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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT2

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14話 花川大門美少女バージョン!?

「これは夢でござるよね! だったら、抱きついてペロペロしようがなんの問題もないはずでござるよ!」


 花川は、マルナとリルナと名乗った二人に抱きつくべく飛びついた。

 夢の中だからなのか、ふわりと浮き上がる。

 だが、届きはしなかった。

 かなりの距離を飛んだはずなのに、落下して何かに顔面からぶつかったのだ。

 全てが白い空間だが、床のようなものは存在しているらしい。

 花川も、マルナリルナも、同じ面に立っているのだ。

 見上げてみたが、二人までの距離はまったく変わっていなかった。


「あれ? 拙者のレベル99のスペックをもってしても届かないとはどういうことでござるか?」


 だが、レベル99とはいえ花川の身体能力はたいしたことはなかった。

 後方支援系術者のステータスは、肉弾戦には向いていないのだ。


「夢だからねー」

「夢だけどこっちの思うがままだからねー」

「で、なんのようでござるか?」


 これが夢だとしても神が見せているというなら、なんらかの意図があるのだろう。


「タカトーヨギリって知ってるよね?」

「高遠夜霧、でござるか。知ってはおりますが……」


 花川の今の境遇は夜霧に関わったためとも言えるだろう。

 その恐ろしさは骨身に染みているので、関わりたくないというのが本心だった。


「いま、刺客をおくってるんだよー」

「使徒を向かわせてるんだよー」

「いやぁ、あれに何を向かわせても無駄でしょうが。あれは無茶苦茶すぎるでござるよ」

「うん。今のところやられっぱなし」

「勝てるかなって能力をあげたんだけどねー」

「ほほう? ちなみにどのような」

「なんでも切れる刀の能力とか」

「これねー。空間を切るとか、概念を切るとかもできるんだけどー」

「大陸破壊能力とか」

「さすがに世界が壊れるとかは困るけど、島とか大陸一つぐらいならいいかなーって」

「でも、だめだったんだよねー」

「そりゃそうでしょうな。すんごい攻撃ってだけでは無意味でござる」


 夜霧の能力が恐ろしいのは、敵が即死するからではない。

 即死だけなら、他にやりようもあるからだ。

 真に恐ろしいのは、殺意を感知し、事前に対応してくることだった。

 どれほどの超攻撃力だろうと、発動前に潰されるのだ。


「神様なら、どうにかできんのでござるか?」

「できるよ」

「できるんでござるか!?」

「うん。だって、神様だもん。当然、下位存在に対する強制力は持ってるよ。それこそ、こんなやつ死んじゃえって思ったら、そいつ死んじゃうよ?」

「でしたら、そうすればいいのでは?」


 夜霧が死んでくれるのは、花川にとっても望ましいことだった。

 またどこかでばったり出会ってしまうかもしれないし、いつ殺されるかわかったものではないからだ。

なので、誰かが勝手にやってくれるのなら大歓迎ではある。


「でもねー。できるからって、そうするかは話が別で」

「そこまでしたら、こっちが負けたみたいな気分になるじゃない?」

「子供がむかつくこと言ってきたからって、殺しちゃったら、非難されるでしょ?」

「神の間で馬鹿にされちゃうしねー」

「そーゆーもんなんでござるかね」

「で、力を与えて使徒にしてタカトーヨギリを殺そう! って話なんだけど」

「私らが考えた能力がどうもいまいちで、面白くないから」

「いっそのこと、みんな自分で考えてくれないかな、って思ったとこなんだー」

「あの……その流れだと、拙者に高遠に立ち向かえという話のように聞こえるんでござるが……」

「そーだよー?」

「いーやーでーござーるー!」


 花川は即座にその場から逃げ出そうとした。

 背を向けて駆け出したのだ。

 だが、所詮は神に制御された夢の中だ。

 真っ白な空間のどこにも逃げ場などない。

 疲れ果てて振り向いたところで、マルナリルナとの距離はまったく変わってはいなかった。


「無理ですって! 拙者のようなぱんぴーではあれはどうにもならんのですから! なんだって拙者なのですか! 他にいくらでもいるでしょうが!」

「んー? なんか知り合いっぽいし?」

「あいつは、知り合いだとかそんなんで容赦する奴ではないのでござるよ!」


 花川は、クラスメイトをあっさりと殺す夜霧を見ている。

