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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。 作者:藤孝剛志

第7章 ACT1

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7話 この世界、こんな奴ばっかだな!

「と、とにかく急いで戻らないと! 行くわよ!」

「なんで?」

「え?」


 ビビアンはこのまま皆で駆けていくつもりだったのだろう。呆気に取られた顔になっていた。


「山を登って疲れてるんだ。なんで、特に関係の無い街の火事に慌てて駆けつけなきゃならないんだよ」

「この……っ! やはり極悪人なのね、タカトーヨギリ! 普通、こんな場合は消火活動を手伝ったりするものでしょうが! もういい!」


 そう言い捨てて、ビビアンは凄まじい速度で山を駆け下りていった。

 使徒の能力は総じて高いのだろう。


「高遠くん……今のはちょっと……」

「いや、でもあの速度についていけないだろ?」

「そうだけどさ。もうちょっと言い方とかさ」

「なんとなくなあなあになってたけど、あいつは俺の命を狙う敵なんだから、馴れ合ってる場合でもないような」

「そうだった。つい仲間感覚だったけど……」

「だが、あの街で何が起こっているのかは気になるところではあるな。そこでだ」


 槐の足元から黒い影が伸びていき、板状になっていった。

 槐が装備している触丸を変化させたのだ。


「自動車のようなものを作るのは難しいが、山を下るだけの乗り物なら比較的簡単に作れるのでな」

「ソリみたいなもんか」


 夜霧は触丸の上に座り込んだ。

 槐と知千佳も乗り込むと、触丸は坂を勢いよく滑りはじめ、あっという間に山を下りきった。


「上りの苦労はなんだったんだ……」

「上るには使いにくいのだがな。瞬間的に力を発揮することはできるが、持続させるのが難しい」


 街は丸太でできた防壁に囲まれていた。石材ほどではないとしても、なかなかに頑丈そうではある。


「中も同じような感じならよく燃えそうだ」

「すごい裕福って感じはしないね」

「入り口はあれか。壊れてるな」


 門も丸太で作られていたようだが大破していた。そのため、出入りは自由な状態になっている。


「街が何かに襲われてるってこと?」

「煙も出てたし、その可能性はあるね。とにかく中に入ってみるか」


 夜霧たちは、門を通り町の中へと入った。


「アホっ! 本当にアホっ!」


 ビビアンが、ふくよかな女性に怒られていた。


「あ、その、タカトーヨギリ反応が……」

「なんだか知らないけど、門を壊して出ていくってどういうことだい!」

「いや、それは、一人だと開けられないから……」

「結界が壊れたのもあんたのせいか!」

「その、私、無敵だから、結界とかも無効で……」

「祭壇が燃えだしたのは結界の術が破られたからだよ! なにしてくれてんだい!」

「や、その、こんなことになるとは……」

「大体、あんたは外出禁止だろうが! なにしてくれてんだ! なんで、このタイミングで出ていっちまうんだ! バカ! アホっ! このバカ!」

「うううぅ……ごめんなさい、マーヌおばさん……」


 ビビアンは涙目になっていた。


「まあ、大火事って雰囲気でもないのか。鎮火に向かってる?」


 街の中は、燃え広がって大惨事ということはなさそうだ。

 街のどこかから上がっている煙も収まりつつあった。


