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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT2

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18話 焼くなよ、エルフの森を! どんな悪者だよ!?

 夜霧たちは巨大樹の上から全方位を確認した。

 どちらの方向にも果てしなく森が続いていた。

 エルフの森は、西エントの南側にある。

 森の南側には海があるはずなのだが、どこにも海は見当たらなかった。


「森しかないな……」

「これ、出られるのかな?」

「マーヌさんは偵察に行った人がいるって言ってたから、出入りはできるんじゃない。多分」

「多分か……絶望的な光景に見えるけどね」

「しかし、どうにかするしかあるまい。とりあえずは次の目的地をどうするかだが」


 この光景から何かを見出すしかない。

 夜霧はあたりを観察した。

 確かに木々ばかりの光景ではあるが、ここと同じぐらいの巨樹が他にもそびえ立っていた。

 数えてみれば五本。

 ここと合わせれば、エルフの森には六本の巨樹があるようだ。


「これって……六角形になってる?」

「ふむ。言われてみればな。この巨大な樹は明らかに他とは様子が異なるし、位置関係からすると何か目的があるのやもしれんな。ベタなところではあるが、六芒星を形作っておるというところか? なんらかの儀式的なものに必要なのかもしれん」

「となると、真ん中あたりになにか……あるね」


 巨樹が形作る六角形の中心部。

 そこに、木々のない領域があり、石造りの建物が並んでいる。

 灰色で階段状に見えるそれらはピラミッドのようにも見えた。


「ふむ……ティオティワカンのような所だな」

「街、かな? ということはエルフが住んでる?」

「壇ノ浦さんのイメージするエルフって、自然と調和し、自然を愛する森の妖精みたいなのじゃなかったの?」


 石造りの建物に住むのはイメージとかけ離れているのではと夜霧は思った。


「石も自然の一部じゃないかな!」

「随分と妥協してきたね」

「ふむ。さすがに森が無限に続くというのはおかしいとよく見てみれば同じような場所がところどころに見えるの」

「ということは?」

「つまり、あそこと、あそこは同一地点なのやもしれん。空間をねじ曲げて広いように見せてはおるが、実質はそれほど広くはないのかもしれぬ」


 槐が指差す先を見る。

 確かに、同じように見えた。

 森は、いくつかのパターンでモザイク状になっているのだ。


「迷いの森的なやつかな。決まったルートで行ったり来たりして、抜け出せば正解チャイムがなるみたいな」

「かもしれんが、その正解をどう見抜けばよいのか」


 空間がねじまがっているとしても、その構造は複雑だ。ここから見ているだけではとても把握できそうにはなかった。


「とりあえず真ん中に行ってみる?」


 ざっと見ただけではあるが、樹木で囲まれた地域に重複したパターンはないようだ。

 同じようなパターンが出てくるのは、六角形の外側なのだ。


「六角形の外側が迷いの森だとしたら、ここまでこられたのは、森が腐って更地になったからかな?」


 更地になった場所からは巨樹がはっきりと見えていた。見えている巨樹にまっすぐに向かうことでここまでやってこられたのだ。


「確かにの。空間が曲がっておるなら、ここにくること自体がむずかしいということになる。森がなければできぬ術なのやもしれぬ」

「ということは、最終手段としては、エルフの森を焼き尽くすってのもあるか」

「焼くなよ、エルフの森を! どんな悪者だよ!?」


 知千佳は反対のようだった。


「ま、とりあえずは石造りの建物ぐらいしかめぼしいものはみあたらないし、行ってみるか」


 森全体の空間を殺すという手もあるが、それは本当の最終手段だろう。

 影響が読めないので、できればやりたくはないと夜霧は思っていた。


  *****


 虫除けの香に、導きの鈴。

 それが、エルフの森を正しく進むためのものであり、王家に伝わる宝物だった。

 もっとも、それらはエルフの襲撃まで防ぐものではない。

 この森に、全てを打開するための伝説的な宝剣があると知りながらも入手できなかったのは、エルフによる妨害があったからだ。

 この森の中においてエルフの脅威は圧倒的なものだった。

 全てがエルフにとって優位な環境の中をただの人間が進むのは至難の業だったのだ。

