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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT2

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19話 やれやれって言いながら出てくるルールでもあんの!?

 夜霧たちは、巨樹から触丸で作ったグライダーで滑空した。

 それで飛べるところまで飛んで、森の中に着地する。

 かなり進めたはずだが、それでもまだ巨樹で作られた六角形の中心までは距離があるようだった。


「やれやれ。めんどくさいし、働きたくなんてないんだけどね」


 しばらく進むと、そんなことを言いながら少年があらわれた。


「ですが、神様からの依頼ともなれば無下にするわけにもいかないよ」

「そうなのです! 目についた者を片っ端から殺してしまう極悪人なのです! ヒロアキが倒さないと被害は広まるばかりなのです!」

「こんなやついつものようにさっさと倒しなさいよね!」


 少女を三人連れていた。

 夜霧を極悪人と呼んでいるので、使徒なのだろう。神とやらは、夜霧のことをそのように伝えているらしい。


「一応聞いとくけど、どうやってここに?」

「ああ。僕はどこにでも転移できるからね。どこにだって行けるよ。ま、僕も暇じゃないからね。とっとと済ませて、帰って昼飯にでもするよ」


 少女たちが慌てて離れていく。

 そして、ヒロアキという名らしい少年の体が強烈な輝きを放った。

 あまりのまぶしさに夜霧は目を覆った。

 その輝きは攻撃ではないのだろう。殺意を感じないし、ただまばゆいだけのようだ。

 光がおさまると、ヒロアキの体は黄金の鎧に包まれていた。

 とにかく派手だった。


「さてと。この鎧をまとった以上、即死攻撃なんて通じないわけだけど」


 次の瞬間、ヒロアキの姿が消えた。


「なに? 強いって聞いたから期待してたんだけど、今の瞬間だけでも百回は軽く殺せてるよ」


 その声は背後から聞こえてきた。

 振り向くと、ヒロアキがそこに立っている。

 期待外れだと言わんばかりに、見下すように夜霧を見ていた。


「そんなこと言われてもな。壇ノ浦さんでも追えないような動きを俺に見切れるわけもないし」


 夜霧は身体能力に秀でているわけでもないので、この異世界に適応している輩の動きになどついていけるわけもなかった。


「拍子抜けだよ。こんな程度なら、僕が手を下すまでもないな」

「言われ放題だよ、高遠くん!」

「いや、でもどうにもできないし」


 少年の姿がまた消えた。

 また後ろかと振り向くと、少しばかり距離を取っている。


「こい!」


 少年が叫ぶ。

 すると天から爆音が轟いた。

 夜霧は空を見上げた。

 樹冠で覆われているのではっきりとはわからないが、そこに威圧感を放つ何かがいる。

 それは、木々をへし折りながら下りてきた。


「ロボだな!」

「うむ。宇宙世紀系の奴だな」


 巨大ロボットだった。

 ビームライフルとビームソードを装備した非現実的なロボットが、夜霧たちを見下ろしているのだ。


「日本人なら懐かしいよね。こいつで殺してあげるよ」


 少年の言葉に従ったのか、ロボットはライフルを夜霧たちに向けた。


「死ね」


 ロボットが、音を立てて倒れた。


「な!」

「あんたも死ね」


 ヒロアキは倒れた。

 転移できるなら、帝都にでも連れていってもらえるかと少しは思ったのだが、殺意を向けられては殺すしかない。


「へ?」

「え?」

「は?」


 少女たちはあんぐりと口を開けていた。


「あんたらはどうするんだ?」

「ちょっと? ヒロアキ? なにふざけてるの?」

「そうなのです! 悪ふざけがすぎるのです!」

「さっさと起きなさいよ!」


 少女たちは、倒れた少年にすがり揺さぶる。

 死んだとは思っていないようだった。


「じゃ、行こうか」

「この人ら、ほっといていいの!?」

「いきなりやってきた人たちのことまで知らないよ」

「絡まれても面倒だろうしな」


 夜霧たちは先へと進んだ。

 この森は危険だが、わざわざやってくるぐらいなのだから対応できる力ぐらいあるのだろう。

 なかったとしても、夜霧が面倒を見なければならない話でもない。


「やれやれ……こんな老いぼれを担ぎだすとは、神とやらも人使いが荒いのぉ」


 次は老人があらわれた。

 くたびれたローブをまとい、節くれ立った杖を持つその姿は、老魔法使いといった趣だ。


