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次亜塩素酸水とは何だったのか

きわめてわかりにくく不可解だった国の対応

小波秀雄 京都女子大学名誉教授

次亜塩素酸水問題には決着が付いた

 経産省を中心とした国による消毒剤の効果検証の流れを追ったが、一方民間機関でも検証は行われていた。 新型コロナウイルスへの有効性の検証を行っていた北里研究所・北里大学は、4月17日付けでプレスリリース「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)不活化効果について」で結果を発表し、ほとんどの洗剤や抗菌ワイパーでウイルスの不活化効果があることを報告した。ただし製品の提供に応じたメーカーは花王1社であり、次亜塩素酸系の製品は対象となっていない。

 その後、同研究所・大学は、9月1日に新たなプレスリリース「新型コロナウイルスに対する消毒薬の効果を検証」でその結果を公表し、大幅の情報が更新された。消毒剤としては、アルコール系、ハンドソープなどの洗剤、そして塩素系として、次亜塩素酸水、次亜塩素酸ナトリウム、および二酸化塩素が試験の対象になった。また、花王、ライオン、P&G、サンスターなど国内の主要な洗剤メーカーが社名の公開に応じ、塩素系消毒剤を提供したメーカーで公開を希望したのは1社しかなかった。

 その結果の部分を全文引用する。なお「表1」は省略した。

1.市販雑貨品のSARS-CoV-2不活性化効果(表1)
 市販雑貨品のSARS-CoV-2不活性化効果について調査しました。市販のアルコール系消毒剤は、アルコール濃度50%以上の製品であれば30,000個の新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能でした。またハンドソープ系、台所洗剤類、お掃除並びにふき取り系製品においても、製品の使用方法に従って使用すれば、新型コロナウイルスを完全に消毒することが可能であることが明らかになりました。
 一方、二酸化塩素系、次亜塩素酸水系の製品は、製品の劣化がないことを確認してから、試験を実施しましたが、30,000個の新型コロナウイルスを完全に消毒することができないことが明らかになりました。

 この結果は専門誌『感染制御と予防衛生』2020年9月号に研究論文として掲載され、プレスリリースで省略された詳細な実験手順なども記載されている。アカデミックな研究機関が半年近くにわたる試験を行って査読論文に詳細な報告を出したことは、高く評価されることであり、この報告の重要性は大きい。大筋においてNITEの結果を支持していることはだいたい予想通りではあり、合理的な結論と言えるであろう。注目されるのは、塩素系の製品の効果については、新型コロナウイルスの消毒能力が不完全であったということで、 メーカー指定の方法よりももっと高い濃度でないとウイルスの完全な不活化は無理であることを示している。もちろんこのことは、人体に直接触れたり吸入させたりすることを否定する結果でもある。

 政府系の試験機関であるNITE と感染症研究において長い伝統のある北里研究所・大学の結果が出揃ったことで、次亜塩素酸水をめぐる議論には決着がついた。 次亜塩素酸・二酸化塩素系の消毒剤には一定の効果はある。一方で人体に直接触れるような噴霧は避けるべきである。これに対する合理的な反論は見当たらない。

拡大北里大学

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筆者

小波秀雄

小波秀雄(こなみ・ひでお) 京都女子大学名誉教授

1951年生まれ。東北大学理学部大学院修了(理学博士)。専門は物理化学、情報学、統計学。著書に『人間と社会を理解するための統計学』など。