韓国の元慰安婦らを長年支援してきた団体の運営をめぐり、不正の疑惑が浮上している。団体のトップだった国会議員らが詐欺などの罪で在宅起訴され、批判が高まっている。
寄付金の流用など疑惑の内容はさまざまあるが、真相の究明は司法の審理を待つほかない。ただ、疑惑の真偽がどうあれ、改めて元慰安婦の救済という問題に光があたっている現状を、日韓両政府とも重くとらえるべきだろう。
2015年に両政府は被害者の支援を含む合意を結んだが、形骸化し、意義が見失われている。韓国政府は、人権問題の原点に立ち戻り、合意の再評価と履行を進める契機にするべきではないか。
慰安婦問題については、今回の団体などの活動により、被害が掘り起こされ、世論が喚起されてきた経緯がある。同時に、この団体は日本の法的責任についても強く追及してきた。
日本政府は法的責任は認めていないものの、日韓双方が政治的な落着点としたのが、5年前の合意である。日本政府は戦時下の「軍の関与」を認めた上で「責任を痛感している」とし、安倍首相名で「心からのおわびと反省」を表明した。
だが、合意についても団体側は「外交的談合」と批判し、韓国世論を拒否へと方向づけた。この流れを受けるかたちで文在寅(ムンジェイン)大統領は、合意に基づいて設けられた被害者のための財団を一方的に解散した。
文氏は「被害者中心主義」を掲げ、当事者の意向を尊重するとしている。だが、財団の解散以降、代わりの具体的な救済策を示してはいない。
合意に基づく支援金については、元慰安婦の7割が受領している。その多くが苦悩や葛藤の末に受け入れたという。
過去の傷を少しでもやわらげることが、被害者中心の考えではないか。関係者の高齢も考えれば、すでに築かれた日韓合意の枠組みを生かした救済を急ぐのが、妥当な道であろう。
そのためには、日本側も協力に動かねばならない。安倍政権は、合意を境に問題がなくなったかのような姿勢だったが、その冷淡な言動が韓国の反対運動を勢いづかせてきた。
歴史問題は、一つの合意でただちに解消するものではなく、双方が合意に込めた意識と行動を未来につないでこそ意義がある。菅義偉政権はこじれた関係のリセットに向け、新たな政府間対話を始めてはどうか。
両国はいま、徴用工問題に直面している。慰安婦合意の趣旨を双方が再確認することは、複合的な危機を回避するためにも有効だろう。
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