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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT2

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17話 そんな程度のことで、この事態を見逃しちゃっていいわけ!?

 エルフの森で初めての野営をした翌朝。

 出発の準備を整えた夜霧たちは、あらためて進行方向を確認していた。


『うむ。森から少し頭を出すぐらいならどうにかなるな。ランドマークとなるようなものがないかと見てみたのだが、ひときわ高い巨大な樹がいくつかある。それを目指せば、そこまでは辿り着けるだろう』


 霊体のもこもこが上空から下りてきた。

 エルフの森は霊体には厳しい環境とのことだが、行けるところまで試してみることにしたのだ。


「それさ。どういうことなの? 私から離れるとそんなに危ないわけ?」

『うむ。本来、霊体など非常に危ういものだ。放っておけば拡散してしまうわけで、この世に留まるには気合いが必要なのだ』

「幽霊って気合なんだ」

『悪意やら執着やら怨念やら呼び方は様々だがな。我の場合は、壇ノ浦家の守護霊としてのアイデンティティでもって現世に留まっておるわけだ。なので、お主から離れ過ぎると、我はなんで成仏しないで、こんなところにおるのか? と思ってしまうのだな。通常ならある程度離れたところでさほど問題はないが、この森は魔力やらが濃く、混沌としておる。離れ過ぎるとお主を見失ってしまうというわけだ』