「しかし、この空気どうしたらいいんだろ。下手に声をかけづらい……」

「とはいってもここでぼーっとしてるわけにもいかないだろ。あの、すみません」


 夜霧は、ビビアンを叱っている女性、マーヌに声をかけた。


「なっ! なにもんだい、あんたたち! もしかして冒険者かい!」

「違うわ! そいつこそがタカトーヨギ――」

「あんたは黙ってな!」

「あ、はい」


 何者かと問われ、夜霧は返答に困った。

 ビビアンから聞いた話によれば、この西エントはほとんど隔離されているような場所だ。

 たまたまここに流れ着いたと言っても、海の化け物がいるためその説明では苦しい。

 つまり、よそ者がやってくるだけでも怪しいのだ。


「船が難破して、流れ着いたんだ。で、ビビアンに出会ってここまで案内してもらうところだった。冒険者ってのじゃないよ」


 しかし、ごまかしようもないので夜霧は正直に答えることにした。


「他をあたりな。この街は今立て込んでるんでね」

「おおう、ここまで拒絶されるとは!」

「歓迎されないってなら、仕方がないね」


 だが、最低限の情報はビビアンから入手できたのでそれでよしとするしかないだろう。

 帝都に行きたいなら、とにかく東に行けばいい。

 ここは西エントの南側とのことなので、海さえ見えれば大体の方角はわかる。

 エルフの森は難所らしいが、何かが襲ってくる程度のことなら対処は簡単だ。


「じゃあね」


 一応ビビアンに声をかけて、夜霧たちは街をでるべく踵を返した。

 門をくぐって人がやってきていた。

 四人の男女だ。

 夜霧は、一目見て彼らが先程の話に出てきた冒険者なのかと思った。

 皮鎧を身につけ、腰に剣を帯びている男。

 フード付きのローブで顔も体も隠すようにしている男。

 杖を持ち、つば広の三角帽子を被った女。

 白いゆったりとした祭服らしき服を着た女。

 おそらくは戦士、盗賊、魔法使い、僧侶の四人組。ゲームに出てくるような冒険者パーティを思い浮かべたのだ。


「よお、姉ちゃん。ここはなんて街だ?」


 戦士が知千佳に話しかけた。


「え? 街の名前とか知らないですけど?」

「はぁ? おいおい、それじゃクエスト開始できねーんだけど? 街の入り口にいるやつは、ここはなんとかの街でーす。って阿呆の一つ覚えみたいに返事しろよ」

「この世界、こんな奴ばっかだな!」


 夜霧もまたなのかと男たちを見た。

 この世界では、自分の都合や価値観を一方的に押しつけてくる、話の通じない奴らが頻繁に出てくるのだ。


「ねえ? 西の方々はクエストに協力してくださるんじゃなかったのかしら? まともにお返事もできないということでしたら、この街は闇の勢力の支配下にあると報告させてもらいますけど? その場合、闇の拠点を叩き潰せ! みたいなクエストが発生しちゃわないかしらねぇ?」

「……ここは、カダンの街だよ……」


 魔法使いらしき女が聞くと、渋々という様子でマーヌが答えた。


『緊急クエスト、王家の残党を殲滅せよ! ミッション1”カダンの街に行け!” を達成しました!』


 すると、どこからともなくそんな声が聞こえてきた。


「なんなんだいそれは! 話が違うじゃないか!」

「残念ながら、どちらにせよこの街は無事ではすまない感じですねぇ。ああ、もちろん王家の残党の方々の首に縄をかけて引きずりだしていただけるのなら、一番面倒がなくて済むかと思いますけど? このクエストの最終目的は、この街に潜む王族の方を始末することですから、王家と関係のない方に被害は及ばないかなぁと」


