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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT2

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13話 ここはベタではありますが女神が登場する場面でござるよ!

「いやぁ、しかし他人の土下座を見下ろすというのは実に気持ちのいいものでござるな!」


 花川は、重人の土下座を見下ろしていた。

 腕を組み、ふんぞり返るようにして、椅子に座るその態度は横柄そのものだ。

 ここは、民家の一室だった。

 誰も住んでいないようで、重人はここを拠点にしているようだ。


「これまでは悪かった。謝るから玲を助けるのに協力してくれ」


 この国に一緒にやってきたクラスメイトは、目の前で土下座をしている三田寺重人。レナに殺されたという丸藤彰伸。レナに連れ去られたという九嶋玲の三人だ。

 花川はこの三人に散々な目にあわされてきた。

 彼らから解放された今、玲を助ける義理はまるでないと言えるだろう。

 現状が幸せかというと微妙なところではあるが、余計なことをしてとりあえずの平穏をぶち壊すのは惜しいところだった。


「うーん、まだ、誠意が足りん気がするでござるなぁ? 土下座してる割には偉そうなのが気に障るでござるよ。頭は下げても結局は拙者を見下してるのでござろう?」

「てめぇ……」

「ほらぁ。すぐそうやって化けの皮が剥がれるでござるよ。拙者を下に見ているから、なんでこんな奴に俺が頭を下げなきゃならねーんだ? 俺様がせっかく土下座してやってるんだ。お前はそれに感謝してさっさと協力的になれ。みたいな本音がだだ漏れるのでござる」

「ぐっ……」


 図星だったのだろう。重人は言葉に詰まった。


「拙者は、三田寺殿たちのこれまでの行いを忘れてはおらんでござるよぉ? 裸で敵につっこまされたり? ドラゴンの糞尿の中からアイテムを探せだとか? あれって結局意味なかったでござるよねぇ」

「……それは……悪かったよ……謝るから……」

「なんかそーゆー、謝ったんだからもう許せよ! みたいな態度が気にいらんでござるねぇ? なんですか? 許せない拙者が狭量だとでもおっしゃりたいのでござるか?」

「さっき、助けてやっただろ!」

「へぇ? それでちゃらにしろと? 随分と安っぽい謝罪ですなぁ」

「……お前、いい加減にしろよ……下手にでればつけ上がりやがって……」

「預言書だったでござるか? あの信用ならない攻略本みたいな? あれはラグナ殿とか、丸藤殿みたいに戦闘力のある能力ではないでござるよね? 怖い顔したって、なんにも怖くないのでござるよ」


