解説者のプロフィール
母の言葉をヒントに酢を使ってみる
私が黒ニンニクを作ろうと思ったのは、2012年の春先のことです。その何年か前に、隣町の企業が異業種参入して黒ニンニクの製造を始め、このあたりでもちょっとしたブームになりました。私も初めて黒ニンニクを食べましたが、ニンニクとは思えないおいしさでした。
その頃は、製造方法もわからず、素人には製造できないと思っていましたが、しばらくしてから黒ニンニクの作り方が巷で流布し、炊飯器で簡単に作れることがわかりました。わが家もニンニクを栽培しているので、黒ニンニクを作ってみようと思い立ちました。
とはいえ、作った人からは、ニンニクのにおいがきつく、鼻がひん曲がりそうだとか、郵便配達員さえもその家の前は顔をそむけて通るといった噂を聞いていました。インターネットで検索しても、においは避けて通れないようでした。
そんなときに思い出したのが、母の言葉でした。元気だった頃、母は口ぐせのように「ニンニクは酢に漬けるとにおいが抜ける」と言っていました。
そこで、一晩酢に漬けて作ってみることにしました。
使う炊飯器は、知り合いから譲り受けた不要品です。2週間連続して通電するので、安全面で不安があったため、私は寝室の枕元のコンセントに差し込んで、出来上がりを待つことにしました。
2週間、炊飯器を枕元に置いて作った
さて、問題のにおいです。普通はにおいを避けるために、黒ニンニクは居宅から離れた車庫や物置で作るのが定石だそうです。それを枕元で作るのですから、いくらおばあちゃんの知恵とはいえ、はたしてどれだけにおいが消えるか、半信半疑でした。
ところが、それほど心配することはありませんでした。黒ニンニクを作っている2週間の間、くさくて目が覚めたり、眠れないということはありませんでした。
においはまったくゼロというわけにはいきませんが、「鼻がひん曲がるほど」のにおいに比べたら、激減と言えると思います。
いっしょの部屋で寝ている家内からも、「くさい」という言葉は聞かれませんでした。家族の苦情もなく、においが部屋にこもることもなく、さすがに昔の人の知恵はたいしたものだと思いました。
しかし、においの感覚は人それぞれです。ですから、私のやり方で作っても「くさい」と感じる人はいるかもしれません。それでも、私のレシピで作った人たちから、「くさくて困った」という話は一度も聞いていません。
酢は黒ニンニク専用にして、継ぎ足しながら何回も使っています。また、うまみを増すために、私は塩こうじをまぶして黒ニンニクを作っています。
私のレシピで作る黒ニンニクは、塩こうじを使うせいか、まわりの皮まで真っ黒になります。この皮にもエキス(私は「養醇液」と呼んでます)がねっとりついているので、取っておいてお茶にして飲んでいます。黒ニンニクの皮茶です。フルーティな香りがほのかにします。
黒ニンニクは毎晩1〜2片食べます。毎年の健康診断も問題ありません。もともと健康な私ですが、さらに元気になったようです。
最初、黒ニンニクは枕元で作った(右隅にあるのが炊飯器)
高井式 黒ニンニクの作り方
[準備するもの]
◎炊飯器(5合炊き)
◎ニンニク(炊飯器に入る量)
◎酢(できれば米酢)適量
◎塩こうじ 適量
◎ビニール袋
※塩こうじは、都合がつかなければ使わなくてもかまわない
❶ニンニクは汚れた外皮だけを取り除く。
❷炊飯器の内釜にニンニクを入れ、ニンニクが隠れるくらい酢を注ぎ、24時間置く。(この浸した状態を24時間保持するので、酢は朝に入れるとよい)
❸翌朝、酢から取り出して、半日(曇天なら1日)天日に干す。(使い終えた酢は、また次回使うので、容器に入れて保存する)
❹ビニール袋に大さじ2杯の塩こうじを入れ、そこにニンニクを5〜7個ぐらい入れて、表面に塩こうじがまんべんなく付くように袋をよく振る。全量終わるまで繰り返す。
❺塩こうじをからめたニンニクを炊飯器に移して、隙間なく詰め、ふたをする。
❻保温スイッチを入れて、そのままの状態で2週間待つ。(仕上がり予定日を紙に書いてふたに貼っておくとよい)
❼2週間たったら完成。(表面のねばりが強い場合は天日で乾燥させるとよい)
食べ方・飲み方
・おいしいので食べすぎてしまいがちだが、食べるのは1日1〜2片。
・皮にも「養醇液」がついているので、熱湯を注いでお茶として飲む。
備考
・塩こうじを使わない方法も試しましたが、においに差はありませんでした。
・私の場合、保温スイッチを入れたら2週間はふたをあけないで作っています。
酵素の働きが弱くなりにおい物質が少なくなる(弘前医療福祉大学教授 佐々木甚一)
黒ニンニクを作るときに発生するにおいは、アリインというイオウ化合物が分解されて生じる、アリシンという香気成分が主体です。アリナーゼという酵素が働いて、アリインがアリシンに変化します。しかし、ニンニクを酢に一晩漬けると、酵素のアリナーゼの活性が弱くなるのではないでしょうか。酵素はたんぱく質でできており、たんぱく質は酸や熱に弱い性質があります。酢によってアリナーゼが壊れると、アリインがアリシンに変化せず、におい物質も生じなくなります。「酢に漬けるとニンニクのにおいが消える」といった先人の知恵は、経験則に基づくものです。昔の人の知恵はすごいものだと改めて思います。
黒ニンニクを持つ高井さん。これが5合炊きの炊飯器1回で仕上がった量