『緊急クエスト、王家の残党を殲滅せよ! ミッション2”王家の残党を発見せよ!” を達成しました!』

「ん? なんか勝手にミッション2もクリアになってるんだが?」

「でしたら、私たちの視界にいる彼女らの中の誰かが王家の残党ってことなんじゃないですか?」


 戦士の疑問に魔法使いが答えた。


「この中で?」


 戦士が、その場にいる者たちを見まわす。

 視線が、夜霧、知千佳、ビビアン、マーヌと動いた。この場にいるのはこの四人だけだ。


「王族ってことは見た目がいいんだよな? ありえそうなのは……こいつか? 姫っぽいだろ?」


 少し迷った末に、戦士は知千佳を指差した。


「え? 姫だなんて、そんなんじゃないんですけど!」

「壇ノ浦さん。なんだか、嬉しそうだね」

「まあ、世が世なら壇ノ浦一族の姫ではあるのだが」

「なんでよ! 私のこの高貴な面立ちを見てわかんないってどうかしてるわ!」


 ビビアンがいきりたった。


「なに自分でばらしてんだい! このアホ! バカ! アホ!」


 マーヌの罵倒にバリエーションはなかった。


「えーと、なんなのこの状況……」

「自分も狙われてるじゃないか……。俺を倒すとか言ってる場合なのか?」

「うむ。関わらずに、とっとと目的地である帝都へ向かうのがよいのではなかろうか?」


 ビビアンは王族だったらしく、冒険者に狙われているらしい。

 冒険者は帝国の手のもので、王家の生き残りを全て始末するつもりなのだろう。


「いやいやいや。ここは悪の帝国に狙われてる亡国の姫を助けるみたいな話にならないのかな!?」

「そう言われてもな。そのお姫様ってあれだろ? いまいち助けたくならないっていうか、さっきの話が本当なら助ける必要ないんじゃないか?」


 冒険者たちの実力は定かではないが、ビビアンは無敵の防御能力を誇っている。

 ならば、心配する必要はないのだろう。

 夜霧は、門へと歩き始めた。


「あら? 見逃すと思って? 誰が王族か確証がないわけだけど、この四人の中にいることだけは間違いないんだから」


 魔法使いが、杖を夜霧に向ける。

 とりあえずこの場にいる者を全て始末するつもりなのだろう。

 だが、魔法使いはその場に崩れ落ちた。

 殺気を感じ取った夜霧が、先に倒したのだ。


「な!?」


 残りの三人が驚愕に固まる。

 ここまでなんの前触れもなく、やられるとは思ってもいなかったのだろう。

 そして、その隙をついてビビアンが動いた。


「チェーンソーシールド!」


 盾を投げたのだ。

 盾が唸りを上げて冒険者たちに襲いかかる。

 その派手な音は、盾が空気を裂くものだけではない。

 チェーンソーだった。

 どういうわけか、盾の縁に生えた無数の刃が駆動音と共に回転しているのだ。

 盾は、戦士の革鎧を引き裂き、僧侶の防御魔法を貫いた。

 盗賊は地を這うようにしゃがみ込んで盾を躱し、あっさりと逃げ出した。


「待て! 逃がさな――ぎゃあ!」


 ビビアンは戻ってきた盾を顔面に食らっていた。


「あー、ブーメランだって言ってたもんね……」

「さしずめ、ブーメランチェーンソーシールドだな」

「それは、自分で制御できんのだろうか……」


 ビビアンは無傷だったが、飛んでくるチェーンソーシールドをまともに受けて面食らったのだろう。

 その場にしゃがみ込み呆然とした様子になっていた。


「あっちは即死か」


 戦士と僧侶は上下に分断されていて、生きている様子はなかった。

 やってきた時には随分と余裕の態度だったので、まさか王族がここまで強いとは想像もしていなかったのだろう。

 クエストなどと言っていたから、あらかじめ難易度のようなものが設定されているのかも知れないと、夜霧は想像した。


「まあ、なんにしろ、この街に歓迎されてるんじゃないんだから、さっさと次に向かおう」

「待ちな」


 再び街を出ようとすると、マーヌが言った。


「なに?」

「知られちまったからには、帰すわけにはいかないね」

「すでに逃げ出した人もいるけど?」


 それにクエストだと言っていた。

 この街に王族がいることを知っている者はかなりいるのではないかと推測できる。


「あいつらがなんなのかはわかってる。けど、あんたたちのことはよくわからない。ここで逃がした後の動向が読めないんだ」

「別に言いふらしたりはしないけど……わかったよ。とりあえずはどこか落ち着けるところに案内してくれないかな」


 マーヌに戦闘力はなさそうなので無視して出ていくのは簡単だろう。

 だが、もともとは街で情報収集するつもりだったのだから、街に滞在できるのならそれも悪くはないと夜霧は判断した。


「うちにきな。悪いようにはしないよ」


 マーヌも、夜霧たちを悪人と思っているわけではなさそうだった。

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