 知り合いだというぐらいのことで、手加減したりはしないだろう。


「タカトーヨギリの能力を見たことあるみたいだし?」

「いろいろくだらないこと知ってそうだし?」

「オタクってやつなんでしょ? あれが強いとか、これはあれに勝てるとか言い合ったりしてるんでしょ?」

「勘弁してくださいでござる! なんでも好きな能力もらえるとかならいくらでもやりたい人はいるでしょうが!」


 神から好きな能力をもらえる。

 それは確かに魅力的ではあるだろう。

 だが、それを使って夜霧と戦えと言われると話は別だ。


「んー? いやなのはいいけど、やるっていうまでこのままだよ?」

「眠りっぱなしだよ?」

「ちょっ! それは困るでござるよ! せっかく帝国幹部の方々の居場所がわかる地図を手に入れたというのに!」

「私たちが飽きて夢を解除すれば出られるけど」

「神スケールで我慢比べでもする? 百年でも千年でも余裕だけど?」

「うう……どうあっても拙者にやらせたいんでござるか……」


 対応が穏やかで恐くないというのは、これまでに出会った理不尽な輩に比べれば多少ましではある。

 だが、マルナリルナが絶対者であることには変わりなく、花川に選択の余地などあるわけもなかった。


「やらせていただくでござる……」

「よしっ!」

「やったね!」

「じゃあ、また呼ぶから」

「それまでに能力を考えといてね」


 唐突に、部屋の天井が見えた。

 夢から覚めたようだった。


「ふむ。考えようによっては悪くはないかもでござる。能力をもらっても、わざわざ高遠に会わなくてもいいのではないですかね?」


 基本的なルールはなぜか頭に入っていた。


 ・夜霧が死ねば使徒の能力は失われる。ただし、夜霧を殺した者には褒美として能力が残される。

 ・夜霧のいる方角、距離のわかる基本能力が与えられる。

 ・使徒を殺せば、その使徒の能力を得られる。


 使徒は他にもたくさんいるのだろう。

 ならば、他のやる気のある奴らに任せておいても問題はないはずだ。


「棚ぼたで得られた能力がどうなろうとかまわんでござるしね。それでしたら、その能力のあるうちに何か残しておけるような能力がいいかもしれませんな」


 たとえば創造系の能力。

 作ったものがそのまま残るなら、たくさん作って保存しておけばいい。


「ま、誰かやる気のある奴がやってくれるでござろう」


 せっかく得た力を失いたくないという奴らは多いだろう。

 そんなやる気に満ちあふれた神の使徒が、頑張ってくれるはず。

 そう考えた花川だったが、何かひっかかりを覚えた。


「……ん? これって、みんなで高遠夜霧を放っておけば、能力をいつまでも使い放題なのでは?」

「あ! 言われてみればそうだね!」

「うわああぁ!」


 花川は突然の声に驚いてベッドから転げ落ちた。

 マルナとリルナが、すぐ傍に立っていた。


「みんな神のお告げだ! ってことでやる気満々だったから気にしてなかったけど」

「戦わなくてもいいや! って思う人もいるかもしれないね」

「花川みたいにね!」

「な、なんでいきなりあらわれるのですか! こんなことできるならさっきの夢はなんのために!」

「演出?」

「夢枕に立つって神様っぽい?」


 やはり彼女らは神であり、なんでもありということなのだろう。


「あんまりだらだらされるのも困るし、制限つけようか」

「どーしよーか?」

「誰か一日一回は挑むとか?」

「挑まなかったら全員死ぬとか?」

「あのー。たとえばでござるが、今から拙者が高遠を倒しにいくとしてですね。一日では辿り着けもしないかと思うのですが」


 そもそもどこにいるかもわかっていない。

 距離と方角がなんとなくわかる能力だけではどうにもならないと思われた。


「じゃあ、一回だけタカトーヨギリの近くまで転移できるようにしてあげるよ」

「ううう……至れり尽くせりで、外堀がどんどん埋められていくでござる……」


 余計なことを言わなければ。

 そう思う花川だったが、相手が神ならば心まで読むのかもしれない。

 結局、こうなる運命だったのかもしれなかった。


「でね。能力は考えてもらうとして、花川には他の人たちへのアドバイスもしてもらいたいなーって」

「どういうことでござる?」

「さっきの私たちみたいなやつ」

「人の夢の中に出て、どんな能力がいいか相談に乗ってあげてほしいの。自分の能力を考える参考にもなるよ?」

「その、ですね。自分でこんなことを言うのもどうかとは思うのでござるが、拙者のようなものが夢にでてきたところで誰得という状態かと思うのでござるよ」