 重人の能力は直接的には戦闘に利用することはできない。

 だが、預言書に記された情報を利用すれば、様々なアイテムを効率よく取得することができる。普通なら入手できないような強力な武器防具を重人は持っているのだ。

 なのでそれらを駆使したうえでの戦闘力はそこそこはあると言えるだろう。

 普通なら花川は重人に敵わない。だが花川は重人をそれほど怖れてはいなかった。


「それとも拙者に暴力をふるってみるでござるか? 拙者は別にいいでござるけどぉ? けど、クエストが発生したら困るのはそちらでござるよね?」


 エント帝国の全ては、四天王のアビーによって監視下にある。

 もっとも、事細かに全てを見ているわけではない。

 国内で発生した、ある一定以上の閾値のできごとを拾い上げているのだ。

 それによりトラブルを検知し、それに応じたクエストを作成して冒険者に解決させている。

 皇帝直々に宮廷道化に命じられた花川も当然監視下にあった。

 花川の一挙手一投足を全て監視するようなものではないが、花川が死ぬようなことがあれば察知されるだろう。

 ちなみに、花川が帝都の外に出たかどうかもこの監視網によって判断される。


「拙者に接触するのは危険だとわかっているはずですのに、こうしてやってくるということは余程切羽詰まっているのでござるかねぇ?」

「……頼むよ……お前の立場を揺るがすような真似はしないから……」

「うーんんん、どうしたもんでござるかねぇ?」


 ――三田寺殿が拙者に媚びへつらうのを見るのは面白いですが……かと言って協力となると……。


 玲はレナの管理下にある。それを助ける手助けをすれば、花川の地位も危うくなるだろう。

 現状を維持するのなら、協力するべきではなかった。


 ――かといって、賢者の気まぐれがいつまで続くかわかったものではないですし……。


 宮廷道化を解任されたなら、これまで恨みを買った誰かに殺されるだろうと思われた。

 花川は調子にのりすぎたのだ。

 なので、保険として重人との協力関係を築いておくのも悪くはない。


 ――ですが、その協力そのものが拙者の立場を危うくするかもしれんでござるしなぁ……。


 ぐしゃり。


「ぐしゃり。って、うん?」


 重人の後頭部に足がのせられていた。

 先ほどの音は、後頭部を踏みつけられ、顔面の骨が砕けた音らしい。

 花川は、足の主を見るべく頭を上げた。

 女の子だった。

 身の丈にあっていないダブついたドレスを着た美少女が、重人の後頭部を踏みつけているのだ。


「これが気に入らないなら、いくらでも痛めつけてもらって結構です。なんなら私がやってあげましょう」


 がしがしがしと、少女は花川の返事も聞かずに何度も重人の頭を踏みつけた。


「ちょっ! ちょっと待つでござる! どこから、いや、そもそもあんたは何者でござるか!?」


 少女の足が空中で止まった。


「私はナビー。あなたが言うところの信用ならない攻略本が人の形を取ったものです」

「ず、ずるいでござるよ、三田寺殿! なんで、擬人化美少女パートナーなんていう美味しいことになってんですか!」

「多分、もう返事できない状態だから何を聞いても無駄じゃないでしょうか?」

「わかったでござる! 話は聞きますから、やめるでござるよ!」


 踏みつけを続行しようとしたナビーを花川は止めた。

 唐突な暴力に混乱した花川は、そう言うしかなかったのだ。


  *****


 花川、重人、ナビーの三人はテーブルについた。

 重人の怪我は花川が治した。そのままでは話ができる状態ではなかったからだ。


「むちゃくちゃすぎんだろ……」

「花川さんに話を聞いてもらうにはこうするのがよいと預言が。実際、話を聞いてもらえる姿勢になったでしょう?」


 重人がぼやくように言うが、ナビーには気にしたそぶりもなかった。


「話は聞くでござるけど、協力するかは話次第でござるよ?」

「ああ、それで構わない」

「すでに協力してもらってるようなものですけどね」

「と、言いますと?」

「四天王のレナが城の外に生活の場を移しました。これは、花川さんがセクハラ行為をしつこく頻繁に行われたためですよね?」

「おお! 拙者もなかなかやりますな!」

「帝国幹部が逃げだすほどのセクハラってなんなんだよ……」

「城の警備は厳重ですので玲さんが中にいる限り私たちでは手も足も出ません。ですが、これで救出できる可能性が出てきました」

「なるほど。では、三田寺殿は拙者に感謝すべきですな!」

「セクハラしまくってくれてありがとうってか?」

「然り!」

「……助かったよ、ありがとう……」

「棒読みですが、まあよいでしょう」

「そして、花川さんにはその調子でいってもらえればありがたいです」


 ナビーは一枚の紙を取り出した。

 折り畳まれていたそれを広げると、テーブルを覆うほどの大きさになった。


「それは?」

「ルナ、レナ、アビーの城外での拠点を記した地図です」


 帝都の全体図だった。

 いくつかの場所に記号や文字が書き入れてある。


「おお! 彼女らがどこに行ったかわからず困っておったのですよ! これは預言の力でござるか?」

「はい。紙ならいくらでも出現させられますし、データの一部を転写することも可能なのです」

「大したものでござるなぁ」

「これをあげます。協力といっても花川さんに危険なことをしてもらいたいわけではないんです。あなたにはこれまでどおりの行動をお願いしたいだけですから」

「といいますと?」

「花川さんにはこれまで通り、帝国幹部の女性にセクハラを続けてほしいのです」

「なるほど。その混乱に乗じると」

「混乱が起きるほどのセクハラってなんだよ」

「しかし、でしたらレナ殿の居場所だけでいいのでは?」

「万が一ですが、レナが目的だと悟られるのは困るのです」

「なるほど。いつも通り、拙者が彼女らにちょっかいを出そうとしてるだけと思わせたいのですな!」


 今の話を聞いた限りでは、特別危険なことはなさそうだった。

 玲に接触しろだとか、助けてこいだとか、レナの屋敷に侵入できるように計らえだとか言われれば困るが、花川は今まで通りの行いをするだけでいいのだ。


「わかったでござる! 拙者としましてもたとえ悪の帝国の幹部とはいえ、麗しきレディの方々に嫌がらせまがいのことをするのは心苦しいものが多少はあったりするのですが、三田寺殿と玲殿のためですから仕方がないでござるよね!」

