23.マーカスの教育①
約束した二日後の朝、約束通り、マーカスがやってきた。
サイン済みの契約書と、マーカスのお母様から私のお父様に宛てた手紙を持って。
手紙には、ハイポーションのお礼と、息子をくれぐれもよろしくお願いします、といったような子供を心配する母親の言葉が綴られていた、と、あとからお父様に教えてもらった。
今日は来たばかりなので、マーカスはまずは執事預かりだ。来たばかりの使用人は、まず、この家で働くために清潔な身なりにし(体を清めたりね)、服が支給される。そして、この家で働くためのルールや、屋敷や使用人エリアの説明をされるのだ。
そして、昼食時などを使って他の使用人との顔合わせも大切だ。まあ、ほぼ完全に私付きになるので、他の使用人と異なる部分もあるけれど、うちの使用人になるのであれば、今日の半日強のセバス教育は必須なのである。
私は、午前中の魔法の訓練を終えたあと、マーカスに教えていく順番を考えていた。
まずは水。蒸留水作りを教えて、私が魔法の練習をしている午前中に、全ての基本である蒸留水を作っておいてもらうと効率がいい。
蒸留機なんて一般的には高価なガラス器具を、普通の平民の錬金術の店では、見習い一年かそこらの子供には多分触らせてはいないだろう。多分使い方を教えないとダメだろうな、と考える。
次に、畑を見ながら、畑の水やりはどうしようかなあ、とちょっと悩んで立ち止まった。
「デイジーどうしたの?悩み事?」
緑の妖精さんがふわんと私の肩にとまる。
「うーん、私の見習いの男の子に、一緒に働いてもらうことになったんだけれど、水やりを頼むかやめるかで悩んでいるの」
妖精さんを指先に乗せ変えながら相談する。妖精さんは私の指先に腰を下ろした。
「まあそうね、水やりも意外に難しいものね。やりすぎても根が腐るし、足りなければ萎れたり枯れるし……」
妖精さんも私の悩みに同感のようだった。一緒に考えてくれる。
「彼も、私のようにあなたたち妖精さんが見えるのなら、あなた達に指導してもらえて安心なんだけどな」
ふっと、私は思いついたことをぼやく。
「私たちが見習いくんを指導!?」
妖精さんは、そこにピキーンと来たようだ。手がワキワキしていて怖い。
「緑を大切に育てることができる人が増えることも、私たちには重大な問題だわ!任せて、デイジー!」
ん?だって、マーカスにはあなたたちが見えないんだよ?
「あなたたちが見えない人に、どうやって指導するの?」
「見えるようにすればいいのよ!」
そう言って、その妖精の女の子はぱっと消えてしまった。
夕方、セバスの初日教育を終えたマーカスが畑にやってきた。
「うわぁっ!なんか畑に緑の変なのがいる!」
そう叫んで腰を抜かし、地べたにおしりを着いてしまった。
あの女の子の妖精さんと精霊王様が素早い対応で、マーカスにも緑の妖精さんが見えるようにしてくれたようだ。仕事早いな……。
すると、悩み相談の相手をしてくれた女の子の妖精さんが、ふわりと飛んできて私の肩に止まる。心なしか、いい仕事をしたとばかりに、胸を張っているような気がする……。
「マーカス、安心して、この子達は緑の妖精さん。ここの畑を守ってくれているの」
マーカスの手を取って助け起こしながら説明する。
「あなたにはここの畑の水やりを、朝と夕方にお願いするわ。最初は加減がわからなくても大丈夫……」
「「「私たちがしっかり仕込んであげるから!」」」
妖精さん達が、マーカスの教育をする気マンマンで、私の言葉をさえぎった。
「まずは今日の夕方分の水やりよ!さあ、こっちに来て。じょうろを取りに行くわよ!」
妖精さん達はマーカスに寄ってたかって、連れ去ろうとする。
「デ、デイジー……」
マーカスには戸惑いと助けを求めるような視線を感じた。
……が。
「行ってらっしゃい、頑張ってね、マーカス!」
私は連れ去られるマーカスを笑顔で見送った。
……良かった!これで私の畑は安心だわ!
「ちょっと!じょうろからたれる水をぼたぼた畑に落とさない!」
「水撒きは、満遍なく優しくやるんだ!」
「植物自身に、鑑定で確認してどれくらい水が欲しいか聞くのよ!」
妖精さん、やる気満々ね!
にしても、結構色々詰め込まれている感じがする……。蒸留水作りのレクチャーは明日にしようかな。
私は、マーカスの今日の教育は妖精さんだけに任せることにした。
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