 そう言ったもこもこは槐の中に入った。

 遠隔でも操れるが、重なった方が楽らしい。


「そんなに高い樹ってあったかな?」


 夜霧は、この森にくるまでのことを思い出したが、そこまで高い樹を道中で見かけた記憶はなかった。

 目立つほどに高いなら、森の外からでも見えるのではと思ったのだ。


「そのあたりもこの森特有の環境であろうな。どうやら半分ほど異界的な領域にあるような気がする。外からでは森の内部を窺えぬようだ」

「そういうもんなのか」

「そんなわけわかんないとこに無策で突っ込んだ私らって」

「闇雲にすすみすぎたからな。今日は慎重にいこう」

「うん。昨日は暑苦しくて、わけわかんなくなってたからね……」


 何が襲ってきても大丈夫だという油断もあり、適当に進みすぎたのだろう。

 どこかで立ち止まって考えるべきだったと夜霧も反省していた。


「そういや、夜のあいだにも使徒っぽいのが来てたみたいだ」

「全然気付かなかったけど?」

「遠距離からみたいだ。だから話を聞くとかはできなかった」


 殺意があったので自動的に反応しただけであり、何者がやってきたのかはわからずじまいだった。

 触丸で作ったテントは生半可な攻撃は通さない。

 なので、殺意を感じたということは、テントを貫いて夜霧に危害を加える可能性があったということで、そこらの野生動物ではないのだろう。


「話ができる奴が来てくれたらいいんだけど」

「それなんだけどさ。話のわかるエルフとかいないかな?」

「え? うん。いたらいいね」


 夜霧は、生暖かい笑顔を見せた。


「何その反応。いるかもしれないじゃない」

「エルフがいたとしても、とりあえず襲ってきそう。そうなったら殺すしかないんだけど」

「ちょっと様子みてみようよ。殺さずに制圧できるか私が試してみるとかさ。弓対決ならまかせて!」

「こんな環境で暮らす民族が、弓を主武器に採用するとも思えぬのだが」


 知千佳はなぜか、エルフが弓を使うのだと思い込んでいた。

 しかし、この森はあまりに見通しが悪く射線が通る場所がほとんどない。

 ここで弓を射るのが難しいのは、素人の夜霧にでもわかることだった。


「だったら魔法を使ってくるのかな。エルフだし」

「その可能性の方が高そうだな。空間に満ちる魔力のようなものが濃いので、通常よりも威力が出ることだろう」

「魔法もなんだかよくわかんない現象だけどね」


 この世界にきてから、魔法は何度も目撃している。

 だが、魔法の流派、規模、威力、発動方法など人によって違うため、魔法とはなんなのかが夜霧にはいまいちわからないのだ。


「とにかく出発しよう!」


 時折、もこもこが森の上に出て、目的地である大樹との位置関係を調べる。

 その情報をもとに、進行方向を調整して進んでいった。

 暑さに関しても最初から覚悟をしていればある程度はなんとかなるし、休憩を多く取ることで対応できる。

 どこに向かっているのかがそもそもわかっていないという点を除けば、昨日よりも旅は順調に進んでいった。


「ふむ。何かいるようだ」


 もこもこの操る槐が立ち止まった。


「殺意は感じないけど」

「こちらに向かってきているな」


 言われてみれば、森の枝葉や藪がこすれるような音が近づいてくるようだった。


「おーい。誰かいる?」


 夜霧は大声で呼びかけてみた。

 返事はない。

 聞こえてくるのはうめき声のような音だった。


「人間……かな?」

「ぽいけどね」


 待ち構えていると、人の姿があらわれた。

 冒険者なのか、革鎧を身につけている。

 肌は紫色で、体は歪だった。

 体のさまざまな部分が膨らんで、とても動きにくそうだ。

 人なのかもしれないが、ここまで変形してしまうと男女の区別もつかない。


「うう……ああああ……」


 そのうめき声には知性を感じることができなかった。


「なにこれ? またゾンビ!?」


 夜霧たちを襲いにきたわけでもないようで、冒険者らしき者はすぐに倒れてしまった。

 その体は今も変形を続けていて、歩くこともままならなくなったのだろう。


「え? これどうしたらいいの? 手当てとかする?」

「手遅れ感がすごくするな」

「正直、近づきたくはないんだけど」


 そして、倒れた何者かの体は破裂した。

 体の膨らんでいた部分が、次々に弾けたのだ。


「これは……何かまずいぞ!」


 それは、膿疱のようなものだったのだろう。

 弾けて、中に詰まっていた膿のごときものをまき散らしたのだ。


「壇ノ浦さん。俺のそばに」

「これって」

「わからないけど、致死性の何かだ」


 飛び散った何かに触れた草木が、急速に変色し、膨れ上がっていく。


「病原菌の類かな」

「大丈夫なの!?」

「俺たちに害をなすものは自動的に殺すから大丈夫。けど、これほっといたらまずいよな」


 それは、生物であれば何にでも感染していくのだろう。

 木々は次々に崩壊し、飛んでいた鳥や虫もはじけ飛ぶ。

 それらは、さらなる何かをまき散らし、それがさらに周囲へと広がっていく。

 冒険者から始まったそれは、次第に加速しているようだった。


「どうすんの、これ!?」

「病原菌みたいなのを殺そうかとおもったけど、これはこれで都合がよくないかな?」

「なんで!?」

「森が滅びれば歩きやすい」

「え? そんな程度のことで、この事態を見逃しちゃっていいわけ!?」


 夜霧も障害となる樹木などを殺すことはできるし、それにより壊しやすくはなるが、死骸は残るため障害物を除去するには向いていない。