 だが、今のところはエルフからの妨害はない。いつもなら森に入るとすぐにあらわれるはずのエルフがやってこないのだ。

 そのため、王族とその臣下団は比較的順調に森の中を進んでいた。

 森の手前で集合し、そろって森へと入ったのだ。

 導きの鈴は、エルフの森にある数少ない道を示すことができ、目的地である遺跡まで導いてくれる道具だ。

 三十名からなる大所帯であっても、問題なく移動することができた。

 先頭を導きの鈴を持ったマーヌが歩き、その後ろに王族のものたちが。左右と背後を臣下が固めている。

 長丁場も予想されるので、物資も大量に運んでいた。


「なんだ。これなら楽勝じゃない」


 ビビアンが拍子抜けしたように言った。

 エルフは襲ってこないし、蟲も近づいてはこない。

 異常気象ともいえる気温も、結界により防ぐことができていた。


「油断するな、ビビアン。今まではここまで来られなかったということを忘れるな」


 注意するのは第一王子のエドワードだ。


「お兄様。なぜ私たちがこんなところへこなくてはならないのです! 見つかったのはビビアンだけでしょう?」


 不満を漏らしたのは第一王女のマチルダだった。


「森を行くためのアイテムは一組しかない。置いていかれてもよかったのか?」


 マチルダに問うのは第二王子のジョセフ。


「お前がぼーっと待ってるうちに俺らが国を取り返したら、復興後にお前の居場所はないだろうな」


 嫌味交じりに言うのは、第三王子のジェームズだった。

 ちなみにビビアンは第二王女であり末子である。

 この五名が王家の血筋を残す者たちだった。

 それぞれは、西エントの各地に潜伏していたのだ。


「ま、何が来たって私の盾が全て防いであげるから!」

「なんだって、この子にマルナリルナ神の加護が与えられたのかしら……」


 マチルダは、不審な顔でビビアンを見ていた。

 盾についてはビビアンが実演をしたので知っているのだ。

 五人の中で一番役立たずと思われていたビビアンだが、加護によりそれなりの立ち位置を得ていた。

 もっとも高遠夜霧を倒すために使徒になったとは言っていなかった。現状のビビアンたちの目的とはかけ離れすぎていて、話が複雑になるからだ。


「ついたぞ」


 森が途切れ、石畳が広がっていた。

 そこには、階段状に石材を積み上げた建築物が立ち並んでいる。

 ここが、目的地である遺跡だ。

 王家の始まりの地であるとも噂されているが、千年以上前のことであり確かなことはわかっていない。

 だが、ここに来ることのできる宝物が王家に残されているのだから、全く無関係ということはないだろう。

 皆で石畳へと足を踏み入れる。

 少し、空気が変わったようだった。

 ここまでの森のなかは高温多湿だったが、そこには乾いた風が吹いていたのだ。

 ぞろぞろと列をなして、遺跡群の中を進んでいく。


「目的のものはどこに?」

「導きの鈴はまだ前方を示しているようだな。おそらくは一番大きなあの建物だろう」


 ジェームズの問いに、エドワードが答えた。

 今歩いているのがこの遺跡の大通りなのだろう。そこを真っ直ぐにいくと、巨大な三角形型の建物が見える。

 この遺跡がなんのためにあるのかはわからないが、その建物が中心的な存在なのは間違いないだろう。


「いったん、どこかに拠点を作ったほうがいいのではないかしら? このまま向かうんですか?」


 マチルダが聞く。


「そうだな。状態のよさそうな建物でも探してみるか」


 ここまでは歩きづめだ。

 一旦休憩を取るのもいいだろうと、エドワードは隊列を停止させた。

 轟音が巻き起こった。


「へ?」


 ビビアンは、間抜けな声をあげた。

 横合いから何かを食らったらしい。

 わけがわからない。気がつけば、吹っ飛ばされて建物に激突して倒れていた。

 無傷ではあるが、完全に油断していたのでふんばることもできなかったのだ。


「なにが……」


 石造りの巨人が立っていた。

 先ほどまで建物のあった場所に、それはいる。

 どうやら、それに蹴り飛ばされたようだ。


「みんなは……」


 大半が死んでいた。

 元近衛兵などの戦闘要員は反応できたようだが、荷運びや、結界術などを担当していた非戦闘員はかわすも耐えるもできなかったようだ。


「敵だ! 建物が動きだした!」


 ビビアンの臣下であるゲイルが叫ぶ。


「ゲイルはなんで私をほったらかしなの!?」


 ゲイルは、マチルダを抱えて飛び下がっていた。

 他の王族もそれぞれが部下に守られたらしい。


「あんたは、無敵なんだろうが! それぐらい自分でなんとかおし!」


 マーヌも生きていた。

