シナリオ詳細
再現性東京2010:天使症候群
冒険中
参加者 : 10 人
冒険中です。結果をお待ちください。
オープニング
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この世界には天使なんか存在していない――
病室の窓から見る風景には飽きてしまった。もう随分長い時間を此処で過ごしている。詳しい病名は知らないが、僕は死ぬらしい。そう母さんと晴陽先生が話してるのを聞いてしまった。どうしてかは分からないけれど、すんなりとそれを受け入れることが出来た。人間とは呆気なく死ぬもんなのだと諦めもあったのかもしれない。
「優助は、どうして」
涙をボロボロと流す母さんだけがちょっと不憫だった。母さんと話していた晴陽先生と目が合ってから――驚いたように先生の眼が見開かれた。丸い硝子玉みたいで綺麗な瞳をした先生は僕の事なんて見ないふりをして「せめて、優助君が過ごし易いように環境を整えましょう」と母の背を撫でた。
……それから一週間が経過した。僕は未だ、生きている。
生きている――のとは違うのかもしれない。僕は生かされていた。
母さんが帰った後、病室にやって来た晴陽先生は「姿を見せろ」と静かな声で言った。
「先生?」
「……良いですか、優助君。君には大切な秘密を教えます。
この世界にはお化け、悪霊、怪物、悪魔、そう呼ばれる存在が居ます。私達はそれを悪性怪異――夜妖<ヨル>と呼んでいます」
まるで、おとぎ話のようなことを、先生は真面目な顔で語った。
「そして、その夜妖は君に取り憑いた。君は自分の事を良く知っているのでしょう。
もうすぐ死ぬ運命(さだめ)であると知った君の心に何かが巣食った。ええ、それはまるで――」
『天使よ』
声が降り注ぐ。甘ったるい生クリームで塗り固めた様な喜色の悪い響きをさせて。ソプラノが降ったそれに僕は思わず息を飲んだ。叫び出しそうになった口を先生が抑えている。「秘密です」と繰り替えされて僕は頷いた。
「では、天使。お前は優助君に憑いて何をするつもりだ?
この子の寿命はもう幾許しかない筈だ。だが、お前が憑いてから明らかに彼の容体は安定した」
『そうでしょうね! だって、私は天使だもの!』
――僕は良く分からないけれど『天使』のおかげで命を繋ぐことが出来るのだろうか?
「人の命に干渉を行うならば代償が必要だ。それ位、世界の常識だ。
……では、問おうか。『天使』。お前は代償に何を貰っている? 一日、この子の寿命を延ばすごとに、お前は何を――」
其処まで言った先生のポケットに入っていた携帯電話がけたたましく音を響かせた。ばたばたと大げさな足音が響く。
「院長先生!」「晴陽先生!!!」「澄原先生!!!」
幾人もの声が、交差する――そして、一つに交わった。
「患者さんが急変して――!」
まさか、と晴陽先生の唇が動いた。天使は、ぞっとするような笑みを浮かべてそこに立っていた。
●
再現性東京の希望ヶ浜地区。東京都西部に位置するとされる中核市であり、よく『希望ヶ浜県』『埼玉でいい』『山梨の領土』と揶揄されるこの場所には特異的に『悪性怪異』と呼ばれる存在が発生していた。それが何処から現れるのかは分からない――だが、それらの中にも種類があるらしい。
希望ヶ浜北地区に位置する通称『北希』の中核となる澄原病院。練達でも有数の富豪であり希望ヶ浜地区にも分家のルーツを持つ者が病院を経営している。
その澄原病院は『夜妖専門科』を擁している。つまり、『此方側』の人間だ。
そんな彼らが良く相手にするのは悪性怪異が『取り憑いた人間』への対処だ。特異な例ではあるが、綾敷・なじみのような耳と尾は旅人として所有していたのではなく『夜妖』が憑いた結果なのだという。また、『掃除屋』にも一人、夜妖憑きは居り――こちらは、彼が公表を避けているのだから本人の口から聞いた方が良いだろう――希望ヶ浜の中では共存している者も多く存在する。
だが、時偶に悪意ある夜妖憑きが存在することも否定はできない。其れ等が体を乗っ取る判例も多数存在し――音呂木・ひよのに言わせれば時と場合によれば『何とかお祓いできれば』悪性怪異だけを討伐する事も出来るのです――カフェ・ローレットや希望ヶ浜学園から対応指示が入る事もある。単純に獣のように襲い掛かる者も居れば、その身の内でも共存する者も居るという奇異なる現象、ではあるが。澄原病院院長にして 夜妖憑き診療専門医である澄原・晴陽からカフェ・ローレットに入った情報は――……
case:天使症候群。
『患者・於保多 優助は難病指定XXXXにより延命治療を有する患者であったが、容態が急変。治療の必要がなく常人の様に過ごす事が可能となって居る。現在は夜妖を知る者のみに管理を留め、面会謝絶としている(その為、優助に関しての情報は秘匿サレタシ)。
