹脂(発見:Henri Braconnot in 1832)としても知られます。燃えやすい性質があります。塗料やフィルムのほか火薬に使われている材料でもあります。セルロイドって聞いたことありませんか?昔は下敷きなどの文房具によく使われていましたが、今では使われなくなりました。昔、映画のフィルムに使用されていた歴史があり、1900年前後ですが、自然発火により、映画館の火災の原因となっていました。

話を接着剤に戻します。このニトロセルロースは汎用有機溶媒のアセトンに溶解します。セメダインCはニトロセルロースをアセトンを溶剤として接着剤としています。アセトンが蒸発して残るのはニトロセルロース、この高分子と溶剤に親和性の高いモノが接着されます。親和性が無いとくっつきません。例えば、ポリプロピレンやポリエチレンはアセトンに溶解や膨潤しないので、接着することが出来ません。剥がれてしまいます。また、溶剤がアセトンなので、接着しようとするモノがアセトンに溶解したり、アセトンを吸収して膨潤したりするものと接着するときは要注意です。多く使うとアセントによりブヨブヨになったりします。プラモデルのプラスチックはスチロール樹脂(ポリスチレン)やABS樹脂(ポリ(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン))が多く使われますが、アセントに溶解したり膨潤する高分子なので、セメダインCを付けすぎると、、、アセトンにより相手側が変形してガッカリな結果になります。接着剤に使われている溶剤を考え、必要最低限の量で使用することを心がけることが、ものづくりのワザにつながります。相手側が変色したり、変形するか心配な場合は、事前に不要な部分、見えない部分を使って試してみればよいですね。あるいは、着けようとするものの物性をネットでしらべて、アセトンに溶けるかを調べるのも良いです。基本的に、接着しようとする場合は、相手側ががアセトンに溶解したり膨潤、あるいは浸透する性質をもっていないと接着しません。紙や和紙、木材はアセトンに溶解したり膨潤しませんが、浸透します。どうして接着されるかと言えば、繊維にアセトンと共にニトロセルロースが浸透し、繊維質にニトロセルロースが分子レベルで絡まり、アセトンの蒸発により結果、固着するからです。また、キャップを忘れると出てこなくなりますが、アセトンが蒸発してニトロセルロース(や酢酸ビニル樹脂)がチューブの出口付近で固化するからです。

耐水性、速乾性、仕上がりが美しいという特性は、当時の外国製品を充分に凌駕したようですが、この特徴は今でも接着する相手によっては顕在です。原料や溶剤により色々な接着剤が開発され市販されていますが、セメダインCはその元祖と言えます。

国立科学技術博物館の重要科学技術史資料に登録されているようです。

教訓:

・道具はその性質を知って使うことが大切
・接着するものとしないものがある
・工作に使う素材とアセトンの親和性を把握して使う

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庄司英一 (Eiichi Shoji, MONOZUKURI LAB)
先端マテリアル創造ものづくり研究室として福井大学で活動しています。日頃の研究活動から、開示できる情報を発信します。
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