「死ね」

「問答無用すぎるな!」

「仕方ないだろ? いきなり殺そうとしてくるんだから」

「この人、何者なのか、何ができるひとなのか全くわからなかったんだけど!」


 倒れた老人も使徒だったのだろう。

 死のうが敵わなかろうが、とにかく夜霧のもとに送り込むという方針らしい。


「さすがにこの調子でこられると鬱陶しいな」

「神様に目を付けられるとこんなことになるのか……」

「直接来てくれれば決着を付けるんだけど」


 さすがに使徒がやってくるだけでは、神とやらにまで力は届かなかった。

 余所への迷惑を顧みない方法であれば、対応はできなくもないが、無関係のものまで死にかねない。

 この程度のことで、そこまではできなかった。


「まあ、屍を乗り越えてすすむしかないな!」


 もこもこが触丸で森を切り開き、無理やり進んでいく。

 このあたりは空間がねじ曲がっていることはなく、順調に目的地である建物群へと近づいているようだ。


「やれやれ。漆黒の魔女と呼ばれた私が、こんな程度のことで呼び出されるとはな」

「この人たち、やれやれって言いながら出てくるルールでもあんの!?」


 自ら漆黒と名乗るように、その女は黒いドレスを着ていた。長く美しい髪も、その名に恥じない髪色だ。

 先ほどの老人とは違い手には何も持っていない。

 身ひとつでやってきたようだ。


「一応聞くけどなんの用? さっきから連続で鬱陶しいんだけど」

「お前を殺せと言われてな」

「人に言われたからって、そのまま唯唯諾諾と従うのってどうかと思うよ?」

「確かにな。私にはお前を殺さねばならない理由も特にはない」

「だったらやめとかない?」

「そうだな。そうしよう」


 そう言って、漆黒の魔女は姿を消した。


「あ、あれ? なんだかんだ言いつつも、結局は負けるはずはないと自信たっぷりに襲ってきて返り討ちにされるパターンかと思ったんだけど!」

「なんだったんだろうな?」

「どこかに隠れひそんでおるとか?」


 三人できょろきょろとあたりを見回したが、気配は感じない。

 少なくとも、殺意を感じることはなかったので、夜霧を殺すつもりはないようだった。


  *****


「なんなのあれ! むっちゃこわかったんだけど!」


 漆黒の魔女。彷徨の次元使い。世界渡りの麗人。神殺しの咎人。全能の異邦人。時空の支配者。

 様々な異名を持つミランダは、自らが作り出した亜空間に逃げ込み、膝を抱えて震えていた。

 あれを見た瞬間に、それだけで奈落の底に突き落とされた気分になった。

 死そのものが、人の形をして立っている。

 どれほどの偶然と奇跡が重なればあんなものが生じるのか。

 いくつもの世界の開闢と終焉を見届けてきたミランダにとっても、それは想像を絶する存在だった。

 どうにか尊大な振る舞いを続けたのは、ただの意地だ。

 少しでも気を抜けば、その場で己の魂魄を粉みじんに砕き、自死を遂げていただろう。

 永遠の暗黒すら生ぬるい、真の意味での消滅に比べればはるかにましだった。


「だったらやめとかない?」


 そう言われた時、ミランダは心の底から安堵した。助かったと思った。

 あれがその気になれば、どこに逃げようと無駄なのだ。

 あれと対峙して助かる方法はただ一つ。あれの慈悲にすがるしかない。命乞いをし、許されるしかないのだ。

 あれに人の意思があることが、唯一の救いだろう。

 あれがただの死の渦動であるなら、無差別に、無軌道に、世界を飲みつくし、すべてを終わらせているはずだった。

 あれに認識されてしまったという懸念はあるが、一旦は逃れられたのだからそれでよしとする他はないだろう。

 少し落ち着いてきたところで、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 高遠夜霧に対してのものではない。あんなものに立ち向かわせようとした、何もわかっていないこの世界の神とやらにだ。

 何も理解せずにへらへらと笑いながら、虎の尾を踏もうとしている。

 地雷原で目をつぶりながら、踊っているのだ。

 こんなことを続けていては、いつ逆鱗に触れるかわからない。

 死にたいなら勝手にすればいいが、そんな自殺行為に巻き込まれてはたまったものではなかった。


「くそったれ」


 むしゃくしゃした気分を何かにぶつけるべく、ミランダは立ち上がった。


  *****


『日本の料理を取り寄せる能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『手先が器用になる能力が、タカトーヨギリに敗れました』