 神が力を与えるというせっかくの舞台に花川がでてきては台無しだろう。


「大丈夫。まかせて!」

「いい感じの姿にしてあげるから!」

「えーいっ!」


 マルナとリルナが、気の抜けた声と共に両手を突き出す。

 そこからキラキラと光があふれてきて花川に降り注いだ。


「……なにか変わったでござるか? って声が?」


 妙に甲高くなっていた。

 慌てて鏡で自分の姿を確認する。

 そこには、少女が立っていた。どこかマルナリルナに似た姿の、可愛らしい女の子だ。


「それで、夢に出てもらうね!」

「こ、これは、花川大門美少女バージョン!? にしては、ほとんど元の面影がないのですが!」

「だって、元の要素残したらキモイんだもん」

「ですよねー!」


 だが花川は、それほど悪い気はしていなかった。


  *****


『一日に一回以上タカトーヨギリに挑む者がいない場合、使徒は全員死亡します』

『一度限り、タカトーヨギリの近くに転移できる能力を配布しました』


  *****


「チェーンソーシールドブーメラン!」


 行って戻ってくるチェーンソーシールドが、モヒカンの男を三人まとめて切り裂いた。

 ビビアンは戻ってきたシールドを掴み取る。

 さすがにもう慣れたものだった。

 背後では、マーヌがモーニングスターを振り回して、同じくモヒカンで柄の悪い男たちを叩き潰している。

 もう一人、黒い全身甲冑を着込んだ男は、遠くにいる敵を剣も抜かずに一方的に切り刻んでいた。

 この三人に、荷車を引いている小太りの男を加えた四人が、カダンの街にいた王家の残党である。

 街ぐるみで王家の残党をかくまってはいたが、王家の関連人物はこんな程度のものだった。

 だが、それはカダンの街だけのことであり、逃げ延びた王族はビビアンだけではない。

 王族は西エントの各地に分散して隠れていて、再起の時を待っていたのだ。


「……片付いたね」


 楽勝ではあったが、マーヌの声は沈んだものだった。


「仕方があるまい。王国の民とはいえ、もう話など通用しないからな」


 黒甲冑を着た男が言う。元近衛騎士のゲイル。黒騎士と呼ばれ恐れられた男だった。

 剣聖に師事したことがあり、天剣の位階を持っている。

 その化け物じみた剣術は、常人では視認することもできない。


「ビビアン様。あまり荷車から離れないでもらえますか。これでは結界になんの意味も……」


 荷車を引く小太りの男、結界術士のニコラスが苦言を呈した。

 ビビアンの気配をごまかすために、荷車を中心に結界を展開しているのだ。


「今さらでしょ? もうばれちゃってるんだから。ばーっといって、さっさとエルフの森までいけばいいのよ」

「ビビアン様。敵がこないにこしたことはありません」


 ゲイルもビビアンが戦うことをよく思っていないようだった。


「ビビアン! おとなしくしとけって言ってるでしょうが!」

「うう……なんでマーヌおばさんだけ呼び捨て……もう街人のふりとか必要ないのに……」

「今さら、あんたをビビアン様だなんてよべないね! だいたい敵をひきよせてどうするってんだ!」


 モヒカン頭の柄の悪い男たちは、元々は王国の民だった。

 この西エントでは、元王国民は二つに分けられた。

 一般市民とならず者だ。

 一般市民は農業をし、商売をし、冒険者の手助けをする。

 ならず者は一般市民を襲い、冒険者に殺される。

 帝国はそんな役割を西エントの者たちに課していた。

 ならず者となった者たちは人から奪う事でしか生きていくことができなくなっているが、それでも元は同じ国で暮らしていた者たちだ。

 殺さずにすむなら、そうしたいというのが一般的な感覚だろう。


「あ、お告げが!」

「ごまかそうったってそうはいかないよ」

「ほんとだって……え? タカトーヨギリに挑まないと死ぬ? なにそれ!」


 またもやルールが付け加えられたようだった。


「急ぎましょう。集合時刻に間に合わないと置いていかれますよ」


 エルフの森に異変が起こった。

 これを好機とみて、各地の残党が一斉に集まり、エルフの森を攻略することになったのだ。

 王族の気配をごまかしたところで、大勢がエルフの森に向かっているとわかれば帝国に怪しまれるだろう。

 なので、もう後戻りはできない状態だった。


「えぇ! 目指せ世界剣オメガブレイドよ!」

「なに、不用意に口にだしてんだい! アホ! ほんとアホ!」

「誰も聞いてないのに……」


 ビビアンは涙目になっていた。

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