# ビジネス # 人間関係

元CIAが明かす、スパイが極秘情報を得るために使う「意外な手口」

知人に近づく、現金を使う…
佐藤 優 プロフィール

インテリジェンス・オフィサーには、「奢るのは好きだが奢られるのは嫌い」という文化がある。極力、他人に借りを作らないようにすることが情報収集や工作活動を円滑に進める上で重要だからだ。

高級レストランでご馳走されることに慣れた協力者は、プレゼントを受け取るようになる。さらにプレゼントを貰うことに慣れるとキャッシュを受け取るようになる。こういう手法で協力者を蜘蛛の網に絡め取っていくのがヒュミント専門家の手法だ。

キャッシュ払いの利点は、相手に心理的負担感をさりげなく植え付け、工作の土壌を作ることだけではない。

クレジットカードやツケ払いだと文書やデータに痕跡が残る。飛び込みでレストランに入ってキャッシュで支払えば、痕跡がつきにくい。こういう点からもインテリジェンス・オフィサーはキャッシュ払いを好む。

インテリジェンス・オフィサーにとって人脈の拡大はそれほど難しい仕事ではない。面倒なのは、不要になった情報源や協力者を整理することだ。

協力者にはもう価値がないと判断した場合、その関係は「完了」する。つまり離別をするわけだが、その際は細心の注意を払って対処する。相手の感情も考慮し、慎重を期すのだ。

なにしろ協力者は「あなたの情報にはもう、こちらが報酬をだすだけの価値がない。よって、関係を完了する」と明言されるのだから。当然、そうなれば協力者が激昂し、諜報員の正体を暴露するおそれもある。このように、引き継ぎは深刻な問題を引き起こしかねない〉。

 

情報源や協力者と信頼関係を構築しないとよい情報は取れないし、工作活動もうまくいかない。だからインテリジェンス・オフィサーは、情報源や協力者と無二の親友になった振りをするのがうまい。

しかし、腹の中では、「この人間を切るときにどういう手法を用いればよいか」ということを考えている。不要になっても直ちに関係を切らずに徐々に接触回数を減らしていくというのが、よく取られる手法だ。

もはや役に立たない情報源や協力者と会うのは苦痛だが、そういう素振りを見せないのがヒュミントのプロだ。

『週刊現代』2020年8月8日・15日号より