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次亜塩素酸水とは何だったのか

きわめてわかりにくく不可解だった国の対応

小波秀雄 京都女子大学名誉教授

学校での次亜塩素酸水噴霧をめぐる文科省の不可解な動き

 教育機関に対する情報の周知についても、国は不可解な動きを見せた。文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課は6月4日に「学校における消毒の方法等について」と題した文書を全国の小中学校と高校に送付した。次亜塩素酸系の消毒剤の使用は慎重に行い、手指消毒や噴霧は行わないことが明記されている。ところが、しばらくしてそのPDF文書は削除されてしまい、URLをクリックしても「お探しのページは見つかりません」と表示されるだけになってしまった(現在ネット上で見られるのは宮城県庁のHPに掲示されているもの)。そして6月16日には別の文書が現れて、次亜塩素酸水について書かれた箇所は次のようになっていた。

〇次亜塩素酸水の噴霧について
 「次亜塩素酸水」を消毒目的で有人空間に噴霧することは、その有効性、安全性ともに、 メーカー等が工夫して評価を行っていますが、 確立された評価方法は定まっていないと言われています。メーカーが提供する情報、厚生労働省などの関係省庁が提供する情報、経済産業省サイトの「ファクトシート」などをよく吟味し、 使用について判断するようお願いします。 なお、 児童生徒等の中には健康面において様々な配慮が必要な者がいることから、 使用に当たっては、 学校医、 学校薬剤師等から専門的な助言を得つつ、必要性や児童生徒等に与える健康面への影響について十分検討して下さい。

 次亜塩素酸水の噴霧について中止を求める文言を突然撤回してしまったのである。メーカーが評価を行っているからそれまで待っていろというのであろうか。 その後この文書もいつの間にか削除されていて、現在文科省サイトで閲覧が可能なのは、9月3日に出された「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~『学校の新しい生活様式』~」という文書である。空間噴霧については、70ページもの長大な文書の中程に次のような記述が見つかる。

 人がいる環境に、消毒や除菌効果を謳う商品を空間噴霧して使用することは、眼、皮膚への付着や吸入による健康影響のおそれがあることから推奨されていません。

 噴霧を推奨しないとはしているものの、「次亜塩素酸水」という単語はこの中にない。次亜塩素酸水は消毒効果を謳う商品であるから、論理的には含まれるはずではあるが、明記することをやめているのである。

 以上のように、4月以来の文科省の一連の動きは経産省のそれに比べてさえも不可解であり、 外部的な力が働いていることを思わせるのだが、実際、業界団体の次亜塩素酸水溶液普及促進会議(後述)も、「多くの賛同者・同志の方々との情報のやり取りや関係当局への働きかけにより文部科学省の学校への使用禁止の通達は6月16日に修正されました」と関係当局へ働きかけたことをウェブサイトで明言している。このような流れの中で度重なる態度変更を行ったことを、文科省はどう説明できるのだろうか。

拡大入り口で次亜塩素酸水が入ったミストで客の消毒をしている飲食店=2020年5月26日、東京都新宿区

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筆者

小波秀雄

小波秀雄(こなみ・ひでお) 京都女子大学名誉教授

1951年生まれ。東北大学理学部大学院修了(理学博士)。専門は物理化学、情報学、統計学。著書に『人間と社会を理解するための統計学』など。