最近、タクマー58mm f2のレンズ構成について論争がありました。今回は、このことについてボクの考えを述べましょう。
事の発端は(た)さんのコメントでした。コメントは、書庫、レンズ編:タクマー58mmf2にあります。氏のハンドルネームをクリックすると(た)さんのブログに行けます・ゲスト(ヤフーブログ会員以外)さんのサイトに直接飛べるとは初めて知りました、以前は行けなかったと思います。ブログを読んでみると、そのリサーチ力は、尊敬に値するもので、相当な力作でした。要約すると、「タクマー58mmf2は、東京光学の前群ゾナー、後群ガウスのシムラーレンズに触発された、変形ガウス型である」と客観的な資料から判断を下しています。
氏のブログにはタクマー58mmf2のレンズ構成図が載せられていましたが、ボクは初め、これがタクマー58mmの構成図だとは思いませんでした。ですので早速ネットで調べると、同様な構成図が数点見つかりました。それがこの図です。
たしかにこの図をみれば、メニスカス(三日月という意味)の凹凸レンズで構成されたトポゴンタイプの後群に目が向き、ガウス型から派生したクセノタータイプの印象です。典型的なクセノターと違い、2群目がゾナーのように3枚張り合わせですから、変形クセノターでしょう。
しかし、当館では、タクマー58mmf2をゾナータイプと分類していますので、この点で論争が勃発したという次第です。
当博物館は、「ASAHI PENTAX SCREW MOUNT GUIDE」といういわばバイブル的な名著を主な参考資料にして、展示を進めています。そこに載せられているタクマー58mmの解説がこれですが、著作権がありますので、写真でさらっとお見せしましょう。
レンズの構成図が違っています。凡そは似ていますが、後群はトポゴンではなく、3枚貼り合わせの2群目に比べて、3群目は絞りを挟んで非対称形の凹レンズです。初めて見たときには、この部分の凹レンズの形からガウスではなく、ゾナーの印象を受けました。レンズ構成のバリエーションが2種類以上あるのか、どちらかが誤りなのかは、現在調査中ですが、かなりの時間がかかると思われます。
そして、これがゾナー 50mmf2(図はニッコールHC5cmF2)のレンズ構成図です。コーティング技術の向上や屈折率の高い光学ガラスの開発もあり、タクマー58mmは、この後群を分離して、凹レンズをガウスのように反転させ、その後ろの凸レンズを薄くして、バックフォーカスをかせいでいるのだ、と考えました
実際、旭光学は同様のひっくり返しを過去にも行っています。それは、タクマー58mmの姉とも言える、アサヒ フレックス用のタクマー83mmf1.9(レンズ構成は後のアサヒ ペンタックス用タクマー83mmと同じ)です。判りやすくするために、2枚の画像を続けて貼ります(著者にはあくまでこの本の紹介ということでご勘弁)。
2枚目は同時期に発売された、エルノスター構成のタクマー135mmf3.5と比較したものです。135mmの後玉は、見覚え無いですか?そうです、ゾナー50mmf2と同じ構成です。ちなみに、エルノスター型はゾナーの親にあたり、さらにテッサー、トリプレットと遡ります。このレンズの設計を余程気に入ったのか、以降旭光学の135mmf3.5はSPの時代までずっと同じ構成でした。
タクマー83mmは、ゾナー由来の後玉の凹凸を分離して、凹をひっくり返し、さらにそれを2枚構成にしてあります。旭光学は一眼レフのパイオニアでしたので、ミラーの動きに干渉しないよう、ゾナー型レンズのバックフォーカスを延長する方法を色々と考えて、この凹凸の組み合わせを編み出したと思います。
ここで、ゾナー・ガウス折衷レンズとして知られている、シムラー50mmf1.5の構成図を出します。
中央部にある絞りから後ろのレンズ構成は、明らかにガウス型の特徴を持っています。しかし、タクマー83mmの後群はいわゆるガウスではありませんし、トポゴンでもありません。。
確かに初めに掲載した、タクマー58mmのレンズの構成図だけをパッと見れば、クセノター型と判断でき、これが専門家と言われてる人たちの評価なのでしょうが、そのレンズのルーツを考えて評価する方法も必要ではないかと、ボクは考えています。
前群ゾナー型タクマーの後群は、ガウス型からの派生だとするならば、その特徴が残っているはずです。実際、折衷型と言われるシムラー5cm f1.5やセレナー、ニッコール、ダルメイヤーなどの後群は、明らかにガウス型の特徴を持っています。しかし、タクマー58mmの姉レンズと言える83mmの後群が、ガウスやクセノターの特徴を持たない理由はなぜでしょう。
タクマー58mmf2がガウスなのか、ゾナーなのか、はたまた折衷型と言うべきなのか、いかがでしょうか?
ここからは、話題が変わるのですが、それまでは客観的な見方で構成されていた(た)さんのブログは終章に入ると、主観的な意見が述べられています。そこで、当Sシリーズ博物館のタクマー58mmf2の展示で「2群めが3枚貼り合わせの、正真正銘のゾナータイプレンズです」という記述が批判の対象となっています。氏の言葉を要約すれば、「全体的なレンズ構成を考えずに、ただ2群目が3枚貼り合わせというだけで、脊髄反射的にゾナーと判断している」と解釈されているようです。
しかしそれは、まったくの誤った解釈で、ボクの言う「正真正銘の~」という意味は、数あるゾナータイプのレンズのなかでも、コストのかかる、2群目が3枚貼り合わせレンズ(ペンタックスSシリーズ現役当時の一眼レフ用のゾナーは大半が2枚貼り合わせ)を、自分では、特別に評価して「正真正銘のゾナー」と呼んでいる、という意図で記述したのですが、おかしなことに「3枚だからゾナーである」と誤って解釈されています。
高いリサーチ力と客観性を重視した方針で、称賛に値する出来のブログ記事ではありますが、残念ながら、終章では誤った解釈での主観的な考察が展開されているのです。