「お前……押さえ付けられてなきゃひでえな……野放しにしちゃだめな奴だろ、こいつ……」


 花川は、地図を懐にしまい込んだ。


「しかし、三田寺殿たちは賢者を倒すつもりでこの国へとやってきたわけでござるよね? 今さらそれは無理として、今後はどうするのです?」


 玲を救出するのはいいだろう。では、救出できたとしてその後どうするつもりなのかが花川は気になったのだ。


「そりゃ……」

「倒しますよ」


 三田寺は言い淀んだが、ナビーに迷いはなかった。


「え? いや、でもお前。ラグナが瞬殺されるんだぞ。勝てるわけないだろうが!」

「そ、そうでござるよ? 玲殿を助けられたなら逃げたほうが良いでござる!」

「ですが、どこにいっても賢者が支配しているこの世界でどこに行くというのでしょう?」

「でも、お前は玲を助けたいっていったとき、逃げた方がいいとか言ってただろ!」

「それは、一度逃げて態勢を整えろと言いたかったのですが。逃げ続けてどうなるというのですか?」

「ちょっと待てよ! お前は預言書だろうが。勝手に俺の目的を決めるなよ!」


 賢者と戦う気などすでにないのか、重人は苛立ちを混じりに言った。


「それは失礼いたしました。ですが、私にも預言書としての本能があります。主を最終目的まで導くという性があるのです」

「いやいやナビー殿。そうは言いましても、ヨシフミ様に勝つなど到底不可能ですよ。拙者も何か隙があればとは思って見ておりましたが、さすがの拙者にもどうすることもできず」

「隙があったからってお前に何ができるんだよ」

「いえ。ヨシフミだけにとどまらず、他の賢者が相手でも勝てる可能性はあるのです。そのために必要なのが、世界剣オメガブレイドです」

「あ、そーいや、そんな中二病チックな剣の話をしておりましたな。確か、この国にはそのオメガブレイドのためにきたとか。いや、でも、そんな剣の一つや二つで賢者に勝てるようになるのでござるかねぇ?」

「はい。そのためのオメガブレイドですね。これさえ入手できれば後はどうにでもなります」

「そーいや素材を集めてましたが、それはそろっているのでござるか?」

「あれらは、オメガブレイドがある場所に到達するための鍵となるアイテムですね」


 どうもそれ以上詳しく言うつもりはなさそうだった。


  *****


 花川は、城へと帰ってきた。

 幹部達の城外での拠点はわかったが、今日は色々とあって疲れている。

 何かするにしても明日以降になるだろう。

 花川は与えられた部屋に戻り、ベッドに横になった。

 目をつぶるとすぐに眠気がきた。


「……ん? なんでござるか?」


 気付けば花川は、真っ白な空間にいた。


「夢でござるかね? やけに早く寝てしまった気はするのですが」

「マルナリルナである」


 ひげ面の老人が正面に立っていた。


「は? なんでござるか?」

「私は神だ」

「ははぁ。あれでござるか。異世界転生ものの序盤で力をくれたり……ってもう散々異世界で苦労したあとなのですが!」

「何を怒っている?」


 花川が突然怒り出すとは思っていなかったのか、マルナリルナを名乗る老人は首を傾げていた。


「大体ですよ! ひげ面のじじいが神とかってやっちゃだめでござるよ! ここはベタではありますが女神が登場する場面でござるよ!」

「そうなんだー。おじいちゃんはいやなんだー」

「そうなんだー。女神の方がいいのかー」


 突然、マルナリルナは子供のような声を発した。

 そして、二つに分かれた。


「いやー。みんなマルナリルナって名乗ったらこーゆーもんだと思ってるから、今までそんなこと言われたことなかったよー」

「もしかして、女神だって知ってたー?」


 老人はいなくなり、同じ顔をした可愛らしい少女が二人、花川の目の前に立っていた。


「え? どうなって……」

「マルナです!」

「リルナです!」

「二人あわせて、マルナリルナですっ! いぇい!」


 二人はお互いの手を叩き合わせた。

 とても、息が合っていた。

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