 だが、この何かは、生き物を原型が留めないほどに分解してしまうのだ。

 道を作るという観点でなら夜霧の力よりも優れていると言えるだろう。


「これが使徒の仕業なら、どこまでやるつもりかな? まさか世界を滅ぼすつもりはないと思いたいけど」


 木々が倒れ、崩れ、森は更地になっていく。

 数百メートル四方がなにもない空間になり、遠くに人の姿が見えた。


「使徒かな? どうにかして拘束したいもんだけど」

「ふむ。やってみるか」


 槐の右手から触丸が伸び、地面に落ちている小石を拾い上げる。

 石を掴んだまま触丸は伸びていき、それはさながら右手が延長したような有様だ。


「うりゃ!」


 そして投げた。

 数メートルにも伸びた腕で投げたのだ。ただの石であってもかなりの威力になるのだろう。


「ぎゃっ!」


 命中し、人影は倒れた。


「って! まったくなんの関係もない人だったらどうすんの!?」

「その時は謝ろう」

「それでいいのか」


 融解し、ぐずぐずになった生物で埋め尽くされた大地を歩き、夜霧たちは何者かのもとへたどり着いた。

 小石は足に命中したようで、男は足を押さえて苦しそうにしている。


「あんたは、使徒か?」


 夜霧は男のそばに近づいた。


「お、おまえ……なんで死なないんだよ……」

「俺を狙ってたってことは使徒だな。どうやってここまで来たんだ? 帰り方はわかる?」

「……」

「俺が高遠夜霧だってことと、俺の力は知ってるんだよな? 言わないなら殺すけど?」

「言えば殺さないのか?」

「もう手出ししてこないならね」

「……使徒には、タカトーヨギリの近くに転移する力が与えられてるんだ。それで来た。帰り方は知らない」

「なんだよそれ……」


 さらに面倒くさいことになっていた。

 こんな森の中だというのに頻繁に狙われるのも妙だと夜霧は思っていたのだが、転移で簡単にやってきていたのだ。


「俺を殺せないのはわかっただろ。あの攻撃を止めないと森がなくなりそうだけど、止めないの?」

「ああ、止め――」


 殺気を感じた夜霧は、飛び下がった。

 男の姿が消えた。

 先ほどまで夜霧と男がいた場所に、穴があいていた。

 直径一メートルほどの、綺麗にくり抜かれたような穴がそこに出現していたのだ。


「なに? どうしたの!?」

「なんだろ。穴を開ける能力? 別の使徒もいるみたいだな」


 こんな調子でやってくるなら、いちいち使徒に話を聞いても無駄のようだった。


  *****


『殺戮ウイルスの能力が、タカトーヨギリに敗れました』

『任意の地点に落とし穴を作る能力が、タカトーヨギリに敗れました』


「ふむ……やはりだめでござるか」


 殺戮ウイルスの能力はその名の通り感染すると死んでしまうウイルスを作成する能力だ。

 副次的能力として、作成者には効かない。感染者が死ぬまでの間は操れる。自分を中心に1キロ範囲内のウイルスを非活性状態にできるなどがある。

 ウイルスを作成するだけであれば、夜霧に直接殺意を向けていないので、有効かと考えられた能力だ。

 花川のアドバイスを元に考えられた能力ではあったが、ウイルスがそもそも通用しないのでは意味がなかった。

 落とし穴に関しては、穴をつくるだけであれば殺意を察知されないかと思って作られた能力だ。

 最初の攻撃は避けられたので、落とし穴でも殺意ということになるらしい。

 二度目は、直径1キロの巨大落とし穴で落下死を狙ったようだが、発動前に殺された。

 つまり、夜霧が確実に死ぬであろう攻撃の場合は、発動すらできないのだ。


「これ、やっぱ無理ゲーだと思うのでござるよね……マルナリルナ様も遊んでないで直接手を下せばいいかと思うのですが……」


 だが、プライドか何かは知らないが、自ら出張るつもりはないという。

 結局のところ、そこまで本気でもないのだろう。

 神などという絶対的な存在が、暇つぶしに人間を駒にして遊んでいるだけなのだ。


「なにブツブツ言ってんだ?」

「なんでもないでごさるよ!」


 ヨシフミと臣下たちは、金銀宝石で彩られた豪華な乗り物に乗っていた。

 それは階段状の構造をしていて、最上段に特等席とばかりに、ヨシフミの玉座がある。

 その下の段に、臣下たちの席が用意されていた。

 花川に席は用意されておらず、ヨシフミの玉座の隣に立っていた。


 ――まるでひな飾りのようでござるな。


 だが、ヨシフミはこれを神輿として作ったのだろう。

 なぜなら、この乗り物の動力は人間だからだ。

 大勢の人間が、下部でこの乗り物を支えていた。

 無駄に重い神輿を人間が担いで運んでいるのだ。


「しかし、これって移動効率がすこぶる悪いのでは?」


 神輿は、帝都の大通りをゆっくりと動いていた。

 こんな調子では、エルフの森に辿り着くまでにかなりの時間がかかることだろう。


「効率なんぞ求めたら、なんでもすぐに終わっちまうだろうがよ。人生には余裕が必要だとは思えねぇのか?」

「そーいえば、冒険者の酒場にはお忍びで行っていたのでござるよね? こんな派手に顔をさらしてしまって問題ないのでござろうか?」


 顔を知られているならお忍びで街に出かけるなど意味がない。知っていても知らないフリをしろというなら、茶番もここに極まれりだ。


「ねーよ? そこらのやつが、皇帝としての俺の顔を見たら死刑だからな」

「え? はあ、なるほどでござるな」


 通りにいる人々は全員が平伏していた。

 誰もこちらを見てはいないのだ。


 ――いやいやいや! 自分で堂々と出てきておいて、見たら死刑ってなんなんでござるか!


