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「あなたは大丈夫?ドコモ口座を悪用した不正送金」(くらし☆解説)

三輪 誠司  解説委員

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NTTドコモの決済サービス「ドコモ口座」を悪用して、預金口座から相次いで金銭がだまし取られていたことが明らかになりました。今回の手口は、銀行口座を持っている人ならば、ネットバンキングを利用していなくても、誰でも被害にあう危険性があります。
また、すでに被害にあっているのに、気づいていないだけという人もいると思います。

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問題が大きく報じられたのは9月に入ってからでした。地方銀行の顧客が、自分の通帳を確認したところ、複数回にわたってあわせて30万円の現金が引き出され、ドコモ口座のサービスに入金されていたことがわかりました。ドコモ口座を利用したことがありませんし、NTTドコモの携帯電話も利用していなかったということです。

NTTドコモが調べたところ、同じような被害は11の銀行で、あわせて143回繰り返され、被害額は2600万円を超えていることがわかりました。(15日午前0時時点)

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ドコモ口座というのは、プリペイドカードのサービスに近いもので、まずは銀行口座からお金を入金します。月の限度額は30万円で、加盟しているネットショップなどで買い物ができます。今回、犯人は、被害者の銀行口座から勝手に金を引き出し、ドコモ口座に入金します。そして家電量販店やコンビニエンスストアの買い物に使ったと見られています。

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どうして、なりすましができたのか、まずは、顧客の口座の暗証番号などが盗まれていました。
どうして漏れたのかははっきりしていませんが、金融機関の偽サイトに誘導するという手口の可能性があります。見た目は金融機関の公式ホームページですが、そこに、口座番号・口座名義・暗証番号などを入力してしまい、犯人側に情報が盗まれたと考えられます。

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次に、銀行側のセキュリティーの甘さです。銀行によっては、キャッシュカードの暗証番号だけでなく、振り込み専用の別の暗証番号などを入力しなければドコモ口座に入金できないようにしていたところもあり、そうした銀行では被害がありませんでした。それと比べると、今回被害が発覚した銀行は、対策に甘さがあったということは否定できないと思います。

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ドコモにも大きな問題がありました。本人確認が不十分でした。ドコモ口座は、もともとはNTTドコモの携帯電話を利用していた人に限定したサービスでした。このため、本人確認は、携帯電話の回線契約をする際に免許証などの確認をするなど厳格に行われていました。

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しかし、去年の10月に方針を変更し、ドコモの利用者でなくてもサービスも使えるようにしました。この際、メールアドレスの登録で、口座の開設ができるようにしました。メールアドレスは、匿名でも複数作れますので、なりすましができるようになってしまったと言えます。

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電子決済サービスをめぐっては、IT関連企業やコンビニエンスストアなどが、スマートフォンなどを使った手軽な決済サービスを相次いで発表しています。いわば乱立状態で、各社、顧客を獲得するために手軽さを追求している状態です。そうした中で、今回の被害が発生してしまったということは間違いありません。
ドコモは、安全性に不備があったとして、金融機関と連携して、全額を補償することにしています。

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しかし、問題はドコモ口座だけで済まない事態になっています。15日、他の会社が提供する5つの電子決済サービスでも、同じような被害が発生していることが明らかになりました。一連の被害は、どこまで広がっているのか、全貌が明らかになっていません。このため、銀行口座をお持ちの方は、どの銀行であっても、すぐに口座を確認し、知らないうちに金が引き出されていないかを確認してください。自分は大丈夫と思わないでください。また、決済サービスをしている会社も、ドコモ口座と同じようなセキュリティー上の不備がないかどうか、確認してもらいたいと思います。顧客でもない、無関係の人が被害を受ける危険性があるからです。

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利用者ができる対策は、非常に少ないのですが、まずは金融機関の暗証番号などをネット上に安易に入力しないようにすることです。中でも「金融機関をかたる偽のショートメッセージに注意してください。

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今、「あなたの口座が不正アクセスを受け、一時的に閉鎖しました」という文面が多くなっています。メッセージに書かれたホームページにアクセスするように促して、だまし取ろうとする手口ですが、そもそも、金融機関は、そのような重要なお知らせをショートメッセージで送ることはありません。無視してください。

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また、自分の口座の残高を少なくとも1月に1回は確認してください。もし、身に覚えがない引き出しがあったとき、すぐに自分の利用する金融機関に届け出てください。
予防というより、被害を受けた後の対応になりますが、金融機関が設けている補償制度を利用することができます。金融機関によって30日、60日など、違いがあるものの、届け出るまでの一定期間の被害を補償してくれます。

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その時、重要なのは、届けた日時、担当者の名前と対応内容を記録しておくことです。今回のドコモ口座のケースでも実際にあったのですが、新しい手口のため金融機関の方も何が起きたのかが理解できず、電子決済サービスの方に問い合わせてほしいとか、警察に行ってくれなどと、たらい回しされるおそれもあります。記録しておけば、自分が期限内に被害を届け出たことが証明できます。

電子決済サービスはいろいろなものがありますが、安全なものかどうかは利用者からはわかりません。何よりもサービスを提供する会社や、金融機関側に万全な対策を求めたいと思いますが、私たちも、誰もが被害にあう危険性があるという心構えで対策をしていく必要があると思います。

(三輪 誠司 解説委員)

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「異常気象に新型コロナ クマに要注意」(くらし☆解説)

名越 章浩  解説委員

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ことしも各地でクマの目撃や被害が相次いでいます。名越章浩解説委員がお伝えします。

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【主なクマの出没・被害】
日本には、本州以南に生息しているツキノワグマと、北海道にしかいないヒグマの2種類のクマが生息しています。ことしも各地で被害が確認されています。