「結局、ただ強いぐらいのことでは、敵わないんでござるよねぇ……」


 ヒロアキは日本からやってきた少年だ。どこで手に入れたのかはわからないが、イメージしたものを自由に作り出す能力を持っていた。

 イメージしたものを作れるので、どこかで見たような鎧やらロボットを作り出しイメージ通りの強さを発揮させることができるのだ。

 そこらの適当な者に力を与えても夜霧には敵いそうにないので、元々強い者を使徒にしようという作戦だった。

 使徒にするにあたってヒロアキに望み通りの能力を与えたのだが、それが日本の料理を取り寄せるというものだ。

 なんでも、うまく味をイメージできないのか、ヒロアキの能力では美味しい料理を作り出せないらしい。彼が異世界に来て不満だったのが料理についてだったので渡りに船だったようだ。

 もう一人の敗れた老人はウグルズという名で、災禍の魔人と呼ばれているらしい。

 その圧倒的な魔力で一つの国の民を死滅させ、すべてをアンデッドとして操っただとか、どこかの島を消し飛ばしたとか、炎の海に沈めたとか、永久氷壁に閉じ込めたなどの物騒な逸話のある人物で、最近はどこかの山奥で隠居していたとのことだった。

 そんな彼が、欲したのは手先が器用になる能力で、それで孫のためにぬいぐるみを作りたかったらしい。


「そーいや、ミランダ様はどうしたのでござるかね」


 漆黒の魔女ミランダ。

 彼女も、元から強い存在だ。

 高遠夜霧を倒すための能力を与えようとしたのだが特に必要な能力はないと言い、代わりに成功報酬としてある人物の居場所を知りたいと提案してきた。

 マルナリルナに問い合わせたところそれでよいとのことだったので、夜霧のところへと向かわせたのだ。


「あ、能力を与えていないから、負けたとしてもいつものアナウンスはないのですかね」

「お前いつもぶつくさ言ってんな。気持ちわりぃ」


 玉座に座るヨシフミが言った。

 花川がいるのは相変わらず神輿の上、玉座の隣だった。

 花川は常に独り言を言っているので、内容までは気にされていないらしい。


「ところでさっきから進んでいないようなのですが?」

「ああ。担いでる奴隷どもが全滅したようだな」

「あほなんですか、あんたは! こんなとこまで神輿できたらそーなるに決まってるでござるよ!」

「うっせぇな! こんなよわっちいとは思わねぇだろ!」

「腰布一枚の男ども。しかも神輿を担いだ状態なんて襲われ放題でござる! 何か対策があると思うでしょうが!」


 エルフの森までやってきたのはいいが、神輿を担ぐ奴隷たちが全滅したのだ。

 この森に蔓延る蟲どもに食われたとのことだった。


「おい、シゲト。どうすりゃいい?」

「歩くしかないですね。この森は空間がループしているので、一定の順路をすすまないと堂々巡りになります。その点は気を付ける必要がありますが、順路は預言書でわかっています」