 神も賢者も圧倒的な力を背景にやりたい放題。

 こんな異世界転移などなにも楽しくはないと、今更ながらに花川は思った。


  *****


 数キロ四方にわたって、森は更地になっていた。

 見晴らしは随分とよくなったが、この程度では森が全滅とはいかないらしい。

 能力者が死ねば森の消失は止まるかと思ったが、いつまで経っても止まる様子はなかったので、夜霧が対処した。


「でかすぎだろ!」


 見通しがよくなったおかげで、目的地である大樹の姿が夜霧にも見えるようになった。

 他の森の木々とは比較にならないほどにそれは大きかった。

 比較対象がないのでよくわからないが、それでも数キロメートルはありそうな、常軌を逸した大きさなのは間違いないだろう。


「まあ、行きやすくはなったね」


 これで迷う要素はない。

 そこからは特に使徒が襲ってくることもなく、夜霧たちは大樹のもとにたどり着いた。


「けど、これは……なんなんだろ。妙に寂しげというか」

「うむ。でかい割には存在感が希薄だな」

「死んでるな。これも俺が殺したんだと思う」

「なんで!?」

「これもイゼルダだな。まとめて殺したときに対象になったみたいだ」

「これ、植物だよね? いつからあいつイゼルダやってたわけ?」


 異世界の樹木の成長速度はわからないが、これほどの大きさに育つにはかなりの年月がかかることだろう。数百年かかったとしてもおかしくはなかった。


「では、これを登ってみるか。この上からなら遠くまで見通せることだろうて」

「外から中が見えないなら、中から外が見えるかが不安だけどね」

「そんな心配よりもさ。まずは登れるかどうかじゃない?」

「さすがにこれをひょいひょい登れる気はしないな」


 樹皮はかなりでこぼことしているので、掴む場所ならいくらでもある。

 だが、この巨大な樹木を登りきるのは難しいだろう。

 少々登れたところで、体力が続かないはずだ。


「どうしたもんだろうね」

「仕方ないの。我が背負っていくしかあるまい」

「あ、結局、情けない絵面になるんだね」

「何を言っておる。お主もまとめて背負って連れていくぞ? その方が早いだろうが」


 槐の体からぞわりと黒い影が伸びた。

 それは幾本もの巨大な爪となって大地を穿ち、槐の体を宙に浮かせる。

 その姿はまるで、巨大な蜘蛛のようだった。


「どゆこと、それ!?」

「うむ。乗るがいい」


 槐が背を向ける。そこには踏み台のようなものが用意されていた。そこに足を乗せて掴まれということらしい。


「じゃあ」


 夜霧が槐の背につかまる。知千佳も少し躊躇したあとに台に乗った。


「ではいくぞ」


 触丸でできた爪が大樹に食い込み、体を上へと押し上げる。

 幾本もの爪が樹皮に突き刺さり、這うように樹上へと登っていった。


「案外、速いね。こんなんできるんだったら、普段から使えばいいのに」

「こうガシャガシャ動かすとエネルギーを食うのでな。常時使用はできぬわ。いざというときに使えぬでは困るだろうが」


 しばらく登りつづけると、大きな枝が幾本も広がっていた。

 あたりをみるだけならそこからでも十分だろう。

 夜霧たちは、巨大な枝の上に下りた。


「これは……参ったね」

「うむ。異界であるかもとは言ったが……」


 明らかにおかしな景色がそこには広がっていた。

 そこから見る森は、どこまでも果てしなく続いていたのだ。

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