彼は『天使』を名乗る夜妖に憑かれ、その命を繋いでいることが判明。
診断結果、この事例を天使症候群と名付けて経過の観察を行っていた。
天使による延命一週間では周辺には容体が急変する患者及び小さな不幸が齎された。
天使による延命一か月では明確に周囲での不審死と不幸が齎された。
この事より、天使は他社の不幸や命を代償に優助の命を繋いでいるという事になる。
夜妖を討伐すれば、患者の少年は死ぬ。然し、彼が居るだけで回りには不幸な死が訪れる。
……果たして、我々はどちらを選ぶべきか。
これについて、特殊判例として希望ヶ浜学園へと報告するとともに、対処を願う』
「ひよひよ。夜妖憑きって『お祓い』できる……んだよね?」
北希に住まう夜妖憑きたる綾敷・なじみはそう問いかけた。湖面の様に瞳に静かな凪を作ったひよのは目を伏せた。
「無理でしょうね。この場合、晴陽先生が『対処を願う』という事はもっと自体はややこしい。
確かに『天使』と優助を分離させることは出来るでしょうが……『天使を分離させれば優助は死にます』。元から夜妖が無理矢理その心臓を動かしているのですから、そんなこと確定的に明らかです」
「じゃあ――」
「ええ。これは『誰を殺すか決めろ』と言っているのでしょうね」
暗い影を落としたひよのになじみは息を飲んだ。優助を殺すと決め夜妖を退治するか、優助を生かすために周囲の事を見殺しにするか――その選択が必要なのだ
- 再現性東京2010:天使症候群冒険中
- GM名夏あかね
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 出発日時2020年09月16日 23時59分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険中です。結果をお待ちください。
GMコメント
『夜妖憑き』という新要素です。よろしくお願いいたします。
●成功条件
澄原・晴陽に『天使症候群』対応後レポートの提出
(天使症候群への対応を決め、優助の処遇を決定した旨を伝える事)
●夜妖憑き
悪性怪異<夜妖>が一般的な人間に憑依した症例の事。悪性怪異と呼ばれる者の直接的な外囲がないケースや代償を支払えば大丈夫なケースも多数見受けられます。
(例:なじみは猫耳と尻尾は顕現しているものの『ヒミツの代償』を支払っているようです)
●澄原病院
北区域に存在する大病院。希望ヶ浜の住民なら誰もが診療券を持っていると言われます。
そのルーツは練達の富豪である研究者澄原氏ですが分家は希望ヶ浜に坐しているようです。分家の跡取り娘の晴陽(それから弟がいるそうです)が澄原病院の院長を務めます。
夜妖についても知っており神秘の秘匿を必要としない夜間診療を所有。
澄原晴陽が敵か味方かはさて置いて――彼女が『夜妖』専門医である事は確かです。
今回は昼夜問わず澄原病院を中心に活動可能です。
ただし、昼間は通常の患者も多いため注意してください。
天使症候群患者は隔離病棟に居ます。
●天使症候群
天使と名乗る夜妖が発生し、寿命幾ばくも無い存在の延命を行います。
その代償は周囲より無差別に得るようです。不幸を齎す、命を奪うなどなど。
延命期間が長くなればなるほどにその代償は大きく膨れ上がります。
現時点で澄原病院では看護師の怪我や患者の不審死が相次いでいます(それらも『澄原でもみ消してます』)
天使が『命の源』であるために退治するまたは引き剥がすと憑依された者は死亡します。
天使自体にも戦闘能力はあり、戦闘の際はその姿を顕現させますが――天使と呼ぶには悍ましすぎる外見をしているようです。
●於保多 優助
おおた ゆうすけ。難病を患い余命いくばくもない少年です。
自身が死ぬと言う認識をしていましたが『天使』によって延命されています。
最初は死を受け入れていましたが、その延命時間が長くなれば長くなるほどに、普通の生活に、学校生活に憧れる様になりました。彼と最後の思い出を残すというのもありでしょうね。どちらにせよ、辛いのでしょうが……
天使を引き剥がさず他人の不幸といのちを代償に生き永らえさせる選択も良いでしょう。ただ、彼の善意悪意に関係なく周りの人は不幸になり、死に至るのです。
●NPC
・音呂木・ひよの
希望ヶ浜学園所属、音呂木神社の跡取り娘(巫女)、夜妖プロフェッショナル。
皆さんの案内人兼軽度の戦闘要員として参加します。一応戦闘能力は有してます。
・澄原・晴陽
澄原病院所属。一見すれば穏やかで丁寧ですが夜妖が絡むとその仮面が剥がれるようです。
敵か味方は分かりません。警戒すべき対象なのは確かですが澄原病院は彼女のテリトリーです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
どうぞ、よろしくお願いいたします。