 重人は素直なものだった。

 怜による支配は、ヨシフミへの忠誠を強制するものではないはずだが、もう諦めたのかもしれない。

 賢者に敗れた形ではあるが、このまま忠誠を誓っていればそれなりに快適に生きていける可能性もある。

 少なくとも、賢者の脅威に怯えて逃げ隠れしながら暮らすよりははるかにましな状況ではあるだろう。


「歩きかよ。めんどくせーな」


 そうは言うものの、偉そうにしていたところで事態が改善しないことぐらいはわかっているのだろう。

 ヨシフミは渋々ながらも玉座から立ち上がり、神輿から飛び降りた。


「まあ、歩きが面倒くさいのは拙者もでござるが」


 花川は段を下りようとした。

 目の前に黒衣の麗人、ミランダが立っていた。


「え?」


 あまりに唐突で、花川は茫然自失になった。

 ミランダの片手が伸び、ぶよっとした花川の首をつかんだ。


「ちょっ! ちょっと待つでござる!? といいますか、拙者の正体とか居場所とかわからんはずなのでは!?」


 花川は夢の中でミランダに会っていた。

 いつものごとく美少女化していたので、花川と同一人物だとはわからないはずだった。


「なめられたものだな。局所的なものではあるが私は全知全能だ。お前にたどり着くぐらいのこと造作もない」

「な、なんなのでござるか! 全知だとか言うなら、拙者がただの使い走りだというぐらいわかるでしょうが!」

「ああ。だからこれはとりあえず手を出してもなんの問題もない貴様への八つ当たりだ」


 ゆっくりと力がこめられる。

 その細腕からは信じられないほどの膂力であり、花川が振りほどこうと力をこめて掴んだところでびくともしなかった。


「なんだ、てめぇ!」


 大地に下り立ったヨシフミが、ミランダの凶行に気づいた。


「た、助けてでござる!」


 藁にもすがる思いで、花川はヨシフミに助けを求めた。

 笑いながら見捨てられる可能性もあるが、今はそれぐらいしか打開策を見出せない。

 だが、ヨシフミは動かなかった。


「あ、あれ? 今の雰囲気なら、俺の道化になにしやがる! とか言って飛びかかってきてくれそうかと思ったのですが!?」

「この世界の賢者とまともにやりあうと面倒だからな。時間を止めた」


 言われてみれば、すべてが停止していた。

 ヨシフミも、動こうとはしたのだろう。だが、少し飛び上がったところで固まってしまっている。


「ひ、ひいいいい! な、なんで拙者ごときにここまで!? というか八つ当たりってなんでござるか! だったらもっと手応えのあるのにやつあたってはくださらんか!」

「ただ鬱憤をはらすだけのことだが、無関係の者を嬲るなどあまりに不粋だろうが。せめて少しでも関係のありそうな輩に苛立ちをぶつけたいという乙女心がわからんのか?」

「拙者のごとき、弱者を嬲るのも不粋でござる!」


 ミランダの力は、ますます強まるばかりだった。


 ――し、死んでしまうでござる!


 回復魔法を使い続けているが、意識が遠のきそうになっていく。

 このまま気を失えば、二度と目覚めることはないのだろう。


 ――どうにかしないと……。


 先ほどまでの会話になにか助かる手がかりはないかと必死に考える。

 そもそも、ミランダは何に憤っているのか?

 生きているのだから、まだ夜霧とは戦っていないはずで、怒る理由がない。


 ――もしかして、もう会いにいったとか?


 そして何もできずに逃げ帰ってきた。

 そのことに苛立っているのだとすれば、ミランダは夜霧の脅威を知っていることになる。


 ――であれば……。


 花川に残された時間は僅かで、様々な手を試している余裕はない。

 一つ間違えれば終わりだが、もう賭けに出るしかなかった。


「せ……拙者、高遠殿と友達なんでござるよね!」

「なに?」


 花川の首を絞める力が緩む。

 これ幸いと、花川はミランダの手を振りほどき、尻餅をついた。

 切羽詰まったあげくに見出した策は、とりあえずの効果を発揮したようだ。


「げほっ……拙者を殺してしまうと高遠殿も悲しむでしょうなぁ!」

「友達、なぁ?」


 ミランダの眼差しは疑いに満ちていた。


「ほ、ほんとでござるよ!」

「……友達に対する態度とはとてもおもえんな? しかし殺されていないということは……」


 ミランダがあらぬ方向を見ている。

 全知だと言うぐらいなのだから、花川と夜霧の経緯(いきさつ)を確認しているのかもしれなかった。


「す、少なくとも同じクラスなのは間違いないでござるよ! ほら! 全知でわかるのなら確認するでござる! 友達でなかったとしても、クラスメイトが死ねば嫌な気分にぐらいはなるのでは!? 高遠殿の気分を害したくないのなら、拙者は殺すべきではないでござるよ!」

「まあ、いいだろう」


 ミランダの威圧感が消えた。

 花川は、助かったと胸をなで下ろした。


「しかしこうなるとマルナリルナとやらをギャフンと言わせねばおさまりがつかぬな」

「そ、それはどうにかなるのですかね?」

「相手が、この世界を牛耳る正統な神だからな。さすがに一筋縄ではいかないが、まあ、それはお前には関係のない話だ」


 そう言い残して、ミランダが消えた。


「ああ!? あの黒い女はどこいったんだよ!」


 今さらやってきたヨシフミが言う。時は、再び動き出したようだ。


「さ、さあ? 拙者にも何がなんだか……」


 花川にしても、わけがわからない出来事だった。

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