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先月29日には、秋田県で自転車で帰宅途中の男子高校生が前から向かってきたクマにすれ違いざまに左ひざをひっかかれ軽いけがをしました。
群馬県では、川で釣りをしていた男性2人がクマに襲われ、けが。
鳥取県では、80代の男性が、水路の掃除中に足をかまれてけがをしたということです。

【ツキノワグマの出没・目撃件数】

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環境省がまとめているツキノワグマの出没・目撃件数を見てみましょう。
2016年度は死者も出て、全国的にクマの目撃や被害がとびぬけて多かった年でしたが、昨年度はそれをさらに上回り、統計が公表されて以降、最も多くなっていました。
今年度は、まだ7月末現在のデータまでしか公表されていませんので(9月14日現在)、少なく見えますが、クマは、これからの季節、冬眠前の秋に出没が増えるので、今年は今後、例年以上に増える地域が出てくることが心配されています。
特に、岩手県では、クマに襲われてけがをした人の数が、過去5年間で最も多いペースとなっています。

【クマの目撃件数が多いのはなぜ?】
では、クマの目撃件数が多いのはどうしてなのでしょうか。

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もともと、山奥で暮らすクマと、人間社会との間には「里山」があって、そこが緩衝地帯となっていましたが、過疎化などの影響で今は里山がどんどん荒廃していますので、それによってクマの活動範囲が広がり、目撃情報が増えているという根本的な問題があります。またクマの頭数そのものが増えて、生息域が広がっていると考えられている地域もあります。
しかし、今年は、別の事情も加わっているのではないかと考えられているのです。
それが、異常気象と、新型コロナウイルスの影響です。

【異常気象と新型コロナウイルスの影響?】

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まず、ことしの冬は暖冬でした。
本来、ツキノワグマは、餌の少ない12月から3月、4月ごろまで冬眠をします。
ところが今年は、東北地方や北陸地方で、1月、2月の真冬の時期でもクマの目撃がありました。NGOの日本クマネットワークの副代表で、東京農工大学の小池伸介准教授は、「暖冬のため、冬眠できなかったり、目が覚めてしまったりしたクマが人里に迷い込んできたと考えられる」と話しています。

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そして春。ここで新型コロナウイルスの影響が出てきます。
4月、5月は外出自粛で、人々が活動を抑えました。このため、人があまり存在しない、あるいはあまり活発でないということで、クマが活動範囲を広げてきたと考えられます。小池准教授は「クマが静かな状況に慣れて、だんだん大胆になって、人間との距離が縮まってしまったと考えられる」と話しています。
そのあと、自粛が終わり、再び人間が活動するようになったので、目撃情報が増えている可能性があるということです。
つまり、クマ社会と人間社会が一度接近したことで、それまでのバランスが変わってしまい、この時期に目撃件数が増えた可能性があるというのです。

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そして、ことしは6月以降、梅雨が長引き、日照不足となりました。
このため、小池准教授は「この時期に餌となるキイチゴやサクラの果実、それにアリなどを、十分、食べられず、人里に降りてきた可能性がある」と話しています。

【秋はドングリの生育状況が心配 出没が増えるか】

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さらに8月は各地で猛暑となりました。
その猛暑と、それまでの長雨の影響により、今年の秋のドングリの生育に影響を及ぼす可能性が心配されています。
ドングリは、クマにとって相当重要な餌です。
というのも、クマはこれからの数か月で、冬眠中に必要なエネルギーを一気に摂取しなくてはいけません。そのため、昼夜問わず、ドングリを食べるのです。
小池准教授によると、1頭が1日に5000粒から6000粒のドングリを食べるそうです。
そのドングリが生育不良となると、餌を求めて人里へやってくる機会が増える可能性があるのです。

【私たちにできること】
では、私たちはどうすれば良いでしょうか。
まずは、そもそもクマが出そうな場所には近づかないことが重要です。

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それでも山のレジャーなどに出かける場合は、鈴やラジオを鳴らし、定期的に大きい声を出すなど音を出してください。クマは臆病な動物ですから、人間の存在を知らせてあげて欲しいのです。
そして、出かける先のクマの出没情報を事前にチェックしておきましょう。

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そして、もしクマに遭遇してしまったら、そのときは落ち着いて、背中を見せないようにして後ずさりをしてクマとの距離をとりましょう。背中を見せて逃げるとクマは追いかけてくる習性があります。しかも、足が速いので、すぐに追いつかれます。

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また、住宅地にあらわれるケースもあります。
このため私たちが、クマを誘い込むような状況を作らない工夫が必要です。
例えば、人里の中に柿や栗の木があると、餌を求めてクマがそこへ定着する可能性が高まります。
栗や柿の木などは早めに収穫するとか、放置されている木の場合は、今のうちに伐採しておくなどの工夫が必要です。
また、外出自粛で家庭のゴミが増えていると思いますが、山に近い地域では、生ゴミなどの臭いのする食べ物を外に置いておかないなど、クマを誘い込まないようにしましょう。

【クマの生態を正しく理解し正しく恐れましょう】
忘れてはないのは、クマは、生態系の重要な一員だということです。
クマは、木の実を食べてフンと一緒に種を排出します。行動範囲の広いクマは、森の木々の種を運び、自然を豊かにしてくれる、大切な役割を担っている貴重な存在なのです。
人間の都合だけを最優先するのではなく、人間の側がクマとの無用な遭遇を避ける工夫をするだけでも、お互いが傷つかずにすみます。
クマの生態を正しく理解し、正しく恐れることが重要だと思います。

(名越 章浩 解説委員)

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