 確かにビビアンはかすり傷ひとつなく痛みもまるでないのだが、扱いがぞんざいすぎて釈然としなかった。


「うわっ!」


 ビビアンがぶつかった建物も動き始めた。

 慌てて皆のもとへ駆け寄ったが、周囲は石巨人だらけになりつつある。


「し、死んだ人を生き返らせないと!」


 シールドリザレクションがあると思いだしたビビアンだが、死体はあちこちに吹き飛ばされていて、しかも原形をとどめてはいなかった。

 シールドリザレクションの光はそう遠くまでは届かないし、バラバラになった人間まで蘇生できるのかがわからない。


「馬鹿! 逃げるんだよ!」


 マーヌがやってきて、ビビアンの手を掴む。

 ゲイルは、石巨人を抑えようと剣を振るっているが、天位の剣技はまるで通用していなかった。

 ただの石塊なら簡単に切り刻むはずの剣閃が、あっさりとはじき返されているのだ。

 石巨人が、攻撃をものともせずに殺到してきた。

 ビビアンは、マーヌの手を振り払い飛び出した。


「カウンターシールド!」


 盾を構えて突進する。

 石巨人はひっくり返った。

 攻撃を跳ね返したのだ。

 だが、石巨人は倒れただけであって、再び起き上がろうとしている。


「ブーメランチェーンソーシールド!」


 生み出した盾を次々に投げつける。

 だが、チェーンソーの刃は石を砕くことはなかった。どれほど頑丈なのか、傷一つついていないのだ。


「撤退だ! 一旦森まで下がるぞ!」


 エドワードが叫ぶ。

 皆が一目散に逃げ出し、ビビアンもその後に続いた。

 石畳を抜け、森へとたどり着く。

 石巨人たちは、追ってこなかった。

 ある程度の距離を取ると、再び建物のような形態へと戻ったのだ。


「……生き残ったのはこれだけか……」


 エドワードが苦渋に満ちた声で言う。

 王族の五名は全員生きていたが、その身を守るために部下たちのほとんどは犠牲になったのだ。


「ちくしょう! なんなんだよ、あれは! こんなの聞いてないぞ!」

「遺跡の門番というところか……」

「あんなのどうするっていうの!?」

「あ、私だけならなんとかなるかも? 攻撃はきかないんだし、冷静になって落ち着いて進んでいけば」

「一人でどうにかなるのかい?」


 マーヌが呆れたように言う。

 ビビアンは、まるで信頼されていなかった。


「俺も行こう。回避に専念すれば進むことはできるはずだ」


 ゲイルが言う。

 どうせ攻撃は通用しないなら、そんな手もあるだろう。


「一人で行かせるよりはましかね」

「いえ、それはよくないのでは? 世界剣の封印を解いたものが、剣の主になるとのこと。ビビアンに全てを決する切り札を持たせることになるわよ」


 マチルダが言う。

 わざわざ生き残りの王族全員でやってきたのは、世界剣にたどり着くには王家の血筋が必要との伝承によるものだった。

 ビビアンなどを連れてきたのは、万が一のための保険でしかない。

 誰も、宝剣をビビアンに任せたくはないのだ。


「しかしこうなってはな」

「ビビアンが加護を与えられたのは、こんな場合のための神の思し召しかもしれない」

「他に手はないか……」


 兄三人は消極的ながらも、ビビアンに任せるしかないと思っているようだった。


「とにかく一旦休憩しようじゃないか」


 マーヌが言う。全力で逃げてきた後だ。

 今すぐ行動を起こせる状態でもないだろう。


「私は大して疲れてないけど――」


 ゲイルはどうだろうか。

 そう聞こうとして、ビビアンは固まった。

 ゲイルの首が落ちているところだった。


「え?」


 続けて、エドワード、ジョセフ、ジェームズの首が落ちる。

 それらが、ゲイルと違ったのは、地面に落下することなく消え去ったことだ。

 ゲイルの首が落ちた音を聞き、ビビアンはマチルダをかばうように前にでた。

 剣がビビアンの首筋に叩きつけられた。

 目の前に立っているのは見知らぬ女で、ビビアンに攻撃が通じないと悟ると一気に飛び下がった。

 その手には、兄三人の首があった。頭髪をまとめてつかんでいるのだ。


「あ、あんた、いったい……」

「使徒のあなたを殺すのは難しそうだったので、簡単に殺せるチャンスが巡ってこないかとつけていたんですが、一気に人数が減ったのでいい頃合いかなと。では私はこれで。王族の首が三つもあれば一財産かと思うのですよね」


 そう言って、女は森の中に消えた。


「いやぁぁあ! お兄様ぁ!」


 呆然としていたマチルダが、今さら悲鳴をあげた。

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